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屍人の王とキョンシー娘

地下歓楽街へ7

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「話には聞いていたが……本当にあんのか?」
「ああ、発症者は少ないからほとんどの人間は知らないか作り話だと思ってる。だが存在する」
「ねぇ、殺し屋病ってなに?」

テンはフェスターに聞いてみた。
渋い顔をしながら彼は説明を始める。

「その病が発症すると、人を殺したくてたまらなくなる。見境のない殺人衝動が抑えられなくなるらしい。前に読んだなんかの書物には人を殺しすぎたやつが罹患すると書いてあったかな……」
「心の病気?」
「おそらくな。だがはっきりとはしてねぇ。精神的な疾患なのか、何かのウイルスか細菌なのか、はたまた怨念たちの呪いなのか。真実は明かされてない」
「そうなんだ。でその病気の英雄がどうしたの?」
「殺戮だよテン。殺戮してるんだ」
「英雄さんが?」
「ああ、悲しいことじゃないか。国を命懸けで守った男が殺人鬼に成り果てるとは。自分の国だけでは飽き足らず下へ下へとおりてきてる。彼が通った町や村でも血の雨が降ったそうだ。おお怖い!」
「それで?俺にその英雄を殺してこいってか?」
「その通りだよ。これ以上罪のない人たちを殺させるわけにはいかない」
「少し見ないうちに優しくなったな」
「私はいつでも慈愛の心を持って生きてる。それと彼の剣を持って帰ってきてくれ」
「なんだって?」

素っ頓狂なことを言われて思わずフェスターは聞き返してしまった。
当のマギーはおどけたりふざけたりしている様子はない、あくまで真顔だ。

「だから剣だよ。ザーズが持っている剣だ」
「……ザーズの剣がなんで必要なんだ?」
「売るからに決まってるだろう。何千人もの命を奪ったイカれた英雄の剣だぞ?どんなにバカみたいな値段をつけても買うやつはいる」
「お前結局商売かよ」
「商人だからな、健全な思考だ。それに1度自分の目で見てみたい。数多の血を吸った剣をね。美しかったら私のコレクションに加えよう」
「呑気なこと言うなよな」
「引き受けてくれるかい?」
「いくら出す?」
「実物を見てないからなんとも言えないが、最低でも1000万クレジット出すよ」
「ほお……」
「どうする?屍人の王様」
「引き受ける。剣を奪ってくりゃいいんだろ?」
「君ならそう言ってくれると思ってた!では頼むよ。私が掴んだ情報によるとザーズはミナトト村にいたそうだ。進行方向から行くとケラス村を通ってパングア町に行くだろうね」
「分かった。そこに行ってみる」
「ああ、あと国の兵士たちもザーズを討伐するつもりだから急いでくれよ?遺体を回収されたら剣の入手も難しくなるだろうからね」
「兵隊より早くか……かったるいが仕方ねぇ」
「話がまとまって嬉しいよ。ディナーでも食べていくか?」
「え?食べたい」
「ダメだ。何がディナーだ馬鹿野郎。急がなくちゃいけないのによ」
「ケチ」
「では私たちが再会した夜、フルコースを一緒に食べよう」

笑顔のマギーを鼻で笑ったフェスターは、宝冠の代金80万を受け取って部屋を出た。
屋敷を出て、街中に紛れる。
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