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善人だけの世界

インチキ宗教をやっつけよう2

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「メビーラ教って宗教知ってるかい?」
「確か……ウルクス神だかなんだかを信仰してる平和がモットーのやつらだろ?歴史もまあまあ長かったはずだ」
「流石、よく勉強しているね」
「で?それがどうした?」
「ふむ、そのメビーラ教の教団がとある島で拠点を作って生活しているんだ。教えを広めながらね」
「へぇ、熱心なことじゃねぇか」
「それが問題なんだよ」
「あん?」
「熱心すぎるんだ。その教団は手当たり次第に町や村に足を運んで布教してる。そして彼らが訪れた場所は、気味悪く思えるほどみな教えに染まるそうだ」
「ほお」
「やり口としては単純だよ。えっと……シスターデロリスだったかな?リーダーであるその女性が有力者に話すんだ。自分たちが信じているメビーラ教がどれだけ素晴らしいかをな」
「それで?」
「で有力者がこの教えは素晴らしい!もっとみんなにも広めよう!って感動して住人たちに率先して教えを説いているんだ、教団の人間と一緒にね」
「だから?」
「おかしいだろう?少し話しただけで自分の価値観を覆すか?デロリスが訪れた町や村は、今確認できるだけでも全てメビーラ教を崇拝し始めているんだ。どう考えたって変だ」
「その宗教の教えがよっぽど胸に響くのか、そのデロリスって女がよっぽど口が達者なんだろ」
「君冗談はやめてくれよ。何か秘密があるはずだ。このまま行くとあの教団はその国全体、いや世界全体に自分たちの神を広めるかもしれない。国も危惧しているがいかんせん違法な行為をしていないので手が出せない状況だ」
「別に人が何を信じようが勝手だろ。それに1つの宗教が世界をどうこうできるわけねぇ。放っとけよ」
「そういうわけにはいかないんだよ国は。メビーラ教は慎ましく生きることを教えている。過度な娯楽や贅は控えなさいってね」
「だから?」
「経済が回らなくなるだろ」
「ねぇマギー。仕事の内容って?」

長話に飽きたテンが口を開いた。
マギーは「コホン」と咳払いする。

「まぁ前情報はこのくらいでいいだろう。仕事がきてるんだ」
「政府からか?」
「まだお役人が裏の人間に頼む段階ではないよ。ある貴族の男からの個人的な依頼だ。その男にはひとり娘がいるんだけどね、彼女は少し遠くに旅行に行ったんだ、もちろん護衛をつけて。で帰ってこなくなった」
「それがさっきの教団となんの関係がある?まさかその娘もメビーラ教に心酔してシスターについて行ったっていうのか?」
「その通りだ」
「そうなのか……」

予想はしていたことだが、フェスターは呆れて煙草の煙を吐いた。

「男の家に娘からの手紙が届いたそうでね。素晴らしい出会いをして人生観が変わりました。私は新たな仲間たちと一緒に世界を救う活動をします、みたいな内容だったらしいよ」
「手当たり次第だなその教団」
「ああ、だが違法ではない。みな無理やり誘拐されたわけじゃなく、自分から入信しているのだからね。だから兵士を動かして強引に教団を解散させるなんてことはできないんだ」
「それでお鉢が回ってきたわけか」
「ああ。依頼内容は依頼主の娘を連れて帰ることだよ。引き受けてくれるかい?娘の顔写真はあるし、教団の本拠地も分かっている。そんなに難しい仕事ではないと思うよ」
「報酬はいくら出すんだ?」
「男は娘を助けてくれればいくらでも払うと言っている」
「ふんだくれるわけだな」
「その通り。家族に値段はつけられないからね、美しい話じゃないか。で引き受けるんだろうね?」

マギーはやや身を乗り出して、フェスターに確認した。
その顔はギラついていて少し不気味だ。

「やけにグイグイくるな」
「彼はけっこう金持ちの貴族だからね。パイプを作っておきたい。彼の住む地域で商売ができるようになるかもしれないしね。あと紹介手数料が私の懐に入る。誰かに先を越されたくない」
「たくましい性格だな。まっいいぜ、やってやるよ」
「おお!そう言ってくれると思ったよ。なに心配するな。世界平和を謳っているような連中だから荒事にもならないだろう、たぶんね」

そう言ってマギーはニヤリと笑う。
含みのある態度を訝しんだフェスターは口を開いた。

「なんだよ、なんかあんのか?」
「いやいや。ただ……デロリスというシスターは魔女だという噂があるんだよ」
「……あ?」

楽しそうに笑みを浮かべるマギーと違い、フェスターの面持ちは真剣そのものだった。

「……魔女なのか?そいつは」
「ただの噂だよ。こんなにも迅速に、かつ順調に人の心を掴んでいるんだ。洗脳でもしている魔女じゃないかって話が広がってる」

フェスターは俯いてしばらく考え込んだ。
その態度にマギーだけでなく、テンまでも疑問を抱いた。

「おいどうした?そんなに悩むなよ」
「考えさせてくれ」
「なに?大丈夫だって。魔女だって証拠はないし、仮に魔女でも君たちならなんてことないさ」

フェスターは何も言わずに立ち上がり、テンに声をかけた。

「行くぞ。2、3日以内には返事をする」
「ま、待ってくれよフェスター」

マギーに背を向けた彼は、重い足取りで部屋を出た。
ポカンと口を開けていたテンだが、すぐにフェスターの後を追った。

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