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第2章 王立ロンデルネス修道学園
第20話 いつまで俺を優しいと言ってられるかな
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「あっ、カインいた! 良かったぁ、今日は会えたぁ」
その日の放課後、Sクラスの教室に残っていたところアリアがやってきた。
俺は眺めていた紙から顔を上げる。
「こんなところまで、なにしに来た?」
「ただ会いに来たんだよ。最近、カインと全然会えてないから」
「たかだか3日だろう」
「でもでも3日だよ! これまでず~っと、毎日一緒だったのに、急に3日も会えなくなっちゃったら……寂しいよ。そんなに恥ずかしかったの?」
最後に会ったのは、例の女子寮の歓迎会のときだ。
「そういうわけじゃない」
確かに恥ずかしくて顔を合わせづらいのもあったが、そんなのは理由の一端に過ぎない。
一番の理由は、俺がアリアに情を持ちすぎてしまっていることだ。
俺の獲物を死の危険から守ってやるのは今は必要だろう。だが、学園でのいじめごときで俺が動くなど、明らかにやりすぎだった。
しかも、実際にはいじめなどなかったのだからお笑いだ。
それほどまでに俺は、今のアリアに入れ込んでしまっている。
気づかせてくれたのは、2日前に配られた学園の日程表だ。
「カイン、それ日程表? なにか気になってる?」
「……べつに」
「わたしは気になってるよ。今期はなんにも無いけど、来期は祝福祭とか、クラス対抗模擬戦とかあるし、あ、でもその前に長期休暇だね。せっかくだし海まで行ってみるのもいいかも。それに、休暇中にはカインの誕生日もあるし」
誕生日と言われて、どきりと心臓が跳ねる。心が読めるのか?
俺が意識していたのは、まさにその日だったのだ。
誕生日だからではない。
いや、ある意味では誕生日か。
俺が――ゾールという魔族が、最強の魔王への道を歩むきっかけとなった事件が起こった日なのだから。
その日の記憶が、魔王としての俺の意識を呼び覚ましてくれる。
アリアはいずれ宿敵となる。距離を置くべきだ、と。
「……行事も誕生日も興味はない。俺を巻き込むな」
俺は努めて素っ気なく言う。
しかしアリアは身を乗り出してきた。
「そうはいかないよ! どんな行事でも全力で一緒に楽しむんだから!」
「その熱意はなんだ」
「せっかく学園に来たんだからね。全部楽しまないともったいないからね!」
「言っておくが、そもそも学期試験が先にあるからな。全部と言うなら、それも楽しめよ」
「うん。実はそのことで相談なんだけど……」
「俺に稽古をつけて欲しいんだな?」
「あ、わかる? さすがカイン! わたし、Dクラスでカインをがっかりさせちゃったでしょ……? でも、学期試験の成績が良ければ上のクラスに行けるんだよね! これは頑張らなくちゃって思って!」
「いい心がけだな」
本来の歴史ではアリアはSクラスだったのだ。今のアリアが、まだその域に達していないにしても、さっさと同等の実力を身に着けてもらわねばなるまい。
この俺に相応しい宿敵となるために。
「これから毎日、放課後に特訓してやる。寮の門限ぎりぎりまでやるぞ」
「うん、毎日! えへへっ、これでまた毎日一緒にいられるね」
嬉しそうに笑うアリアに、俺も思わず頬が緩んでしまう。
すぐ咳払いして表情を整える。
これは情から来るおこない、ではないよな?
毎日特訓してやるのは、適切な距離感と言えるか?
……それは内容次第か。
厳しくしてやれば、宿敵としての距離感も保てるし、そもそも宿敵に育てるために必要なことだ!
「おいおい、抜け駆けかよ? その特訓、オレも交ぜろ」
いつから聞いていたのか、グレンが馴れ馴れしく話しかけてくる。
「お前の指導までしてやる暇はない」
「そう言うなよ。指導まではいらねえよ。でもよ、ほら、組手とかの相手にくらいはなるだろ。オレはそれだけでも特訓になるしな」
アリアのレベルなら、ちょうどいい相手になるかもしれんが……。
「それなら私も一緒にやりたいな。お屋敷で一緒に訓練してた時みたいに」
そこにレナもやってきた。俺はすぐ頷いてやる。
「もちろん。レナを仲間外れにするわけないだろう」
「オレは!? すんのか、仲間外れに!?」
「カインくん、さすがに可哀想だし、一緒でいいんじゃないかな?」
「ふむ……」
俺はグレンを見定める。
アリアのように、距離が近くなりすぎて不都合が生じないだろうか?
……大丈夫だろう。
本来の歴史では、グレンはゼートリック軍との戦いで死ぬ。俺との接点はほとんどないのだ。少しばかり情けをかけてやっても不都合はない。
それに一緒の場を用意してやることで、俺の目論み通り、やつがアリアに惚れるかもしれない。逆は警戒しなければならないが。
「まあ、いいだろう。3人では組手のときにひとり余ってしまうからな。数合わせだ」
「へへっ、ありがとよ」
するとグレンだけでなく、アリアまでにっこりと笑う。
「それでこそカインだね。本当は優しいんだってこと、お姉ちゃんはちゃあんと分かってわかってるんだから」
「ふん、いつまで俺を優しいと言ってられるかな」
アリアへの情を抑えるためにも、俺は一切、特訓の手を抜かないからな!
