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屍人の王とキョンシー娘
フェスターとテン1
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草木も枯れる荒野で館が動いてる。
家の下部から手足が生え、まるで甲羅を背負う亀のような魔物が地面を這いずり館を動かしているのだ。
爬虫類特有の滑りのある濃い茶色の肌
ごつごつした表面とは裏腹に、その質感はぶよぶよとしていて生半可な攻撃を通さぬほどしなやかで強靭だ。
「あれだ…見つけちゃった…ホンファの言ってたことは本当だったんだ」
しばしの感動を胸に仕舞い込み、広大な荒野に1人でポツンと立っているテンは自分のやることを確認する。
この残酷な世界で庇護もなしに生き抜くのは困難だ。
彼女は自分を守るため、そして世界を見るために、あの屋敷の主に会うつもりでいた。
テンは小柄な身体をちょこまかと動かし、どんどん前に進んでいく館に近づいた。
息を小さく吐いて、あり余る身体能力を活かして亀に飛び掛かった。
ねちょねちょとした肌を掴み、息も切らさず上る。
館の壁にはりついたまま、彼女は玄関に移動した。
正面扉の前に立ち、テンはドアノッカーを握る。
コンコンと小さく扉を叩いた。
館の中からは何の反応もない。
「……留守かな?」
テンはもう1度ノックする。
またもや反応がないので、テンはドアノブを握って引いてみた。
鍵がかかっていたが、テンは力加減を間違えてドアを簡単に開けてしまった。
鍵が壊れた音がした……
「やっちゃった……」
テンは頭を掻いて反省する。
人間だった頃とは勝手が違う身体能力にまだ慣れていないのだ。
しかし壊してしまったものは仕方がない。
テンは大きくて重厚なドアを開ける。
「ギギギ」と嫌な音がした。
「こんにちはぁ……」
一応挨拶したテンだが、返事はなかった。
館の中は広く、エントランスホールを見ただけで威圧されてしまう。
左右には長い廊下があり、正面には途中で2つに別れた階段がある。
テンはキョロキョロと目を動かして中を観察した。
館の中は薄暗く、明かりなどはないので窓ガラスから差し込む光だけが視界の頼りになっている。
「誰かいませんかぁ?」
テンは大きな声で呼んだ。
それが功を奏したのか、左右の廊下の扉が一気に開いた。
この館の大きさからして大所帯なのかな?などと呑気に考えていたテンは、部屋から出てきた人物たちを見て目を見開く。
やつらはふらふらと体を揺らしながら、のっそりとした足取りでテンに近づいてきた。
みな手に剣や弓といった武器を持ち、テンだけを見つめている。
それが生きた人間ならどれだけよかったか。
テンに近づいてくるのは、中途半端に肌がある、もしくは完璧に白骨化したアンデッドだったのだ。
「や、やあ私テンテンっていうの。テンって呼んで……あの、返事とかできる?」
後ずさるテンを追い詰めるようにアンデッドたちはすぐに彼女を取り囲んだ。
気味の悪い唸り声をあげ、腐った目、もしくは空洞の目でテンを獲物として睨みつけている。
「あーっと……お茶でも用意してくれると嬉しいんだけど」
アンデットの1体がいきなり大上段に剣を構えて一気に振り下ろした。
「わっ!」
驚きながら横に避けたテンは、続けて斧で攻撃してくるアンデッドの足を水面蹴りで転がした。
侵入者のテンに、アンデッドたちは容赦なく襲い掛かる。
連携などとは言えぬ杜撰な攻撃だが、数が揃っていれば綿密な攻撃など必要ない。
型も力もない剣技だが、テンは避けることに精一杯だ。
「まずいな!」
テンは階段の手すりの上に足を乗せて、思い切りジャンプした。
2階の廊下に着地したところを、1階のアンデッドが弓で狙撃する。
「うっ!」
顔目掛けて飛んできた矢を歯で受け止めたテンは、軽やかにバク転して大勢を整えた。
「バタン!」と大きな音がして、2階の廊下の扉も開く。
