11 / 196
屍人の王とキョンシー娘
地下歓楽街へ5
しおりを挟む
「待ちたまえよ。まったく久しぶりに会ったというのにどうしてそうせっかちなんだ?」
「そうだよ、ゆっくりしていこうよ」
「はぁ……」
ため息を吐いたフェスターは、2本目の煙草に火をつけた。
彼の顔はうんざりしている。
「君はフェスターと一緒にどれくらい旅をしてるんだ?」
「まだ数日だよ」
「そうなのか。なら気をつけるといい、彼は見ての通り怒りっぽいし、本気で怒ると危険だからな。屍人の王の名は偽りじゃない」
「ねぇ聞いていい?」
「ああ」
「どうしてフェスターって屍人の王って呼ばれてるの?確かにアンデッドを従えてるけど、王様ってほど立派じゃないし」
「なんだとこの?」
フェスターがテンを睨むと、マギーはクスクスと笑った。
「誰も本気で思ってないさ。彼は昔死なないからって手当たり次第に喧嘩を吹っかけていてね。軍や強大な亜人の縄張り、伝説と呼ばれる魔物なんかと戦ったんだ」
「すごい」
「心意気はね。だが数体のアンデッドだけを従えて突撃するのは阿呆だ。結果なんかみんなわかりきってるのに何度も彼は強い敵や街を襲い続けた。誰も殺せないし、捕まえても逃げるからタチが悪くてね」
「なんでそんなことしたの?」
「うるせぇ」
テンの質問をフェスターはムスッとしたまま一蹴した。
「誰もが恐れて近づかないような相手にも勇敢に立ち向かったよ彼は。原始の炎と呼ばれる男とか植物おばさんとか百獣の王と呼ばれる魔物とか」
「結果は?」
「もちろん惨敗だ。気でも触れてたんじゃないかって思うよ」
「フェスターって気が触れてるの?」
「うるせぇ」
「とまぁそういうわけで、強者にも噛み付く身の程知らずのお山の大将としてみんなから屍人の王って呼ばれ出したわけだ」
「馬鹿にされてるじゃん」
「馬鹿にされてるね」
テンとマギーはケラケラと笑った。
フェスターのまぶたがピクピクと動く。
「ほかにはないの?フェスターのお話」
「そうだね。1番印象に残ってるのはヴェルシアの惨劇だね。あれは衝撃的だった」
「なにそれ?」
「ヴェルシアっていう上流階級の家や別荘が多く建てられている町があったんだ。彼はそこに乗り込んで貴族たちを皆殺しにして町を粉々にした……比喩じゃないよ?私も見に行ったが災害以上の悲惨さだったね」
「酷い……いくらお金持ちが嫌いだからって限度があるよ。そんなに憎かったの?」
「うるせぇ」
「あの町には私のお得意様も大勢いた。まったく困ったよ。で、その何十年後だったかな?彼はこの街にもきたんだ」
「それでどうなったの?」
「それはもう暴れる壊すで大変だった。なんとか街の傭兵たちと私の私兵で押さえたけど、街は半壊、損害も桁違いさ」
「うわっ、迷惑すぎる……マギーはよく許したね」
「まあはらわたは煮えくりかえったが、彼の実力は評価に値した。だから仕事を頼んだり、価値のあるものを買い取ったり関係を続けてるわけだ」
「フェスターはもっとマギーに感謝しなくちゃ」
「そうだな。もう満足したか?」
目を細めてフェスターは2人を睨みつけた。
すでに3本目の煙草を吸い終わっている。
「わかったわかった。楽しいおしゃべりはこの辺で終わりにしよう。しかし君もわがままなやつだな」
「そろそろ俺もキレるぞ」
マギーは呆れたようにかぶりを振って、ブルースに指示を出した。
彼は鑑定用の手袋を持ってきて、マギーとザギラスに渡す。
2人は手袋をはめてフェスターの持ってきた箱に触れた。
「では拝見」
マギーは箱を開けて、中に入っている宝冠をそっと取り出した。
傷つけぬように優しく触り、余すことなく宝冠を観察する。
散りばめられた宝石や装飾、そして彫刻やデザインなどをまじまじと見た。
「この彫られた文字はヤラー王国のものじゃないか?」
