最強のラスボスが逆行転生したら宿敵の美少女勇者の弟だった件

内田ヨシキ

文字の大きさ
上 下
24 / 51
第2章 王立ロンデルネス修道学園

第20話 いつまで俺を優しいと言ってられるかな

しおりを挟む
「あっ、カインいた! 良かったぁ、今日は会えたぁ」

 その日の放課後、Sクラスの教室に残っていたところアリアがやってきた。

 俺は眺めていた紙から顔を上げる。

「こんなところまで、なにしに来た?」

「ただ会いに来たんだよ。最近、カインと全然会えてないから」

「たかだか3日だろう」

「でもでも3日だよ! これまでず~っと、毎日一緒だったのに、急に3日も会えなくなっちゃったら……寂しいよ。そんなに恥ずかしかったの?」

 最後に会ったのは、例の女子寮の歓迎会のときだ。

「そういうわけじゃない」

 確かに恥ずかしくて顔を合わせづらいのもあったが、そんなのは理由の一端に過ぎない。

 一番の理由は、俺がアリアに情を持ちすぎてしまっていることだ。

 俺の獲物アリアを死の危険から守ってやるのは今は必要だろう。だが、学園でのいじめごときで俺が動くなど、明らかにやりすぎだった。

 しかも、実際にはいじめなどなかったのだからお笑いだ。

 それほどまでに俺は、今のアリアに入れ込んでしまっている。

 気づかせてくれたのは、2日前に配られた学園の日程表だ。

「カイン、それ日程表? なにか気になってる?」

「……べつに」

「わたしは気になってるよ。今期はなんにも無いけど、来期は祝福祭とか、クラス対抗模擬戦とかあるし、あ、でもその前に長期休暇だね。せっかくだし海まで行ってみるのもいいかも。それに、休暇中にはカインの誕生日もあるし」

 誕生日と言われて、どきりと心臓が跳ねる。心が読めるのか?

 俺が意識していたのは、まさにその日だったのだ。

 誕生日だからではない。

 いや、ある意味では誕生日か。

 俺が――ゾールという魔族が、最強の魔王への道を歩むきっかけとなった事件が起こった日なのだから。

 その日の記憶が、魔王としての俺の意識を呼び覚ましてくれる。

 アリアはいずれ宿敵となる。距離を置くべきだ、と。

「……行事も誕生日も興味はない。俺を巻き込むな」

 俺は努めて素っ気なく言う。

 しかしアリアは身を乗り出してきた。

「そうはいかないよ! どんな行事でも全力で一緒に楽しむんだから!」

「その熱意はなんだ」

「せっかく学園に来たんだからね。全部楽しまないともったいないからね!」

「言っておくが、そもそも学期試験が先にあるからな。全部と言うなら、それも楽しめよ」

「うん。実はそのことで相談なんだけど……」

「俺に稽古をつけて欲しいんだな?」

「あ、わかる? さすがカイン! わたし、Dクラスでカインをがっかりさせちゃったでしょ……? でも、学期試験の成績が良ければ上のクラスに行けるんだよね! これは頑張らなくちゃって思って!」

「いい心がけだな」

 本来の歴史ではアリアはSクラスだったのだ。今のアリアが、まだその域に達していないにしても、さっさと同等の実力を身に着けてもらわねばなるまい。

 この俺に相応しい宿敵となるために。

「これから毎日、放課後に特訓してやる。寮の門限ぎりぎりまでやるぞ」

「うん、毎日! えへへっ、これでまた毎日一緒にいられるね」

 嬉しそうに笑うアリアに、俺も思わず頬が緩んでしまう。

 すぐ咳払いして表情を整える。

 これは情から来るおこない、ではないよな?

 毎日特訓してやるのは、適切な距離感と言えるか?

 ……それは内容次第か。

 厳しくしてやれば、宿敵としての距離感も保てるし、そもそも宿敵に育てるために必要なことだ!

「おいおい、抜け駆けかよ? その特訓、オレも交ぜろ」

 いつから聞いていたのか、グレンが馴れ馴れしく話しかけてくる。

「お前の指導までしてやる暇はない」

「そう言うなよ。指導まではいらねえよ。でもよ、ほら、組手とかの相手にくらいはなるだろ。オレはそれだけでも特訓になるしな」

 アリアのレベルなら、ちょうどいい相手になるかもしれんが……。

「それなら私も一緒にやりたいな。お屋敷で一緒に訓練してた時みたいに」

 そこにレナもやってきた。俺はすぐ頷いてやる。

「もちろん。レナを仲間外れにするわけないだろう」

「オレは!? すんのか、仲間外れに!?」

「カインくん、さすがに可哀想だし、一緒でいいんじゃないかな?」

「ふむ……」

 俺はグレンを見定める。

 アリアのように、距離が近くなりすぎて不都合が生じないだろうか?

 ……大丈夫だろう。

 本来の歴史では、グレンはゼートリック軍との戦いで死ぬ。俺との接点はほとんどないのだ。少しばかり情けをかけてやっても不都合はない。

 それに一緒の場を用意してやることで、俺の目論み通り、やつがアリアに惚れるかもしれない。逆は警戒しなければならないが。

「まあ、いいだろう。3人では組手のときにひとり余ってしまうからな。数合わせだ」

「へへっ、ありがとよ」

 するとグレンだけでなく、アリアまでにっこりと笑う。

「それでこそカインだね。本当は優しいんだってこと、お姉ちゃんはちゃあんと分かってわかってるんだから」

「ふん、いつまで俺を優しいと言ってられるかな」

 アリアへの情を抑えるためにも、俺は一切、特訓の手を抜かないからな!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~

島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!! 神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!? これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

処理中です...