最強のラスボスが逆行転生したら宿敵の美少女勇者の弟だった件

内田ヨシキ

文字の大きさ
上 下
29 / 51
第2章 王立ロンデルネス修道学園

第24話 事故でチューしちゃうこともあるよね……っ

しおりを挟む
「……アリア」

 女子寮の一室。

 運び込まれたアリアがベッドで眠っている。その傍に俺はいた。

 保健医の診断によれば、体力と魔力、そしておそらく聖気の使い過ぎが原因だそうだ。

 聖気を正確に感知できる者はいなかったが、おそらく間違いないだろう。俺の知る勇者アリアも、聖気を使った技を使い過ぎて不調となることがあった。

 俺はアリアの手を、ただ握り続けてやる。

(――こうしてれば安心するでしょう?)

 ずっと昔、そう言って手を握り続けてくれた女性ひとがいる。

 前世のことだ。優しくて包容力があって、落ち着いていて、時々甘やかしてくれる。そんな年上の憧れの女性ひと

 もう会えない、失われた女性《ひと》……。

 いや、まだ、会うだけならできる。

 時を遡って、ここにいるのだから……。

 でも今この時、大切なのはアリアだ。

 アリアには早く回復して、特訓に復帰してもらわねばならない。だから、少しでも苦しみが和らぐよう、この俺が手を握ってやるのだ。

 効果があれば、いいのだが……。

 安心してくれているといいのだが……。

 やがてアリアは、ぼんやりとまぶたを開ける。

「ん……レナ、ちゃん?」

「…………」

「あれ、違う? カイン? なんで、また、その格好……?」

「ここに来たいと言ったら、レナにやられた」

 俺はまた女子制服を着せられている。

 ちなみに当のレナは、アリアと同部屋の女子生徒を連れ出してくれている。

「そっか……。そこまでして看病しに来てくれたんだ……」

 アリアは宝石みたいな紫の瞳を揺らめかせた。ぽろりと涙が流れる。

「ごめん……。心配してくれてたのに、こんなことになっちゃって」

「ああ。なんで、あんな態度を取るんだ」

 文句は色々あった。心配したとか、グレンと仲が良くて腹が立ったとか、少しだが――本当に少しだが寂しかったとか。

 けれど、そういった言葉も想いも、口には出さなかった。宿敵に言うことではない。

 ただ……。

「あんなの、やめてくれよ」

 それだけは言いたかった。

「ごめん……。カインが、レナちゃんとばっかり仲良くしてて……キスまでしてて、それでむしゃくしゃしちゃって……」

「だからあれはキスじゃない。レナは魔力を補給してくれただけだ。こうやって、額をつけて……」

 と、顔を近づける。

「わ、わっ」

 アリアは目を丸くして逃れようとする。

 そのせいで狙いが逸れる。意図しない箇所同士が触れ合ってしまう。

 慌てて離れる。

 アリアは固まってしまう。俺は思わず、自分の唇を指でなぞる。

 すごく、柔らかかった……。

 しばしの沈黙。

 耐えきれず、俺は声を上げる。

「だ、黙るなよ。事故だ、事故。姉弟きょうだいなんだ、こんなこともある」

「う、うん。そうだよね。姉弟きょうだいなら、じゃれあって、事故でチューしちゃうこともあるよね……っ」

「こ、今度は動くなよ? 俺が魔力補給してやれば、少しは良くなるはずだ」

 改めて額をくっつける。集中して、アリアへ魔力を流し込んでやる。

「ほら、な? 魔力はこうやって受け渡しできるんだ」

「そっか……ごめん。本当に、勘違いだったんだね……」

「今日はごめんばっかりだな」

「えへへ、じゃあ、ありがと。魔力もらったおかげかな、元気出てきた」

 その柔らかな笑みに、少しばかり安心する。

「俺も……悪かったかもな。厳しくしすぎた。レナになら、あんな風にはしない。きっと、嫌われるから」

「カインはやっぱり、レナちゃんのこと好き?」

「ああ、気に入ってるよ。でも、恋愛とは違う」

 アリアの手を、少しだけ強く握る。

「俺はきっと、甘えすぎていたんだ。お前になら、なにを言っても、なにをやっても、平気だって……な」

「……そんなこと、ないんだよ?」

「今はわかってる……。ただ、俺たちは姉弟きょうだいだから……。友達や恋人みたいな関係は、なにかの拍子で途切れてしまうかもしれない。けど、血の繋がりは切れない。なにがあっても姉弟きょうだいなんだ」

「……うん」

「だから無意識に、お前はどこにも行かないって、変わらずにいられるって、安心してしまっていたんだ。そんなわけ、ないのにな……」

 俺はなにを言っているんだ。

 どうしてこんな気持ちになっているんだ。

 いずれ宿敵になるのに。いつか雪辱を果たすべき相手なのに。

「だから……ごめん。俺は、お前と仲違いしたくない」

 これではまるで、俺がアリアを本心から好いているみたいじゃないか……!

 でも止められない。たぶん、止めたくない。

「うん……。わたしも、そんなの嫌だな」

「どうすれば、許してくれる?」

 するとアリアは、悪戯めいた笑みを浮かべる。

「じゃあ……さっきの事故を、もう一回、とか? なんて冗だ――」

「それでいいなら」

 俺はそっとを起こした。ただの挨拶のように、すぐ離れる。

「これで仲直りだな」

 アリアは呆けた顔をしていたが、数秒もすると、耳まで赤くなっていった。

「……う、うん! な、仲直り……!」

「アリア、さっきから顔が赤いな。熱が出てきたんじゃないか?」

「え、あ、へ、平気!」

 アリアは俺から手を離すと、ガバッと毛布を引き上げ、顔まで覆った。

「カインは、もう帰っていいよ」

「もう少し手を握っててやろうと思ってたんだが」

「も、もう本当に平気だから……!」

「……そうか……」

 毛布を少し下げて、アリアは目だけ出す。 

「カイン、ありがと。また一緒に頑張ろうね……」

「ああ。早く、良くなってくれよ」

 それを最後に、俺は女子寮を立ち去った。

 なんだか冷静になってみると、すごく恥ずかしいことを言ったり、やったりしていた気がする。

「ち、違うからな! これは飴と鞭だ!」

 誰にともなく、俺は言い訳していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜

心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】 (大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話) 雷に打たれた俺は異世界に転移した。 目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。 ──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ? ──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。 細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。 俺は今日も伝説の武器、石を投げる!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜面倒な侯爵子息に絡まれたので、どうにかしようと思います〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「反省の色が全く無いどころか睨みつけてくるなどと……。そういう態度ならば仕方がありません、それなりの対処をしましょう」  やっと持たれた和解の場で、セシリアはそう独り言ちた。 ***  社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇した。 その内の一つである、とある侯爵家子息からのちょっかい。 それを引き金にして、噂が噂を呼び社交界には今一つの嵐が吹き荒れようとしている。 王族から今にも処分対象にされかねない侯爵家。 悪評が立った侯爵子息。 そしてそれらを全て裏で動かしていたのは――今年10歳になったばかりの伯爵令嬢・セシリアだった。 これはそんな令嬢の、面倒を嫌うが故に巡らせた策謀の数々と、それにまんまと踊らされる周囲の貴族たちの物語。  ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第3部作品です。 ※本作からお読みの方は、先に第2部からお読みください。  (第1部は主人公の過去話のため、必読ではありません)  第1部・第2部へのリンクは画面下部に貼ってあります。

処理中です...