続々と武器を持ったアンデッドが現れた。
「どれだけいるんだよ!」
下の階のアンデッドも階段をのろのろと上がってくる。
その中に赤く染められ、数々の宝石が散りばめられた立派な宝冠をかぶっているアンデッドがいた。
きっとあれが屍人の王だ。
テンはこの館の主に向かって話しかける。
「屍人の王様!私はテンだよ!少し話を聞いてほしいの!」
アンデッドたちの動きがピタリと止まった。
話が通じたとホッとしたのも束の間、宝冠をかぶったアンデッドは剣先をテンに向ける。
またアンデッドたちが動き出した。
「それはないんじゃないの!?問答無用なんて王のくせに余裕なさすぎだよ!」
アンデッドたちの攻撃は容赦なかった。
穏便にコトを運ぼうと思っていたテンだったが、気持ちを切り替えて暴力的な手段を取ることにする。
向かってくるアンデッドの顔を蹴り、殴り、力任せに投げ飛ばした。
館の壁や棚が音を立てて崩れ、視界からアンデッドを消していく。
迫りくる刃を躱し、受け止め、弾き、素早い拳の連打で蹴散らしていった。
それでもアンデッドの数は減った様子を見せない。
1階からも2階からも流れる川のように、アンデッドが押し寄せてくる。
「きりがない……」
テンは舌打ちをして、1体のアンデッドの足を片手で掴んだ。
そしてジャイアントスイングの要領で振り回し、近くにいるアンデッドたちを一気に吹き飛ばす。
「ぐっ……」
攻撃に専念していたテンの腹に痛みが走る。
アンデッドが放った矢が突き刺さったのだ。
裂かれた腹部から赤い鮮血がしたたり落ちる。
「やったな!」
テンは弓を持ったアンデッドに近づき跳びあがった。
そして空中で1回転し、アンデッドの脳天にかかと落としを食らわせる。
首の折れたアンデッドは床を突き破り、1階に叩きつけられた。
「ふぅ……これで全部……」
全ての敵を倒したと思ったテンは苦い顔をした。
確実にダメージを与えたアンデッドたちが、ゆっくりと起き上がり、そして武器を握ったからだ。
「そりゃそうだよね……アンデッドだもん。殺せないよね……」
家の下部から手足が生え、まるで甲羅を背負う亀のような魔物が地面を這いずり館を動かしているのだ。
爬虫類特有の滑りのある濃い茶色の肌
ごつごつした表面とは裏腹に、その質感はぶよぶよとしていて生半可な攻撃を通さぬほどしなやかで強靭だ。
「あれだ…見つけちゃった…ホンファの言ってたことは本当だったんだ」
しばしの感動を胸に仕舞い込み、広大な荒野に1人でポツンと立っているテンは自分のやることを確認する。
この残酷な世界で庇護もなしに生き抜くのは困難だ。
彼女は自分を守るため、そして世界を見るために、あの屋敷の主に会うつもりでいた。
テンは小柄な身体をちょこまかと動かし、どんどん前に進んでいく館に近づいた。
息を小さく吐いて、あり余る身体能力を活かして亀に飛び掛かった。
ねちょねちょとした肌を掴み、息も切らさず上る。
館の壁にはりついたまま、彼女は玄関に移動した。
正面扉の前に立ち、テンはドアノッカーを握る。
コンコンと小さく扉を叩いた。
館の中からは何の反応もない。
「……留守かな?」
テンはもう1度ノックする。
またもや反応がないので、テンはドアノブを握って引いてみた。
鍵がかかっていたが、テンは力加減を間違えてドアを簡単に開けてしまった。
鍵が壊れた音がした……
「やっちゃった……」
テンは頭を掻いて反省する。
人間だった頃とは勝手が違う身体能力にまだ慣れていないのだ。
しかし壊してしまったものは仕方がない。
テンは大きくて重厚なドアを開ける。
「ギギギ」と嫌な音がした。
「こんにちはぁ……」
一応挨拶したテンだが、返事はなかった。
館の中は広く、エントランスホールを見ただけで威圧されてしまう。
左右には長い廊下があり、正面には途中で2つに別れた階段がある。
テンはキョロキョロと目を動かして中を観察した。
