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善人だけの世界

少女たちの過去2

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「町を守る僕たちへの支援がこれか。将軍様も優しいね」
「腐らないで、船があるだけマシだよ」
「ミユは前向きすぎる。不安があるならぶちまけていいんだよ」
「そんなもの言っても何にもならない。今日も頑張ろうね」
「……うん」

コトネはミユの誠実で何にでも真摯な態度が好きだった。
2人は小舟に乗り込み、海の上を進みだす。
コトネはオールを漕ぎ、ミユは集中力を高めた。
目的地である島は、そこまで遠くない。
30分ほど漕ぐと到着した。
海の中にポツンとある小さな島に上陸した2人は、まずは敵がいないか確認する。
視認できる限りでは、妖は見当たらない。

「ここだよね?」
「うん。ここにいる妖が町のほうまで出歩いてるらしいよ」
「そんなに強くないの?」
「聞いた話だとお侍が倒したらしいけど……」
「そこらの侍にやられるようなら何とかなるか……じゃあ僕たちじゃなくてもよかったんじゃないか?」
「将軍様の命令だよ。どんな理由があっても断るなんて出来ないでしょ?」
「まぁそうだけどさ」

ミユとコトネは島にある山の中に入った。
木々によって夕暮れの光が遮られ、鬱蒼としてジメジメしている。

「なんで今更妖退治の依頼がきたんだろう?」
「最近妖が出現したらしいよ。それまで単なる島だったらしいんだけど」
「ふーん。なんでだろうね」
「さあ?美味しい食べ物がたくさんあるんじゃない?」
「木の実とか?妖って美食家なのかな?」
「美味しくないものよりも美味しいものを食べたいのは人も妖も変わらないんじゃないかな」
「それもそうか……」

呑気な話を続けているうちに、2人は山頂に辿り着いた。
妖の気配はいまだない。

「どこにいるんだ?」
「うん、全然姿が見えない」
「少し休憩しようか」

2人は小さな岩に腰を下ろし、持ってきていたおにぎりを食べ始めた。
もぐもぐと米を咀嚼して、空を見上げる。

「美味しい」
「ありがとう。それにしても……」
「ん?」
「なんか馬鹿らしいよな。縁もゆかりもない町のために僕たちが命を張るなんて」
「それは違うよ」
「ミユの言いたいことはわかるよ。でも村の連中にいいように使われてきた。これまでこれからもだ、そんなの悲しいじゃないか。ミユにも自由に生きる権利がある」
「例え自由になっても、私の生き方は変わらないと思うな」
「君は真っ直ぐすぎるな」

皮肉にも賞賛にもとれる口調でコトネは言った。
ミユは「そうでしょ?」とややおどけながら返す。

「妖が出てこないね」
「うん……でも何か変なんだ」
「何が?」
「さっきから集中して気配を感じ取ろうとしてるんだけど、何かに……邪魔されているような気がするの」
「……何か?」
「分からない。でもこの島に入った時から違和感を感じた。なんていうか……この島が喜んでいるような……」
「島が喜ぶ?変な表現だね」

そうこう話していると、ミユとコトネは同時に人ではない気配を感じ取り、戦闘態勢に入った。
目を鋭くし、木の上にいる多数の妖を見上げる。

「流石に大量だね……これ全部退治するのは骨が折れそうだ」

コトネは親指で少しだけ刀を抜いた。
キョロキョロと周りを見る。
多種多様な姿の妖……ミユの心はもやついた。
普通妖同士も敵対することが多く、縄張り意識だって強い。
それなのに、この狭い中にこれだけの種類の妖がいることが不自然だからだ。
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