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善人だけの世界
宗教入門2
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「あなた方の服、今洗濯していますのでそれで我慢していただけますか?」
ミユとコトネはデロリスに貸し出された白いローブを着用していた。
この村に住む住人も同じものを着ているようだ。
「我慢だなんて。貸していただいた上に洗濯までしていただき申し訳ありません」
「気にしないでください」
「あんた……この島のリーダーみたいだけど、あんたたちが信仰している宗教はどんな内容なんだ?」
コトネが質問すると、デロリスは顎に手を当てながら答えた。
「私たちが信仰するのはメビーラ教。ウルクス神の教えです。ウルクス神は平和と共生を司る神様ですね」
「じゃあ世界が平和になればいいなって思って活動してるのか?」
「簡単にいえばそうですね」
「具体的にはどんな活動してるの?」
「まずは節制と感謝を私たちは徹底しています。私たちはこの世界で生まれ、生かされてきました……自然の恵みと糧となる生物に。本来ならば人が生きるためには飢えを最低限しのげればいいのです。それが人が世界と共生するための敬意……ですが残念ながら欲というものはなくなりません。動植物の乱獲や自然破壊、さらには人同士の対立と殺生……本当に嘆かわしいですよ。私たちは手をとって生きることができるはずなのに……」
「慎ましく暮らしましょうってみんなに説いてるのか?」
「ふふ、まぁそうですね。それに悪の完全な排除です」
「どういうことですか?」
「悪の正体について考えたことはありますか?」
「そうだな、意味もなく人を殺すやつとか人の金を……盗んだりするやつ?」
やや自信なさげにコトネは言った。
デロリスの目が真剣になる。
「悪とは欲望の具現化なのですよ。金銭のため、快楽のため、権力のため、劣等感のため、分かり合えないため、人を傷つけ、尊厳を犯す。全ての悪の起因は人の欲望なのです。当たり前のことだと思われるかもしれませんがこれは根強い問題なのです。大抵の人はそういうものだと諦めます。ですが考えてもみてください、欲望というのは他者との相対か己の堕落さによって生み出されます。外的な快楽や他者への嫉妬なく満たされていたならば、人は確固たる自分になれます」
「ん?……あ、ああ」
「それこそが私たちの目指す理想です。幸福というのは快楽ではない。他人を思いやり、他人に対しての献身さを失わない……これを守るだけで人の生は満たされたものになる。この世に住む人間、亜人たちが私たちと同じ考えを持てばどうなるでしょう?人が人を助け、また助けられた人が別の人を助ける。素晴らしい循環ではないですか」
「そ、そうですね」
「我が主は言いました。この世に悪人など存在しないと。存在するのは人の欲と残酷な世界だけだと。人はこの世に生まれながらも、この世によって変化してしまう。生き抜くために、私欲を満たすために、己を抑えられないがために、利便性を追求し、富を求め、そして他者の支配と排除を望みます」
淡々とそれでいてヒートアップしていくデロリスの語り口に、ミユとコトネの顔が引きつる。
「我が主は言いました。おお!なんと恐ろしく愚かな人類なのでしょう!そして主は、己の処刑を見物しにきた人間たちに怒りをぶつけました。この世界は守られていない!所詮、お前らが生まれた理由は天の施しに過ぎないからだと。どうして世界がお前たちを守る?お前らは自分らの役割を捨て、自然を犯しねぶっている。どうして世界がお前たちを許すと思う?お前たちは敵になったのだ!もはや生かしておく理由などない!私は恨みでお前たちを焼くのではない!決して私の痛みをお前たちに与えようという魂胆ではないのだ!天がそう願っているのだ!私はお前たちの手の届かない場所に行く!そして今度こそ思い出させる!お前たちのあるべき姿を、忘れてしまった自分を!悪を知ったお前たちをウブに戻す!それが私のやるべきことだ!」
デロリスの声色は変わり、おどろおどろしい低い声になっていた。
