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屍人の王とキョンシー娘

英雄討伐9

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「その人どうするの?」
「研究に使う。これほどまで強い奴なら、強いアンデッドが作れるかもしれん」
「そんな……酷くない?」
「道徳に反するか?この世界じゃそんなこと気にしてられない。今日の戦いで分かっただろ」

淡泊に返したフェスターはビスケットに乗った。

「帰るぞテン」
「うん、帰ろう」

フェスターはテンの腕を掴み、引き上げた。
嘶くこともなく、ビスケットはのんびりと歩みを進める。
彼女の体で揺られながら、テンは落ちないようにフェスターの体を軽く抱いた。

「強かったね、ザーズ」
「ああ。報酬の交渉をしないとな」
「でも私たちも強いよ。アンデッドだし、最強なんじゃない?」
「不死身なくらいで最強なんて名乗れない。この世にはお前の想像もつかないような化け物がゴロゴロいる」
「そっかぁ。世界征服までの道のりは遠いね」
「ふっ、そうかもな」
「そういえばさ、あなたの魔法で剣とか浮かせられるよね?」
「ああ」
「ザーズの武器とか盾も操れたんじゃない?」
「あっ!忘れてたぁ!……なんてわけないだろうが。操れないんだよ」
「どして?」
「人が長年使ってたりとか愛着がありすぎるものってのは念がこもる。念がこもると力が宿る。魔力はその力に弾かれちまうんだ」
「意外に使えないんじゃないのその魔法」
「腹立つなお前」
「それとさ、ザーズに折られた剣とか武器をあんまり再利用してなかったよね?どして?ほかにも色々動かせそうな物があったのに」
「魔法ってのはデリケートなんだぞ。そうだな……だいたいナイフくらいの大きさが動かしやすいな」
「え?どういうこと?」
「だからあんまり大きすぎたり、小さすぎたりするのを動かすのは魔力と集中力を使うんだ。考えてもみろ。あいつを攻撃したいから自動で勝手に動いてね、なんて魔法はない。全部魔法の使い手がその存在を意識して、干渉するんだ。その1つ1つに魔力を通して命令するんだぞ?あまりにも操る数が多かったり、複雑な動きをさせるのはきついんだよ。ほかの魔法にも魔力は使うし、馬鹿みたいに無茶なことはできないんだ」
「へぇー」
「俺の大変さが分かったか?」
「うん。思ったより魔法は凄くないんだなってのが分かったよ」
「お前歩いて帰るか?」
「ふふふ……」

テンは肩を震わせて笑った。
つられてフェスターも笑ってしまう。

「まあでも……今日は俺1人じゃ危なかった。助かった状況もあったよ」
「あらあら素直だね」
「お前も俺にお礼を言え」
「言ってほしいの?お願いしますは?」
「くくく……ぶち殺したくなるような女だなお前」

全てが終わり、そして太陽は沈みだした。
黒に染まっていく空の下で、憎まれ口を叩きあいながら2人は帰り道を進んでいった。
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