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善人だけの世界

おでんを食べよう1

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「あっ!美味しい!」
「いい加減にしろよお前。店の食いもん食い尽くす気か?」

カジノを出た後、テンとフェスターは屋台の席に座っていた。
ひとつ目の亜人は、次々と注文するテンに答えて、商品であるおでんを皿の上に乗せ続けている。

「ほんとに美味しい!これおでんって言うんだよね?」
「珍しいでしょう?ヤマトの料理なんですよ」

亜人は愛想良く答えた。
テンは首を捻る。

「ヤマトって……どこだっけ?」
「比較的小さい島国だ。鎖国しててほかの国との交流を持たない酔狂な国だよ」
「へぇ、変わってるね」
「未知の国ってことでほかの国が交易を求めたり、攻め込んだりしたんだが全部追い払ってるらしい。ランファンも返り討ちにあったって聞いたぞ」
「ランファンもけっこう大きいのに。ヤマトって国強いんだね」
「強いというより野蛮だな。ほかの国と戦争しないときはいつも自分たちで争ってるそうだ。どうして潰れないか不思議だよな」
「フェスターの旦那は情報が古いですなぁ」
「なんだお前、偉そうに」

フェスターがムッとすると、亜人の店主はニコニコと笑う。

「もう鎖国なんて過去の話でさぁ。10年くらい前に国を治めた将軍ってのが現れたんですよ。国の長が決まったってんで今は他国と貿易して特産品や文化、技術の交換なんかやってますよ」
「ほぉ、初耳だな。今そんなことになってるのか」
「このおでんだって国を開いてくれたから流れてきた調理方法です。物珍しさにお客もたくさんきてくれますよ」
「商売上手だね大将」
「ふへへ、あっしなんざまだまだでさぁ。あっ旦那とお嬢さん、いい酒が入ったんですよ、飲みます?」
「おっ酒か?もらおう」
「私はお酒は苦手だな」
「そう言わずに、ヤマトの酒ですぜ?熱いこれを飲むと最高でさぁ」
「そこまで言うなら」

店主は温めていた燗酒が入ったとっくりを2本テンたちに出した。
フェスターは一気にごくごく飲み、味を確かめる。
ほのかな甘さと少しの苦みが口の中に広がり、確かな温かさが体の内側から外に広がる。
珍しい味だが、彼の嫌いな味ではない。

「いけるなこれ。もっとくれ」
「へいへい」
「ほんと、飲みやすいよ。美味しいし。食欲も湧いちゃうね」
「お前はもう食うなよ。この屋台に貢ぎ過ぎだぞ」

テンはフェスターの言葉を無視し、おかわりを注文する。
店主は四角タイプの金属の鍋でぐつぐつと茹でられているおでんの盛り合わせを出した。
そしてすぐに燗酒のおかわりもフェスターに出す。
テンは玉子や大根、ちくわなどに舌鼓を打ち、フェスターは水のようにがぶがぶと燗酒を胃の中に流し込んだ。
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