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屍人の王とキョンシー娘

実験成功

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薄暗い部屋の天井に吊るされるランプの炎に、実験台に寝かされた男が照らされていた。
男の肌は腐り、みずみずしさなど欠片もない濃い青色だ。
男は猿轡を噛まされ、手足を拘束されている。
唸り声だけが響く部屋の中にいる白衣を着た人間達が、1人の魔女を不安そうに見つめていた。

「博士、やはり危険ですよ。魔力を直接注入するなんて……考え直すことはできないのですか?」
「大丈夫だよ、彼なら耐えられるから」

博士と呼ばれた女はクスッと笑って裸の男の頬に触れた。
男は怒りと焦燥が混じった顔で、必死に女を睨みつけていた。
その態度すら愛おしく思った女は、そっと男の額にキスをする。

「好きな人とは全てを共有したいじゃない?魔法だってその1つ……私の力を分けてあげるね」

女は注射器に入った液体を一瞥し、針を男の首筋に近づけた。
男がさらに暴れ出したので、白衣の男達が必死で押さえつける。

「君なら大丈夫、今まで一緒に苦労を乗り越えてきたもんね。同じことをするだけだから……怖がらないで受け入れようね」

満面の笑みで女は針を男に刺した。
肌を貫いた注射針の先端から、魔法の源である液体が注入される。
男の体の中で不純物が駆け巡った。
すでに怪物である彼に、魔女の力が侵入する。
魔力は身体中に広がり、そして彼の自我を犯そうとする。
強大すぎる魔力は、彼の体を内側から傷つけた。
体のあらゆる箇所の肉が裂け、泥のような黒い体液がドボドボと溢れて床に落ちる。
顔も体同様引き裂かれて、もはや原型を留めていない。
今まで味わったことのない痛みと苦しみに耐えられず、男は聞くに耐えない叫びを漏らした。
目を見開き、体を痙攣させる。
その異様な姿と動作を見て、白衣の男達は恐怖を感じた。
ただ女だけが彼の体に寄り添って耳元で励まし続けている。

「大丈夫だよ!頑張って!君なら耐えられる!耐えられるから!」

女は必死になって男の手を握る。
男は最後に咆哮のような叫びをあげ、そして動かなくなった。

「……博士」

死んだように目を見開いたまま静止した男を見て、白衣の男はポツリと呟いた。
女は何度も彼の髪を撫でている。

「博士……やはり早すぎたんですよ。実験は失敗です。もう少し体を強化してからのほうがよかったのでは……」
「大丈夫……私は全部わかってるから。君のことならなんでも……愛してるよ」

女が言葉を紡ぎ終わった瞬間、ガタガタと医療器具や実験道具が動き出した。
最初は地震かと誰もが思った。
だがそれは間違いだ。
地面が揺れていないからだ、あくまでも物だけが揺れている。
誰も触れていないというのに。
小さく小刻みに揺れていた物体は、徐々に揺れの激しさが増していった。
メスや瓶が続々と床に落ちて割れた。
そしてついに、建物全体が揺れ始める。

「な、なんだ!?」

この建物の中にいる全員が騒ぎ出した。
誰もがこの不可思議な現象を理解できていない。
誰もが焦り恐怖した。
ただ実験室にいる女だけが、恍惚とした笑みを浮かべて自分の胸を揉みしだき始めた。

「あーもう!やっぱり私たちって相性いいんだなぁ!」

女が悶えていると、床に落ちたメスや割れた瓶の欠片、注射器などが宙に浮かびはじめた。
白衣の男達の頭に疑問だけが押し寄せる。
医療器具たちは意思を持ったようにスムーズに動き、そして男たちの首や目などの急所を的確に執拗に貫いた。
男たちは痛みに悶え、最後は命を落とす。
女にも使い手のいない凶器たちが襲いかかった。
女は毛ほども動揺することなく、自分のまわりに魔法のシールドを張って攻撃を防ぐ。
砲弾など撃ち込まれていないのに、この施設の壁があちこちで弾けだす。
施設の中にいた大量の人間たちは、慌てふためき阿鼻叫喚の地獄絵図と化している。
時間が経つたびに、建物の中にある凶器が人の命を奪っていったのだ。

「ああ……かわいいねぇ……」

女はシールドを張ったまま、実験台に寝ている男に近づいた。
ギチギチと音が鳴り、彼を拘束しているベルトが弾け飛ぶ。
束縛から解放された男は、ゆっくりと立ち上がって、虚な目で女を見た。

「やっぱり成功した……君は私に近づいたんだよ。嬉しいでしょ?私も嬉しい……さぁ来て、抱きしめてあげるから」

男は獣のような叫び声をあげた。
腹の芯まで響き渡るような衝撃があった。
その声に女の薄い桃色の髪が揺れる。
手のひらを女に向けた男は、感情に任せて真っ赤な炎を噴出した。
炎は女の体を包み焼き尽くす。

「すごいすごい!」

女は燃えながら無邪気に拍手をして喜んだ。
もう自我などない男は女に向かって走り、腕を振って思い切りその顔を殴りつけた。
女は後方に吹き飛び、壁を壊しながら床に倒れ込む。
男に正常な思考能力などない。
実験室の壁を壊し、本能のままに目についた人間を殺して回った。
全てを破壊できる膂力と魔法を駆使して、血の雨をそこら中に降らせていく。
床に倒れた女は、むくりと起き上がった。
もう男の姿は見えない。
感じることができるのは、男の言葉にもならぬ声と研究者たちの悲鳴だけだった。

「ありゃりゃ……そんなにここが嫌いだったのかな?」
 
魔法を食らったというのに平気な顔をしている女は立ち上がって、焼け焦げた服をはたいて埃を落とす。
そして乱れた髪を整えながら、遠くから聞こえる男の咆哮に聞き入っていた。

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