上 下
50 / 51
エピローグ

第43話 シスコンがますます酷くなってないか?

しおりを挟む
「――よってその功績を讃え、名誉騎士の称号と、銀十字勲章を授与するものである!」

 演説ののち、ようやく名前を呼ばれた俺たちは壇上に上がった。

 国王リューベックの手により、制服の胸元に勲章を取り付けられる。

 ここ数週間、地獄だった……。

「式典なんて必要ないだろ。褒賞だけよこせば済む話だ。王宮になど誰が行くか!」

 そう主張して、マナーやら作法やらのレッスンを避けようとしたのだが無駄だった。

 学園の教師陣のみならず、フェルメルン家やラングラン家から教育係が、果ては王宮から専門の講師が次々に派遣されて俺たちを追い詰めたのである。

 挙げ句に両親は呼ばれるわ、地方領主本人からの激励と称賛を受けるやらで、完全に外堀を埋められた。もはや式典をボイコットしたら、親類縁者がみんななにかしらの罰を受けそうな勢いであった。

 そうして人質を取られたような気持ちで地獄を耐え抜き、今日この日を迎えたのである。

 長かった。本当に長かった……。

 そして国王の演説も、うんざりするほど長かった。

「……やれやれ。国王ともあろう者が、あんな演説しかできんとはな……。俺のほうがよほど上手いぞ。要点もなくダラダラ喋りやがって……」

 だがそれらもようやく開放される。

 受勲式を終えてからは、パーティだった。

 豪勢な料理に、立派な楽団、それからダンス。

 この辺りはフェルメルンの屋敷で仕込まれたのもあり、こなすのは楽だ。その他大勢といちいち挨拶を交わさねばならないのは面倒だが、楽しみもある。

 レッスンを受けておいて良かったと、今なら思える部分だ。

「踊るか、アリア」

「うんっ。踊ろう、カイン」

 俺はアリアの手を取り、一礼してから一緒にステップを踏む。

 制服姿なのが味気ない気がするが、これが俺たち学生の正装だ。

 というか、アリアがパーティドレスなんかを着込んだら、その魅力がどれだけの悪い虫を誘うことになるか想像もつかない。人目に出すには、これくらいでちょうどいい。

「えへへっ、なんか、思ったより楽しいねっ」

 本当に楽しそうな様子に、俺は思わず微笑みが漏れる。

「そうだな。お前は、そうやって笑ってるのが似合ってるよ」

 思えば、魔王ゾールと勇者アリアは境遇が似ていた。

 魔族に家族を殺され、孤独な勇者として戦ったアリア。

 人間に家族を殺され、孤独な魔王として戦ったゾール。

 他にも強敵はいたのに、勇者アリアを宿敵と見定めたのは、彼女のその境遇を知ってからだった。

 そして知れば知るほど、多くの悲劇に見舞われた人生に共感を覚え、だからこそ対決は避けられないと悟ったものだ。

 敵に対する憎しみも、同じだとわかったから。

 失ってきたものすべてのために、負けるわけにはいかない。その気持ちも同じだったはずだから。

 今も、その気持ちは消えていない。

 この世界でフラウたちが生きていても、前世でフラウたちが殺されたのは変わらない。

 でも今の、俺のアリアに復讐するのは、違う。

 いずれ俺の心にケジメをつけるために、対決することはあるだろう。でなければ、俺は過去に囚われたままになる。前に進めなくなる。

 とはいえそれは、憎しみのない、互いを讃える試合になるだろう。

 そのときのためにも、アリアが俺に相応しい相手となるよう鍛え続けてやる。

 そして、この太陽のように温かい笑顔を――彼女本来の明るさを、この先にも降りかかる残酷な運命から守っていこう。

 すべてを成し遂げ、彼女に勝てたその時こそ、俺は――。

 そこで曲が終わる。ダンスをしていた者たちはパートナーに一礼して離れる。俺たちも同様だ。

「カインくん、次は私と踊ろう?」

 レナがやってくる。グレンも一緒だ。

「じゃあ、その、アリア。オレとも一曲……」

「ダメだ」

 グレンがアリアの手を取ろうとするのを阻止する。

「いやなんでだよ」

「お前が悪い虫だからだ」

「はぁ?」

 もうアリアに悲劇を辿らせるつもりはない。だから、グレンが戦死する運命にも抗うつもりでいる。だがそれならグレンをアリアに惚れさせる必要もない。

 となれば、もはやグレンは悪い虫以外の何物でもないのだ!

 きっかけを作ったのは俺だが、だからこそ、この俺が責任を持って駆除せねばならん!

「アリアに触れるな」

「お前、シスコンがますます酷くなってないか?」

「誰がシスコンだ。ぶっ飛ばされたいか」

「あははっ、まあまあ、わたしはグレンくんとも踊りたいよ。お友達だもんね。それからレナちゃんとも。ね、いいでしょカイン?」

「そうだよ、カインくん。お姉さんはお姉さんで大丈夫だから。むしろ私にも構ってくれなきゃ寂しいよ?」

「むぅ……そう言うなら、仕方ないか」

 アリアとレナに押され、俺はしぶしぶ頷く。

「ただしグレン、1回だけだからな」

「カインくんも、私と1回だけ?」

「いやレナとなら、何回でもいいが……」

「あっ、ずるい。それならわたしもカインともっと踊りたいよっ」

 とかやっているうちに、次の曲の演奏が始まる。

 なし崩し的に踊り出し、それからもなんだかんだと賑やかに、俺たちは存分にダンスを楽しむのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう

電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。 そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。 しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。 「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」 そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。 彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

今日も聖女は拳をふるう

こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。 その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。 そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。 女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。 これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...