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屍人の王とキョンシー娘
英雄討伐7
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「終わったんだね」
「ああ……」
フェスターはふらつき、膝をついた。
心配したテンは彼の肩に手を置く。
「大丈夫?怪我してるの?」
「俺はアンデッドだぞ?傷なんかどうってことねぇ……ただ魔力を使いすぎた。こんなに張り切るつもりはなかったんだが……英雄ってのは馬鹿にしちゃいけないな」
「少し休もう。もう終わったんだから」
フェスターを座らせたテンは、燃える基地をもう1度見た。
何かの意図があったわけじゃない、ただ胸騒ぎがしたのだ。
「ちょっと待ってよ……嘘でしょ?」
テンは目を疑った。
まだ炎の残る瓦礫や木材を押しのけて、1人の男が立ちあがったからだ。
ザーズはまだ死んでいない。
彼は確かな足取りで、鎧に火を灯しながらテンたちに近づく。
「俺はまだ死んでないぞアンデッド共よ!死ぬのは貴様らだ!!コンラッドの英雄から逃げられると思うなよ!!」
「フェスター……」
まだ生きている敵をどうするか……テンはフェスターを見た。
彼は項垂れていた顔を上げて舌打ちをする。
「やるしかねぇだろ」
「大丈夫……?」
「大丈夫に見えるのか?それよりお前は動けるのかよ?」
「まだ大丈夫だよ」
「じゃあ仕留めるぞ。気を引き締めろ」
フェスターは魔法を使おうとして、手のひらに炎を出現させたがすぐに魔法は消えてしまった。
ふらふらとたたらを踏み、膝に手を置く。
「くそ……」
「休んでて私がやるから」
「おい……無謀だ」
「調子が悪そうだなアンデッド!所詮貴様に出来るのはその程度……」
話している途中で言葉を止めたザーズに、テンは首を傾げた。
彼はキョロキョロとあたりを見回してそして身に着けている鎧を触り始める。
「体が熱いぞ……なぜだ?」
ザーズは鎧を燃やしている炎を手で払った。
だが炎は消えない。
彼はテンとフェスターを見ずに、さらに遠くを見つめ始めた。
「どういうことだ?俺は自分の妻子を殺したりしない……なぜそんなことを聞くんだ友よ?俺の妻と息子は死んだりしていないよ。俺はこの国を救った英雄だぞ?」
「何を……言ってるの?」
「やめろ!なぜ拘束しようとする!王に会わせてくれ!話せばわかってくれるはずだ!俺は何もしていない!俺に触るな!!」
ザーズはその場で腕を振って、何かを振り払うような動きをしている。
狂人のような変わり身を目の当たりにして、テンの思考が停止した。
「俺はこの国を守ったんだ!誰よりも祖国を愛し、命を削って戦ったのだ!それなのにこの仕打ちか!?貴様らに誇りはないのか!?王に会わせてくれ!私は仲間を殺したりしてないんだ!なぜ信じてくれない!!」
「フェスター……あれって」
「病の影響だろうな。もう人には戻れない」
「そんな……」
「やつは俺たちと会った時から狂っていた。分かり切っていたことだろ」
「……うん。倒してあげよう……もう取り返しがつかないのなら」
「ああ……息の根を止めるぞ」
テンとフェスターは決意を固めた。
ザーズはいまだ彼にしか見えない幻影を追い払おうとしている。
「貴様らがその気なら……俺も抵抗するぞ。頼むから降参してくれ。お前らを殺したくない!!」
テンはもう何も喋らなかった。
彼女は走り出し、大きく跳びあがる。
空中で回転し、勢いを殺さぬままザーズの脳天にかかと落としを叩きこんだ。
そのまま空中で体勢を変えたテンは、回し蹴りを2撃目として頬にかまそうとした。
しかし盾に防がれて上手くいかない。
ザーズは剣を振り下ろす。
その攻撃をステップで避けたテンは、邪魔な盾を両手で握りしめた。
「ふぬ……ふぬぬぬ!!おらぁ!!!」
顔を真っ赤にしながら、彼女は己の怪力を存分に盾に伝えた。
その力は十二分に伝わり、長年英雄を守ってきた盾はへし折れて2つの金属となる。
これでもうテンの攻撃は邪魔されない。
テンは思い切り彼の脛を蹴って、ガクンと頭を下げさせる。
少しジャンプして、そして体を後ろに逸らし、勢いをつけた頭突きを放った。
硬い頭の一撃を受け、流石のザーズもふらつき、膝をつく。
地面に着地したテンは、まず彼の顔目掛けて膝をぶつけた。
そして何発かのパンチを顔に叩きこみ、不規則な軌道のブラジリアンキックをまた顔面に当てて距離を離した。
ザーズの兜の亀裂がメキメキと音を立てて広がる……
テンは華麗な動きで動揺するザーズの懐に潜り込んだ。
掌底で顎をかち上げ、ジャンプして肘で兜の鼻部分を刈り取る。
兜はさらにひび割れていく。
もう少しで割れると思ったテンは、拳を握りしめて渾身のパンチをお見舞いしようとした。
「どうして……俺をそんな目で見るんだ?」
「……え?」
ポトリと何かが地面に落ちた。
ザーズは剣を振り上げ、切っ先を太陽に向けている。
テンの腕の切断面から血がとめどなく流れ出した。
斬り落とされた自分の右腕を見下ろし、テンの頭が真っ白になる。
「うっそ……」
思考停止したテンの体を、ザーズは斬りつけた。
何度も何度も刃を浴びせ、血液を噴き出させる。
「フェスター……助けて」
呆然とする彼女は、無意識に彼の名を呼んだ。