「ええ。年代はおよそ800年前から900年前ってところですね。ラルグ王の時期です」
「彼が身につけていたと思うか?」
「どうでしょう。宝石はイミテーションじゃなく本物ですが。少し出来が雑ですね。継ぎ目もよく見ると目立ちますし、王族が身につけるにはランクが低い……おそらくどこかの貴族か知り合いに記念として贈られたものだと思いますよ」
マギーとザギラスは熱心に意見を交換しながら宝冠の価値を見極めているようだ。
1時間ほど鑑定していた彼らだが、ようやく終わったようでテンたちに向き直った。
「歴史的に価値はある。だが王族が所有していたという証拠はない、しかも宝冠の素材も宝石もさして貴重とは言えぬありふれたものだ」
「それで?いくらで買い取る?」
「200万クレジットだ」
「もう少しなんとかなんないのか?」
「ならない。私は美に対しては誠実だ。美しさには適切な値段しかつけない。相手を見て値段を上げたり下げたりはしない。この宝冠の価値は200万だ」
マギーは真剣な面持ちでぴしゃりと言い切った。
交渉の余地などないと言い聞かせる威圧感がある。
フェスターはこめかみを掻きながら、「いいだろう」と了承する。
「そうだよ、ゆっくりしていこうよ」
「はぁ……」
ため息を吐いたフェスターは、2本目の煙草に火をつけた。
彼の顔はうんざりしている。
「君はフェスターと一緒にどれくらい旅をしてるんだ?」
「まだ数日だよ」
「そうなのか。なら気をつけるといい、彼は見ての通り怒りっぽいし、本気で怒ると危険だからな。屍人の王の名は偽りじゃない」
「ねぇ聞いていい?」
「ああ」
「どうしてフェスターって屍人の王って呼ばれてるの?確かにアンデッドを従えてるけど、王様ってほど立派じゃないし」
「なんだとこの?」
フェスターがテンを睨むと、マギーはクスクスと笑った。
「誰も本気で思ってないさ。彼は昔死なないからって手当たり次第に喧嘩を吹っかけていてね。軍や強大な亜人の縄張り、伝説と呼ばれる魔物なんかと戦ったんだ」
「すごい」
「心意気はね。だが数体のアンデッドだけを従えて突撃するのは阿呆だ。結果なんかみんなわかりきってるのに何度も彼は強い敵や街を襲い続けた。誰も殺せないし、捕まえても逃げるからタチが悪くてね」
「なんでそんなことしたの?」
「うるせぇ」
テンの質問をフェスターはムスッとしたまま一蹴した。
「誰もが恐れて近づかないような相手にも勇敢に立ち向かったよ彼は。原始の炎と呼ばれる男とか植物おばさんとか百獣の王と呼ばれる魔物とか」
「結果は?」
「もちろん惨敗だ。気でも触れてたんじゃないかって思うよ」
「フェスターって気が触れてるの?」
「うるせぇ」
「とまぁそういうわけで、強者にも噛み付く身の程知らずのお山の大将としてみんなから屍人の王って呼ばれ出したわけだ」
「馬鹿にされてるじゃん」
「馬鹿にされてるね」
テンとマギーはケラケラと笑った。
フェスターのまぶたがピクピクと動く。
「ほかにはないの?フェスターのお話」
「そうだね。1番印象に残ってるのはヴェルシアの惨劇だね。あれは衝撃的だった」
「なにそれ?」
「ヴェルシアっていう上流階級の家や別荘が多く建てられている町があったんだ。彼はそこに乗り込んで貴族たちを皆殺しにして町を粉々にした……比喩じゃないよ?私も見に行ったが災害以上の悲惨さだったね」
「酷い……いくらお金持ちが嫌いだからって限度があるよ。そんなに憎かったの?」
「うるせぇ」
「あの町には私のお得意様も大勢いた。まったく困ったよ。で、その何十年後だったかな?彼はこの街にもきたんだ」
「それでどうなったの?」
「それはもう暴れる壊すで大変だった。なんとか街の傭兵たちと私の私兵で押さえたけど、街は半壊、損害も桁違いさ」
