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第2章 王立ロンデルネス修道学園

第26話 わたし、なにかやらかしちゃいました?

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「ふむ……」

 俺は野外で新聞を読みながら唸ってしまった。

 王都の第6騎士団が、魔王ゼートリック4世傘下の魔将を討伐に出たそうだ。

 あの第6騎士団のことは俺もよく知っている。絶対に忘れることはない。

 この俺が――魔王ゾール自らが、恨みを晴らすために皆殺しにしてやったのだから。

 だが、ただ虚しいだけだったな……。

「あの~、カイン・アーネストくん? ここでなにしてるんですか? SクラスとAクラスの試験は来週ですよね?」

 メガネの女教師エミリーに声をかけられて、新聞から顔を上げる。

「Dクラスは今日だろう? 俺はそれを見に来ただけだ」

 俺の視線の先には、学園の管理する人工ダンジョンの入口が複数ある。Dー1教室の各パーティが別々の入口から入っていったばかりだ。

「いやあの、Sクラスは授業中ですよね? 教室に戻ってもらえると~……」

「気にしないほうがいいんじゃないか? 俺は最近、グレンと仲が良くてな。ラングラン家について、エミリー先生はどう思う?」

「あ、はいっ。気にしません! 私、長い物には巻かれる主義なので~」

 そそくさと立ち去り、エミリー教師はダンジョンの入口のほうへ戻った。

 魔法を用いて、試験中の生徒の状態をモニターしているようだ。

 俺は再び新聞に目を落とし、試験終了を待つ。

 2時間も経つ頃、ひとつのパーティが帰還した。

「ひぃい~、ダンジョン攻略ってこんな難しいの~?」

「敵、強すぎぃい~……」

 最奥に置かれているという、攻略の証のメダルは回収してきたようだが、そのパーティはみんな満身創痍だった。

 その後、数分おきに次々にパーティが帰還する。そのどれにも、アリアの姿はない。

 残るパーティは、あとひとつ。

 なにをしているんだ、アリア? お前の実力なら、誰より早く攻略できるだろうに!

 俺が固唾を呑んで様子を窺っていると、最後に戻ってきたパーティに動きがあった。

「先生、ちょっとおかしくないですか!? あんなバカ強い敵がいるなんて!」

 息も絶え絶えに、エミリー教師に訴えている。

「大袈裟ですよ。あなたたちの実力に合わせた敵が出てくるはずです。ちゃんとパーティで力を合わせれば――」

「いやゴーレムは無理ですよ! 攻撃全然効かないし! 先生でもあれを壊すのは難しいって、前に言ってましたよね!?」

「ゴーレム? えっ、ゴーレムが出たんですか!? Dクラスに!? おかしいです、参加者の実力を読み取って、自動的に適切な強さの敵を出すようになっているのに……」

 なるほど、そういうことか。

 俺はエミリー教師に近づいていく。

「それはまずったな、エミリー先生。参加者の実力を読み取ったんなら、アリアの実力も読み取ったはずだ。だから、こうなったんだ」

「そんなまさか。ゴーレムっていったら、このダンジョンで出せる最強の敵ですよ。上級生のSクラスでも、ゴーレムが出るのは稀なんです」

「でも言われてみれば確かに、アリアさん、あのゴーレムやっつけてた!」

 話を聞いていた生徒が声を上げる。

「僕も見た! なんか凄い技で粉々にしてた! めちゃくちゃ格好良かった!」

「それにそれにアリアさん、私のこと助けてくれて! 怪我も治してくれたし」

「敵は自分が引き受けるからって、アリアさんが残ってくれたんです! そうじゃなかったら、私たちみんな、ダンジョンの中で倒れてました!」

「まさに勇者って感じだったよね」

 次々に証言が出てくる。

 その活躍ぶりに、俺は腕組みをして何度も頷く。

 そうだ。アリアは強いし、格好いいし、優しいのだ。勇者なのだ!

 まるで自分のことのように鼻が高い。

「だから抗議しただろう。アリアがDクラスはおかしいと。その間違いが、今日、生徒を危険に晒したんだ」

「いや、でも、えー……?」

 それからしばらくして、アリアとそのパーティは帰ってきた。

 制服の上から着込んだ軽鎧にキズや汚れはあるものの、アリア本人は無傷のようだ。

「すみません、時間かかっちゃいました~。ミスティちゃんたちも、付き合ってくれてありがとね~」

「まあ、アリアちゃんから離れたら逆に危なかったしね……」

 パーティの面々に疲労の色はあれど、最後になってしまったことに文句はなさそうだ。

「どうした、ずいぶん手間取ったな?」

 俺が声をかけると、アリアは笑顔を輝かせる。

「カイン来てくれたんだっ。えへへっ、あのね、カインが教えてくれたことやってたんだよ」

「どれだ?」

「ほら、危険な敵が発生し続けるなら、発生源を壊せって言ってたでしょ? みんなが安全に帰れるように、全部壊して回ってたの」

「ぴえぇええ!?」

 エミリー教師が絶叫する。

「あれ壊しちゃったんですか!? っていうか、壊せる物だったんですか、あれ!?」

「はい! 必殺の聖光破斬ブライトスラッシュで!」

「すごい……いや、すごいんですけど……!」

 エミリー教師は、崩れるように地面に這いつくばった。

「修理費がッ! 今年の予算全部飛んじゃうッ! どうすればいいのぉ~!?」

「えっ、あれ? わたし、なにかやらかしちゃいました?」

 その様子に、俺はにやりと笑う。

 本来、攻略時間が長ければ長いほど点数は低くなるものだが、エミリー教師が恐慌するほどの実力を示したのだ。失点を補って余りある点数が付けられるだろう。

 アリアのSクラス入りは、まず間違いあるまい。

「ふふん、よくやったなアリア。褒めてやる!」

 だが、アリアにばかりいい格好はさせんぞ。

 俺の試験のときには、学園中の度肝を抜いてやる!
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