頭を狙って振り上げられたザーズの剣が、まっすぐに迫ってくる。
「ああ……」
フェスターはふらつき、膝をついた。
心配したテンは彼の肩に手を置く。
「大丈夫?怪我してるの?」
「俺はアンデッドだぞ?傷なんかどうってことねぇ……ただ魔力を使いすぎた。こんなに張り切るつもりはなかったんだが……英雄ってのは馬鹿にしちゃいけないな」
「少し休もう。もう終わったんだから」
フェスターを座らせたテンは、燃える基地をもう1度見た。
何かの意図があったわけじゃない、ただ胸騒ぎがしたのだ。
「ちょっと待ってよ……嘘でしょ?」
テンは目を疑った。
まだ炎の残る瓦礫や木材を押しのけて、1人の男が立ちあがったからだ。
ザーズはまだ死んでいない。
彼は確かな足取りで、鎧に火を灯しながらテンたちに近づく。
「俺はまだ死んでないぞアンデッド共よ!死ぬのは貴様らだ!!コンラッドの英雄から逃げられると思うなよ!!」
「フェスター……」
まだ生きている敵をどうするか……テンはフェスターを見た。
彼は項垂れていた顔を上げて舌打ちをする。
「やるしかねぇだろ」
「大丈夫……?」
「大丈夫に見えるのか?それよりお前は動けるのかよ?」
「まだ大丈夫だよ」
「じゃあ仕留めるぞ。気を引き締めろ」
フェスターは魔法を使おうとして、手のひらに炎を出現させたがすぐに魔法は消えてしまった。
ふらふらとたたらを踏み、膝に手を置く。
「くそ……」
「休んでて私がやるから」
「おい……無謀だ」
「調子が悪そうだなアンデッド!所詮貴様に出来るのはその程度……」
話している途中で言葉を止めたザーズに、テンは首を傾げた。
彼はキョロキョロとあたりを見回してそして身に着けている鎧を触り始める。
「体が熱いぞ……なぜだ?」
ザーズは鎧を燃やしている炎を手で払った。
だが炎は消えない。
彼はテンとフェスターを見ずに、さらに遠くを見つめ始めた。
「どういうことだ?俺は自分の妻子を殺したりしない……なぜそんなことを聞くんだ友よ?俺の妻と息子は死んだりしていないよ。俺はこの国を救った英雄だぞ?」
「何を……言ってるの?」
「やめろ!なぜ拘束しようとする!王に会わせてくれ!話せばわかってくれるはずだ!俺は何もしていない!俺に触るな!!」
ザーズはその場で腕を振って、何かを振り払うような動きをしている。
狂人のような変わり身を目の当たりにして、テンの思考が停止した。
「俺はこの国を守ったんだ!誰よりも祖国を愛し、命を削って戦ったのだ!それなのにこの仕打ちか!?貴様らに誇りはないのか!?王に会わせてくれ!私は仲間を殺したりしてないんだ!なぜ信じてくれない!!」
「フェスター……あれって」
「病の影響だろうな。もう人には戻れない」
「そんな……」
「やつは俺たちと会った時から狂っていた。分かり切っていたことだろ」
「……うん。倒してあげよう……もう取り返しがつかないのなら」
「ああ……息の根を止めるぞ」
テンとフェスターは決意を固めた。
ザーズはいまだ彼にしか見えない幻影を追い払おうとしている。
「貴様らがその気なら……俺も抵抗するぞ。頼むから降参してくれ。お前らを殺したくない!!」
テンはもう何も喋らなかった。
彼女は走り出し、大きく跳びあがる。
空中で回転し、勢いを殺さぬままザーズの脳天にかかと落としを叩きこんだ。
そのまま空中で体勢を変えたテンは、回し蹴りを2撃目として頬にかまそうとした。
しかし盾に防がれて上手くいかない。
ザーズは剣を振り下ろす。
その攻撃をステップで避けたテンは、邪魔な盾を両手で握りしめた。
「ふぬ……ふぬぬぬ!!おらぁ!!!」
顔を真っ赤にしながら、彼女は己の怪力を存分に盾に伝えた。
その力は十二分に伝わり、長年英雄を守ってきた盾はへし折れて2つの金属となる。
これでもうテンの攻撃は邪魔されない。
テンは思い切り彼の脛を蹴って、ガクンと頭を下げさせる。
少しジャンプして、そして体を後ろに逸らし、勢いをつけた頭突きを放った。
硬い頭の一撃を受け、流石のザーズもふらつき、膝をつく。
地面に着地したテンは、まず彼の顔目掛けて膝をぶつけた。
そして何発かのパンチを顔に叩きこみ、不規則な軌道のブラジリアンキックをまた顔面に当てて距離を離した。
ザーズの兜の亀裂がメキメキと音を立てて広がる……
テンは華麗な動きで動揺するザーズの懐に潜り込んだ。
掌底で顎をかち上げ、ジャンプして肘で兜の鼻部分を刈り取る。
兜はさらにひび割れていく。
もう少しで割れると思ったテンは、拳を握りしめて渾身のパンチをお見舞いしようとした。
「どうして……俺をそんな目で見るんだ?」
「……え?」
ポトリと何かが地面に落ちた。
ザーズは剣を振り上げ、切っ先を太陽に向けている。
テンの腕の切断面から血がとめどなく流れ出した。
斬り落とされた自分の右腕を見下ろし、テンの頭が真っ白になる。
「うっそ……」
思考停止したテンの体を、ザーズは斬りつけた。
何度も何度も刃を浴びせ、血液を噴き出させる。
「フェスター……助けて」
呆然とする彼女は、無意識に彼の名を呼んだ。
頭を狙って振り上げられたザーズの剣が、まっすぐに迫ってくる。
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