「うわっ、迷惑すぎる……マギーはよく許したね」
「まあはらわたは煮えくりかえったが、彼の実力は評価に値した。だから仕事を頼んだり、価値のあるものを買い取ったり関係を続けてるわけだ」
「フェスターはもっとマギーに感謝しなくちゃ」
「そうだな。もう満足したか?」
目を細めてフェスターは2人を睨みつけた。
すでに3本目の煙草を吸い終わっている。
「わかったわかった。楽しいおしゃべりはこの辺で終わりにしよう。しかし君もわがままなやつだな」
「そろそろ俺もキレるぞ」
マギーは呆れたようにかぶりを振って、ブルースに指示を出した。
彼は鑑定用の手袋を持ってきて、マギーとザギラスに渡す。
2人は手袋をはめてフェスターの持ってきた箱に触れた。
「では拝見」
マギーは箱を開けて、中に入っている宝冠をそっと取り出した。
傷つけぬように優しく触り、余すことなく宝冠を観察する。
散りばめられた宝石や装飾、そして彫刻やデザインなどをまじまじと見た。
「この彫られた文字はヤラー王国のものじゃないか?」
「ええ。年代はおよそ800年前から900年前ってところですね。ラルグ王の時期です」
「彼が身につけていたと思うか?」
「どうでしょう。宝石はイミテーションじゃなく本物ですが。少し出来が雑ですね。継ぎ目もよく見ると目立ちますし、王族が身につけるにはランクが低い……おそらくどこかの貴族か知り合いに記念として贈られたものだと思いますよ」
マギーとザギラスは熱心に意見を交換しながら宝冠の価値を見極めているようだ。
1時間ほど鑑定していた彼らだが、ようやく終わったようでテンたちに向き直った。
「歴史的に価値はある。だが王族が所有していたという証拠はない、しかも宝冠の素材も宝石もさして貴重とは言えぬありふれたものだ」
「それで?いくらで買い取る?」
「200万クレジットだ」
「もう少しなんとかなんないのか?」
「ならない。私は美に対しては誠実だ。美しさには適切な値段しかつけない。相手を見て値段を上げたり下げたりはしない。この宝冠の価値は200万だ」
マギーは真剣な面持ちでぴしゃりと言い切った。
交渉の余地などないと言い聞かせる威圧感がある。
フェスターはこめかみを掻きながら、「いいだろう」と了承する。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
イケメン歯科医の日常
moa
キャラ文芸
堺 大雅(さかい たいが)28歳。
親の医院、堺歯科医院で歯科医として働いている。
イケメンで笑顔が素敵な歯科医として近所では有名。
しかし彼には裏の顔が…
歯科医のリアルな日常を超短編小説で書いてみました。
※治療の描写や痛い描写もあるので苦手な方はご遠慮頂きますようよろしくお願いします。
re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ
俊也
ライト文芸
実際の歴史では日本本土空襲・原爆投下・沖縄戦・特攻隊などと様々な悲劇と犠牲者を生んだ太平洋戦争(大東亜戦争)
しかし、タイムスリップとかチート新兵器とか、そういう要素なしでもう少しその悲劇を防ぐか薄めるかして、尚且つある程度自主的に戦後の日本が変わっていく道はないか…アメリカ等連合国に対し「勝ちすぎず、程よく負けて和平する」ルートはあったのでは?
そういう思いで書きました。
歴史時代小説大賞に参戦。
ご支援ありがとうございましたm(_ _)m
また同時に「新訳 零戦戦記」も参戦しております。
こちらも宜しければお願い致します。
他の作品も
お手隙の時にお気に入り登録、時々の閲覧いただければ幸いです。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる