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エピローグ
第43話 シスコンがますます酷くなってないか?
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「――よってその功績を讃え、名誉騎士の称号と、銀十字勲章を授与するものである!」
演説ののち、ようやく名前を呼ばれた俺たちは壇上に上がった。
国王リューベックの手により、制服の胸元に勲章を取り付けられる。
ここ数週間、地獄だった……。
「式典なんて必要ないだろ。褒賞だけよこせば済む話だ。王宮になど誰が行くか!」
そう主張して、マナーやら作法やらのレッスンを避けようとしたのだが無駄だった。
学園の教師陣のみならず、フェルメルン家やラングラン家から教育係が、果ては王宮から専門の講師が次々に派遣されて俺たちを追い詰めたのである。
挙げ句に両親は呼ばれるわ、地方領主本人からの激励と称賛を受けるやらで、完全に外堀を埋められた。もはや式典をボイコットしたら、親類縁者がみんななにかしらの罰を受けそうな勢いであった。
そうして人質を取られたような気持ちで地獄を耐え抜き、今日この日を迎えたのである。
長かった。本当に長かった……。
そして国王の演説も、うんざりするほど長かった。
「……やれやれ。国王ともあろう者が、あんな演説しかできんとはな……。俺のほうがよほど上手いぞ。要点もなくダラダラ喋りやがって……」
だがそれらもようやく開放される。
受勲式を終えてからは、パーティだった。
豪勢な料理に、立派な楽団、それからダンス。
この辺りはフェルメルンの屋敷で仕込まれたのもあり、こなすのは楽だ。その他大勢といちいち挨拶を交わさねばならないのは面倒だが、楽しみもある。
レッスンを受けておいて良かったと、今なら思える部分だ。
「踊るか、アリア」
「うんっ。踊ろう、カイン」
俺はアリアの手を取り、一礼してから一緒にステップを踏む。
制服姿なのが味気ない気がするが、これが俺たち学生の正装だ。
というか、アリアがパーティドレスなんかを着込んだら、その魅力がどれだけの悪い虫を誘うことになるか想像もつかない。人目に出すには、これくらいでちょうどいい。
「えへへっ、なんか、思ったより楽しいねっ」
本当に楽しそうな様子に、俺は思わず微笑みが漏れる。
「そうだな。お前は、そうやって笑ってるのが似合ってるよ」
思えば、魔王ゾールと勇者アリアは境遇が似ていた。
魔族に家族を殺され、孤独な勇者として戦ったアリア。
人間に家族を殺され、孤独な魔王として戦ったゾール。
他にも強敵はいたのに、勇者アリアを宿敵と見定めたのは、彼女のその境遇を知ってからだった。
そして知れば知るほど、多くの悲劇に見舞われた人生に共感を覚え、だからこそ対決は避けられないと悟ったものだ。
敵に対する憎しみも、同じだとわかったから。
失ってきたものすべてのために、負けるわけにはいかない。その気持ちも同じだったはずだから。
今も、その気持ちは消えていない。
この世界でフラウたちが生きていても、前世でフラウたちが殺されたのは変わらない。
でも今の、俺のアリアに復讐するのは、違う。
いずれ俺の心にケジメをつけるために、対決することはあるだろう。でなければ、俺は過去に囚われたままになる。前に進めなくなる。
とはいえそれは、憎しみのない、互いを讃える試合になるだろう。
そのときのためにも、アリアが俺に相応しい相手となるよう鍛え続けてやる。
そして、この太陽のように温かい笑顔を――彼女本来の明るさを、この先にも降りかかる残酷な運命から守っていこう。
すべてを成し遂げ、彼女に勝てたその時こそ、俺は――。
そこで曲が終わる。ダンスをしていた者たちはパートナーに一礼して離れる。俺たちも同様だ。
「カインくん、次は私と踊ろう?」
レナがやってくる。グレンも一緒だ。
「じゃあ、その、アリア。オレとも一曲……」
「ダメだ」
グレンがアリアの手を取ろうとするのを阻止する。
「いやなんでだよ」
「お前が悪い虫だからだ」
「はぁ?」
もうアリアに悲劇を辿らせるつもりはない。だから、グレンが戦死する運命にも抗うつもりでいる。だがそれならグレンをアリアに惚れさせる必要もない。
となれば、もはやグレンは悪い虫以外の何物でもないのだ!
きっかけを作ったのは俺だが、だからこそ、この俺が責任を持って駆除せねばならん!