表情は険しく、顔にはいくつもの皺が刻まれ、顔は興奮で真っ赤になっている。
ミユとコトネはデロリスに貸し出された白いローブを着用していた。
この村に住む住人も同じものを着ているようだ。
「我慢だなんて。貸していただいた上に洗濯までしていただき申し訳ありません」
「気にしないでください」
「あんた……この島のリーダーみたいだけど、あんたたちが信仰している宗教はどんな内容なんだ?」
コトネが質問すると、デロリスは顎に手を当てながら答えた。
「私たちが信仰するのはメビーラ教。ウルクス神の教えです。ウルクス神は平和と共生を司る神様ですね」
「じゃあ世界が平和になればいいなって思って活動してるのか?」
「簡単にいえばそうですね」
「具体的にはどんな活動してるの?」
「まずは節制と感謝を私たちは徹底しています。私たちはこの世界で生まれ、生かされてきました……自然の恵みと糧となる生物に。本来ならば人が生きるためには飢えを最低限しのげればいいのです。それが人が世界と共生するための敬意……ですが残念ながら欲というものはなくなりません。動植物の乱獲や自然破壊、さらには人同士の対立と殺生……本当に嘆かわしいですよ。私たちは手をとって生きることができるはずなのに……」
「慎ましく暮らしましょうってみんなに説いてるのか?」
「ふふ、まぁそうですね。それに悪の完全な排除です」
「どういうことですか?」
「悪の正体について考えたことはありますか?」
「そうだな、意味もなく人を殺すやつとか人の金を……盗んだりするやつ?」
やや自信なさげにコトネは言った。
デロリスの目が真剣になる。
「悪とは欲望の具現化なのですよ。金銭のため、快楽のため、権力のため、劣等感のため、分かり合えないため、人を傷つけ、尊厳を犯す。全ての悪の起因は人の欲望なのです。当たり前のことだと思われるかもしれませんがこれは根強い問題なのです。大抵の人はそういうものだと諦めます。ですが考えてもみてください、欲望というのは他者との相対か己の堕落さによって生み出されます。外的な快楽や他者への嫉妬なく満たされていたならば、人は確固たる自分になれます」
「ん?……あ、ああ」
「それこそが私たちの目指す理想です。幸福というのは快楽ではない。他人を思いやり、他人に対しての献身さを失わない……これを守るだけで人の生は満たされたものになる。この世に住む人間、亜人たちが私たちと同じ考えを持てばどうなるでしょう?人が人を助け、また助けられた人が別の人を助ける。素晴らしい循環ではないですか」
「そ、そうですね」
「我が主は言いました。この世に悪人など存在しないと。存在するのは人の欲と残酷な世界だけだと。人はこの世に生まれながらも、この世によって変化してしまう。生き抜くために、私欲を満たすために、己を抑えられないがために、利便性を追求し、富を求め、そして他者の支配と排除を望みます」
淡々とそれでいてヒートアップしていくデロリスの語り口に、ミユとコトネの顔が引きつる。
「我が主は言いました。おお!なんと恐ろしく愚かな人類なのでしょう!そして主は、己の処刑を見物しにきた人間たちに怒りをぶつけました。この世界は守られていない!所詮、お前らが生まれた理由は天の施しに過ぎないからだと。どうして世界がお前たちを守る?お前らは自分らの役割を捨て、自然を犯しねぶっている。どうして世界がお前たちを許すと思う?お前たちは敵になったのだ!もはや生かしておく理由などない!私は恨みでお前たちを焼くのではない!決して私の痛みをお前たちに与えようという魂胆ではないのだ!天がそう願っているのだ!私はお前たちの手の届かない場所に行く!そして今度こそ思い出させる!お前たちのあるべき姿を、忘れてしまった自分を!悪を知ったお前たちをウブに戻す!それが私のやるべきことだ!」
デロリスの声色は変わり、おどろおどろしい低い声になっていた。
表情は険しく、顔にはいくつもの皺が刻まれ、顔は興奮で真っ赤になっている。
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