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屍人の王とキョンシー娘

英雄討伐6

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「やめろ!」

テンは叫んでザーズを羽交締めにする。

「小娘め!鬱陶しいぞ!!」

ザーズは彼女の頭を片腕で抱いて、そのまま首投げをした。
テンはフェスターにぶつかそうになる。
彼はテンの体をなんとか受け止めたが、勢いまでは止められず2人揃って地面に倒れる。
その隙を見逃さず、ザーズは足を上げて踏みつけようとした。
危険に気がついたテンはサッと身を転がしてフェスターの体の上から離れる。
ザーズは足を振り下ろした。
無防備なフェスターの腹が踏みつけられ、彼は崩れた床と一緒に下の階に落ちる。

「フェスター!!」
「次はお前だ小娘!」

ザーズはテンに襲いかかり、鋭くも重い斬撃を繰り出した。
何度も振られる刃をよく見て、テンは躱し続けた。
幼少期から鍛えていた身軽さを駆使し、テンは避けながら剣筋を見極める。
ザーズは大振りの横薙ぎを繰り出した。
テンはピョンっとジャンプして、過ぎ去っていく刀身の上に足を乗せた。
ザーズは剣に乗ったテンに動揺する。
まるで曲芸のように、テンはもう1度ジャンプし、見事なサマーソルトキックを放った。
ザーズは後ろに倒れ込み、テンは綺麗に着地した。

「むぅ……許さんぞ小娘!」
「こっちのセリフだよ」

テンは冷たく言い放って、脚の筋肉を隆起させた。
脚を爆発させるように彼女は地面に蹴って、一気にザーズに詰め寄った。
そして小刻みで素早いパンチを打つ。
ほとんどが盾で塞がれたが、彼女は愚直に攻撃し続けた。
ザーズはあまりの手数に防御と下がることしかできない。
しびれを切らした彼は無理に攻撃しようと剣を振った。
テンはそれを上体を逸らして避け、右のバックキックをザーズの頭に当てた。
続けて水面蹴りで脚を払って、彼を地面に倒した。
そのまま彼女は跳び上がり、勢いをつけて倒れたザーズの顔を踏みつけた。
テンの両足裏と床に挟まれてザーズの兜に少しだけ亀裂が走った。
テンの一撃は床にも影響を及ぼし、メキメキと音を立てた後、無惨にも足場が崩れ去った。

「やばっ!」

咄嗟に穴の縁を掴んだテンの脚を、ザーズも掴む。
男1人分の重さがテンの体を引っ張っている。

「放してよ!」

自分にぶら下がるザーズを、テンは左足で蹴り始めた。
それでもザーズは落ちない、彼は剣を握り直して思い切りテンの尻を刺した。
臀部から赤い血が吹き出す。

「ぎゃああ!!」

テンは汚い叫び声をあげた。
ザーズは剣を引き抜き、再度彼女を刺そうとした。

「やめてよ!」
「死ねいアンデッドの娘!」

テンが掴んでいた穴の縁が、2人分の体重に耐えられなくなり音を立てて崩れた。
下に落ちていくテンの手が握られる。

「フェスター!」
「本当にしつこい野郎だな」

フェスターはそばに浮かせた折れた剣を操作する。
集中し、魔力を込めて精密性をあげた剣をザーズの兜めがけて飛ばした。
唯一隙間がある左目に、フェスターの剣が突き刺さる。

「ぐおおお!!」

ザーズは悶絶し、下へ落下した。
テンはフェスターに引き上げられる。

「ありがとう……倒したの?」
「まだだ。ケリをつけるぞ」

フェスターは股を開き、脚に力を込めた。
両の手のひらを穴にかざし、炎を生み出す。
自身の持つ魔力を最大まで注ぎ込み、赤の炎を青くした。
フェスターは大きく息を吐き、トドメをさす準備を整える。

「行くぜ」

フェスターは魔法を爆発させた。
青い炎は穴の中に飛び込み、部屋という部屋を燃やし尽くす。
大規模な火葬ともいえるこの技から、逃げられる者などいない。
この建物の死体ごと、フェスターはザーズを焼き殺そうとしたのだ。
炎は凄まじい勢いで建物の中を這いずり、そして窓という窓から逃げ出した。
魔法が去って、建物は急速に朽ち、壊れていく。
テンたちがいる屋上も例外ではない。
炎に燃やされて、基地は倒壊した。
フェスターは近くにあった木の板を操作して、その上に乗った。
そしてテンを抱えて空を飛ぶ。
焼け落ちる基地を見下ろしながら、フェスターはこの勝負の終わりを確信した。
ゆっくりと地面におりて、テンとフェスターはまだ勢いの止まらない炎と建物の残骸を見つめた。
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