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第2章 王立ロンデルネス修道学園

第23話 こんな気持ちで覚醒したって嬉しくないもんっ

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 とはいえ、その目だ!

 殺意がこもったようなその冷たい視線!

 そして湧き上がる聖気は、俺の知る勇者アリアがまとっていたもの。

 経緯はともかく、ついにやった! これこそ俺がアリアに求めていた姿だ!

 が、あれ? これやばい?

 殺意じみた視線は俺に向けられている。魔力不足の今、俺に対抗できる術はない。

「こ、殺される……!?」

 逃げるか? いや、動いたら殺られる……!

 戦慄して固まっていると、やがてアリアは自身の発光に気づいた。

「あれ? この光……?」

 冷たい雰囲気が消え、いつものアリアに戻る。

 好機! 逃げるなら今だ!

「や、やったな、アリア! 新たな勇者の力に覚醒したんだ!」

「お、おめでとう、お姉さん!」

 レナも冷や汗をかきつつ、俺に続く。

 アリアはぷるぷると震えたかと思うと、みるみるうちに瞳を潤ませていく。

「こ……こんな気持ちで覚醒したって嬉しくないもんっ!」

 頬を膨らませて、足早に立ち去っていく。

 それを見送って、俺たちはやっとひと息つけた。

「どうしよう。お姉さん、誤解しちゃってる」

「そうらしいが……」

 だが俺とレナの関係を誤解したとして、なぜ姉のアリアがああなる?

「ひとまず、ほとぼりが冷めるまで待つか。今はなにを言っても聞きそうにない」

 その場はそう言って、レナと別れたのだったが……。

 ほとぼりは全然冷める気配がなかった。

 翌日の特訓にも来てくれたのはいいが、俺と目を合わせようともしない。

「グレンくん、模擬戦の相手お願いしていい?」

「いやオレは剣は……。いつもみたいにカインに――ひっ」

 アリアの無表情の圧にたじろぐグレンである。

「強化魔法、わたしはハンデつけるから。お願い」

「わ、わかったよ」

 やや強引にグレンを付き合わせ、アリアは特訓を開始する。

 新たに覚醒したのは、俺の知る勇者アリアと同様、身体能力を飛躍的に向上させる能力だ。

 強化魔法全開で挑むグレンに対してさえ、余裕で相手ができる。

 やっていくうちにグレンの闘争心にも火がついたらしい。

「こりゃいい! またひとつ壁を破れそうだぜ!」

 ボコボコにされながらも嬉しそうに立ち上がり、何度でもアリアに挑んでいく。

 一方のアリアは、鬱憤を晴らすように、がむしゃらに模擬剣を振るい続ける。

 模擬戦を繰り返したあと、休憩も取らずにひとりで組木を相手に技の特訓を始めるほどだ。

「……アリア、ちょっといいか」

「ダメ。今、集中してるから」

 話しかけても、こちらを一瞥もしない。

「だが……」

「…………」

 もはや返答すらない。

 せっかく、例の必殺剣について助言できると思ったのだが……。

 話ができないなら仕方がない。俺は俺の修行に集中することにする。

「……カインくん、平気?」

 心配そうにレナが声をかけてくる。

「なにがだ?」

「なんだか寂しそう」

「べつに、平気だ」

 いずれ宿敵になる相手なのだ。反抗や無視など、むしろ望むところだ。

 だが……やはり俺はどうかしてる。こんなにも、胸が苦しい。

 それから数日、アリアとは口を利けなかった。特訓は、アリアとグレン、俺とレナの2組に分かれてしまって、ほとんど接触しなくなりつつあった。

「なあグレン……アリアの様子はどうだ?」

 寮の自室で尋ねてみる。グレンは明るく口を開く。

「お前の言う通りだった。アリアはすげえよ。オレがついていくのにやっとなくらいだ。ちょいと悔しいが、相手としちゃ魅力的だ。それに……」

 そこでグレンは言い淀む。

「なんだ?」

「いや、その、な? お前がシスコンになるのも、わかるっつーか……」

「つまり? はっきり言え」

「な、なんかっ、可愛いんだよ。特訓してるときはすげえ真剣で、凛々しいけどよ。終わったあとに笑うと、すげえ可愛くて、ギャップっていうか……」

「そうかよ。もういい」

 グレンがアリアに惹かれつつあるのは思惑通りだ。それでいい。いいのだが……。

 くそ、なんだよ! アリアめ、グレンには笑顔を見せてるのかよ!

 翌日の特訓前。俺はアリアを捕まえた。

「あんまりグレンと仲良くしすぎるな」

 アリアは無視せず、俺を睨んだ。

「わたしが誰と仲良くしたっていいでしょ。カインだって、レナちゃんとすっごくすっごく仲良くしてるじゃん!」

 一瞬怯んでしまうが、ここで黙るわけにはいかない。

「レナは関係ない。今のお前は無理し過ぎなんだ。このままじゃ体を壊す。グレンは、そこがまだわかってないんだ」

「余計なお世話。わたしなら平気だもんっ」

 背中を向けるアリアだが、一歩だけ進んで立ち止まる。後ろ髪を引かれるように、顔だけ振り向いた。

「……ごめんね。でもわたし、カインとレナちゃんの邪魔はしたくないから……」

 なにが、ごめんだ。

 そんな寂しそうな顔をして言うことかよ……。

 アリアはそのまま必殺剣の特訓に入ってしまう。もう話せるような雰囲気ではない。

 仕方なしに、いつものようにレナと魔法の特訓に入る。

 だが、今日ばかりは目を離すべきではなかった。

「カイン、来てくれ! アリアが急に倒れちまった!」
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