「アリアに触れるな」
「お前、シスコンがますます酷くなってないか?」
「誰がシスコンだ。ぶっ飛ばされたいか」
「あははっ、まあまあ、わたしはグレンくんとも踊りたいよ。お友達だもんね。それからレナちゃんとも。ね、いいでしょカイン?」
「そうだよ、カインくん。お姉さんはお姉さんで大丈夫だから。むしろ私にも構ってくれなきゃ寂しいよ?」
「むぅ……そう言うなら、仕方ないか」
アリアとレナに押され、俺はしぶしぶ頷く。
「ただしグレン、1回だけだからな」
「カインくんも、私と1回だけ?」
「いやレナとなら、何回でもいいが……」
「あっ、ずるい。それならわたしもカインともっと踊りたいよっ」
とかやっているうちに、次の曲の演奏が始まる。
なし崩し的に踊り出し、それからもなんだかんだと賑やかに、俺たちは存分にダンスを楽しむのだった。
演説ののち、ようやく名前を呼ばれた俺たちは壇上に上がった。
国王リューベックの手により、制服の胸元に勲章を取り付けられる。
ここ数週間、地獄だった……。
「式典なんて必要ないだろ。褒賞だけよこせば済む話だ。王宮になど誰が行くか!」
そう主張して、マナーやら作法やらのレッスンを避けようとしたのだが無駄だった。
学園の教師陣のみならず、フェルメルン家やラングラン家から教育係が、果ては王宮から専門の講師が次々に派遣されて俺たちを追い詰めたのである。
挙げ句に両親は呼ばれるわ、地方領主本人からの激励と称賛を受けるやらで、完全に外堀を埋められた。もはや式典をボイコットしたら、親類縁者がみんななにかしらの罰を受けそうな勢いであった。
そうして人質を取られたような気持ちで地獄を耐え抜き、今日この日を迎えたのである。
長かった。本当に長かった……。
そして国王の演説も、うんざりするほど長かった。
「……やれやれ。国王ともあろう者が、あんな演説しかできんとはな……。俺のほうがよほど上手いぞ。要点もなくダラダラ喋りやがって……」
だがそれらもようやく開放される。
受勲式を終えてからは、パーティだった。
豪勢な料理に、立派な楽団、それからダンス。
この辺りはフェルメルンの屋敷で仕込まれたのもあり、こなすのは楽だ。その他大勢といちいち挨拶を交わさねばならないのは面倒だが、楽しみもある。
レッスンを受けておいて良かったと、今なら思える部分だ。
「踊るか、アリア」
「うんっ。踊ろう、カイン」
俺はアリアの手を取り、一礼してから一緒にステップを踏む。
制服姿なのが味気ない気がするが、これが俺たち学生の正装だ。
というか、アリアがパーティドレスなんかを着込んだら、その魅力がどれだけの悪い虫を誘うことになるか想像もつかない。人目に出すには、これくらいでちょうどいい。
「えへへっ、なんか、思ったより楽しいねっ」
本当に楽しそうな様子に、俺は思わず微笑みが漏れる。
「そうだな。お前は、そうやって笑ってるのが似合ってるよ」
思えば、魔王ゾールと勇者アリアは境遇が似ていた。
魔族に家族を殺され、孤独な勇者として戦ったアリア。
人間に家族を殺され、孤独な魔王として戦ったゾール。
他にも強敵はいたのに、勇者アリアを宿敵と見定めたのは、彼女のその境遇を知ってからだった。
そして知れば知るほど、多くの悲劇に見舞われた人生に共感を覚え、だからこそ対決は避けられないと悟ったものだ。
敵に対する憎しみも、同じだとわかったから。
失ってきたものすべてのために、負けるわけにはいかない。その気持ちも同じだったはずだから。
今も、その気持ちは消えていない。
この世界でフラウたちが生きていても、前世でフラウたちが殺されたのは変わらない。
でも今の、俺のアリアに復讐するのは、違う。
いずれ俺の心にケジメをつけるために、対決することはあるだろう。でなければ、俺は過去に囚われたままになる。前に進めなくなる。
とはいえそれは、憎しみのない、互いを讃える試合になるだろう。
そのときのためにも、アリアが俺に相応しい相手となるよう鍛え続けてやる。
そして、この太陽のように温かい笑顔を――彼女本来の明るさを、この先にも降りかかる残酷な運命から守っていこう。
すべてを成し遂げ、彼女に勝てたその時こそ、俺は――。
そこで曲が終わる。ダンスをしていた者たちはパートナーに一礼して離れる。俺たちも同様だ。
「カインくん、次は私と踊ろう?」
レナがやってくる。グレンも一緒だ。
「じゃあ、その、アリア。オレとも一曲……」
「ダメだ」
グレンがアリアの手を取ろうとするのを阻止する。
「いやなんでだよ」
「お前が悪い虫だからだ」
「はぁ?」
もうアリアに悲劇を辿らせるつもりはない。だから、グレンが戦死する運命にも抗うつもりでいる。だがそれならグレンをアリアに惚れさせる必要もない。
となれば、もはやグレンは悪い虫以外の何物でもないのだ!
きっかけを作ったのは俺だが、だからこそ、この俺が責任を持って駆除せねばならん!
「アリアに触れるな」
「お前、シスコンがますます酷くなってないか?」
「誰がシスコンだ。ぶっ飛ばされたいか」
「あははっ、まあまあ、わたしはグレンくんとも踊りたいよ。お友達だもんね。それからレナちゃんとも。ね、いいでしょカイン?」
「そうだよ、カインくん。お姉さんはお姉さんで大丈夫だから。むしろ私にも構ってくれなきゃ寂しいよ?」
「むぅ……そう言うなら、仕方ないか」
アリアとレナに押され、俺はしぶしぶ頷く。
「ただしグレン、1回だけだからな」
「カインくんも、私と1回だけ?」
「いやレナとなら、何回でもいいが……」
「あっ、ずるい。それならわたしもカインともっと踊りたいよっ」
とかやっているうちに、次の曲の演奏が始まる。
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