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善人だけの世界

ギャンブルをしよう2

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「36倍だな。換金しろ」
「あの……フェスターさん?」

ディーラーが恐る恐る申し出た。
額には冷や汗も浮かんでいる。

「なんだ?」
「あのぉ……あまりこういったことは申し上げにくいのですが……使いましたよね?」
「何を?」
「魔法を」
「なんのことかわからねぇな。因縁つける気か?」
「いえいえ!」

ディーラーや一部の客はフェスターが魔法を使えることを知っているし、それがどんな魔法なのかも知っている。
だが糾弾しようとしてもボコボコにされるだけなのであまり強く言えないのだ。

「この店は客が勝ったらイカサマ扱いするのか?上等な商売してるじゃねぇか、なぁおい!」
「め、滅相もない」
「なんか証拠あんのか?あるんだよな人を詐欺師呼ばわりしてんだから。ほらオーナー呼んでこいよ、お前俺がサマやったって確信してんだろ?なら何も怖がることねぇ、呼んでこい」
「そういうつもりでは……も、もう結構です。私の勘違いでした……」 
「もう結構ってなんだこの野郎。人様をクズ呼ばわりしておいてもう結構とはずいぶんな言い草だな」
「く、クズとは申しておりません」
「申してんだろ心の中で。それに俺はみなさんの前で言いがかりをつけられたんだ。ええ?そのことに関してはどう落とし前つけるつもりだ?」
「ほ、本当に申し訳ありませんでした!」

客たちに白眼視され、ディーラーは頭を下げ続ける。
ほかのカジノのスタッフたちもバツの悪い顔をしていた。

「本当に申し訳ありませんでした!」
「てめぇガキの喧嘩じゃねぇんだぞ。俺たちは金と人生賭けて勝負してんだ。それなのにお前らはごめんなさいで済ます気か?いいご身分だなぁおい!」 

フェスターは彼をしつこくネチネチと責め続けた後、店を出た。
ルーレットで勝った金と、詫び代として貰った金を数えながら……

「これでも足が出てるな……」
「あんなことしてよかったのかな……」
「人の金で負け越しといて何が『あんなことしてよかったのかな』だ。ふざけるな」
「でも可哀想だったよあの人」
「善人ぶるな。俺がイカサマしてるって分かってるのにあいつは謝ったんだぞ?そんなやつはハナからディーラーなんてやるもんじゃねぇ」
「そうなのかなぁ?」

テンは少しモヤモヤした心持ちだった。
地下街を歩いていると、香ばしい匂いがそこら中から漂ってくる。
テンのお腹がぐうと鳴った。

「お腹空いた」
「なんで腹が減るんだよ、アンデッドのくせに」
「なんか奢ってよ」
「散々カジノで金出しただろうが」
「いいじゃん!ザーズと戦って苦戦してたのは誰かなぁ?」
「ずっと恩着せがましく言ってるけど、お前だって俺がいなかったらやばかっただろ」
「そんなことは忘れた。さぁ食べに行こう!」

テンは強引にフェスターの腕を掴み、食欲を満たす店を探しながら楽しげに歩き始めた。


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