館の中は薄暗く、明かりなどはないので窓ガラスから差し込む光だけが視界の頼りになっている。
「誰かいませんかぁ?」
テンは大きな声で呼んだ。
それが功を奏したのか、左右の廊下の扉が一気に開いた。
この館の大きさからして大所帯なのかな?などと呑気に考えていたテンは、部屋から出てきた人物たちを見て目を見開く。
やつらはふらふらと体を揺らしながら、のっそりとした足取りでテンに近づいてきた。
みな手に剣や弓といった武器を持ち、テンだけを見つめている。
それが生きた人間ならどれだけよかったか。
テンに近づいてくるのは、中途半端に肌がある、もしくは完璧に白骨化したアンデッドだったのだ。
「や、やあ私テンテンっていうの。テンって呼んで……あの、返事とかできる?」
後ずさるテンを追い詰めるようにアンデッドたちはすぐに彼女を取り囲んだ。
気味の悪い唸り声をあげ、腐った目、もしくは空洞の目でテンを獲物として睨みつけている。
「あーっと……お茶でも用意してくれると嬉しいんだけど」
アンデットの1体がいきなり大上段に剣を構えて一気に振り下ろした。
「わっ!」
驚きながら横に避けたテンは、続けて斧で攻撃してくるアンデッドの足を水面蹴りで転がした。
侵入者のテンに、アンデッドたちは容赦なく襲い掛かる。
連携などとは言えぬ杜撰な攻撃だが、数が揃っていれば綿密な攻撃など必要ない。
型も力もない剣技だが、テンは避けることに精一杯だ。
「まずいな!」
テンは階段の手すりの上に足を乗せて、思い切りジャンプした。
2階の廊下に着地したところを、1階のアンデッドが弓で狙撃する。
「うっ!」
顔目掛けて飛んできた矢を歯で受け止めたテンは、軽やかにバク転して大勢を整えた。
「バタン!」と大きな音がして、2階の廊下の扉も開く。
続々と武器を持ったアンデッドが現れた。
「どれだけいるんだよ!」
下の階のアンデッドも階段をのろのろと上がってくる。
その中に赤く染められ、数々の宝石が散りばめられた立派な宝冠をかぶっているアンデッドがいた。
きっとあれが屍人の王だ。
テンはこの館の主に向かって話しかける。
「屍人の王様!私はテンだよ!少し話を聞いてほしいの!」
アンデッドたちの動きがピタリと止まった。
話が通じたとホッとしたのも束の間、宝冠をかぶったアンデッドは剣先をテンに向ける。
またアンデッドたちが動き出した。
「それはないんじゃないの!?問答無用なんて王のくせに余裕なさすぎだよ!」
アンデッドたちの攻撃は容赦なかった。
穏便にコトを運ぼうと思っていたテンだったが、気持ちを切り替えて暴力的な手段を取ることにする。
向かってくるアンデッドの顔を蹴り、殴り、力任せに投げ飛ばした。
館の壁や棚が音を立てて崩れ、視界からアンデッドを消していく。
迫りくる刃を躱し、受け止め、弾き、素早い拳の連打で蹴散らしていった。
それでもアンデッドの数は減った様子を見せない。
1階からも2階からも流れる川のように、アンデッドが押し寄せてくる。
「きりがない……」
テンは舌打ちをして、1体のアンデッドの足を片手で掴んだ。
そしてジャイアントスイングの要領で振り回し、近くにいるアンデッドたちを一気に吹き飛ばす。
「ぐっ……」
攻撃に専念していたテンの腹に痛みが走る。
アンデッドが放った矢が突き刺さったのだ。
裂かれた腹部から赤い鮮血がしたたり落ちる。
「やったな!」
テンは弓を持ったアンデッドに近づき跳びあがった。
そして空中で1回転し、アンデッドの脳天にかかと落としを食らわせる。
首の折れたアンデッドは床を突き破り、1階に叩きつけられた。
「ふぅ……これで全部……」
全ての敵を倒したと思ったテンは苦い顔をした。
確実にダメージを与えたアンデッドたちが、ゆっくりと起き上がり、そして武器を握ったからだ。
「そりゃそうだよね……アンデッドだもん。殺せないよね……」
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