その日の放課後、Sクラスの教室に残っていたところアリアがやってきた。
俺は眺めていた紙から顔を上げる。
「こんなところまで、なにしに来た?」
「ただ会いに来たんだよ。最近、カインと全然会えてないから」
「たかだか3日だろう」
「でもでも3日だよ! これまでず~っと、毎日一緒だったのに、急に3日も会えなくなっちゃったら……寂しいよ。そんなに恥ずかしかったの?」
最後に会ったのは、例の女子寮の歓迎会のときだ。
「そういうわけじゃない」
確かに恥ずかしくて顔を合わせづらいのもあったが、そんなのは理由の一端に過ぎない。
一番の理由は、俺がアリアに情を持ちすぎてしまっていることだ。
俺の獲物を死の危険から守ってやるのは今は必要だろう。だが、学園でのいじめごときで俺が動くなど、明らかにやりすぎだった。
しかも、実際にはいじめなどなかったのだからお笑いだ。
それほどまでに俺は、今のアリアに入れ込んでしまっている。
気づかせてくれたのは、2日前に配られた学園の日程表だ。
「カイン、それ日程表? なにか気になってる?」
「……べつに」
「わたしは気になってるよ。今期はなんにも無いけど、来期は祝福祭とか、クラス対抗模擬戦とかあるし、あ、でもその前に長期休暇だね。せっかくだし海まで行ってみるのもいいかも。それに、休暇中にはカインの誕生日もあるし」
誕生日と言われて、どきりと心臓が跳ねる。心が読めるのか?
俺が意識していたのは、まさにその日だったのだ。
誕生日だからではない。
いや、ある意味では誕生日か。
俺が――ゾールという魔族が、最強の魔王への道を歩むきっかけとなった事件が起こった日なのだから。
その日の記憶が、魔王としての俺の意識を呼び覚ましてくれる。
アリアはいずれ宿敵となる。距離を置くべきだ、と。
「……行事も誕生日も興味はない。俺を巻き込むな」
俺は努めて素っ気なく言う。
しかしアリアは身を乗り出してきた。
「そうはいかないよ! どんな行事でも全力で一緒に楽しむんだから!」
「その熱意はなんだ」
「せっかく学園に来たんだからね。全部楽しまないともったいないからね!」
「言っておくが、そもそも学期試験が先にあるからな。全部と言うなら、それも楽しめよ」
「うん。実はそのことで相談なんだけど……」
「俺に稽古をつけて欲しいんだな?」
「あ、わかる? さすがカイン! わたし、Dクラスでカインをがっかりさせちゃったでしょ……? でも、学期試験の成績が良ければ上のクラスに行けるんだよね! これは頑張らなくちゃって思って!」
「いい心がけだな」
本来の歴史ではアリアはSクラスだったのだ。今のアリアが、まだその域に達していないにしても、さっさと同等の実力を身に着けてもらわねばなるまい。
この俺に相応しい宿敵となるために。
「これから毎日、放課後に特訓してやる。寮の門限ぎりぎりまでやるぞ」
「うん、毎日! えへへっ、これでまた毎日一緒にいられるね」
嬉しそうに笑うアリアに、俺も思わず頬が緩んでしまう。
すぐ咳払いして表情を整える。
これは情から来るおこない、ではないよな?
毎日特訓してやるのは、適切な距離感と言えるか?
……それは内容次第か。
厳しくしてやれば、宿敵としての距離感も保てるし、そもそも宿敵に育てるために必要なことだ!
「おいおい、抜け駆けかよ? その特訓、オレも交ぜろ」
いつから聞いていたのか、グレンが馴れ馴れしく話しかけてくる。
「お前の指導までしてやる暇はない」
「そう言うなよ。指導まではいらねえよ。でもよ、ほら、組手とかの相手にくらいはなるだろ。オレはそれだけでも特訓になるしな」
アリアのレベルなら、ちょうどいい相手になるかもしれんが……。
「それなら私も一緒にやりたいな。お屋敷で一緒に訓練してた時みたいに」
そこにレナもやってきた。俺はすぐ頷いてやる。
「もちろん。レナを仲間外れにするわけないだろう」
「オレは!? すんのか、仲間外れに!?」
「カインくん、さすがに可哀想だし、一緒でいいんじゃないかな?」
「ふむ……」
俺はグレンを見定める。
アリアのように、距離が近くなりすぎて不都合が生じないだろうか?
……大丈夫だろう。
本来の歴史では、グレンはゼートリック軍との戦いで死ぬ。俺との接点はほとんどないのだ。少しばかり情けをかけてやっても不都合はない。
それに一緒の場を用意してやることで、俺の目論み通り、やつがアリアに惚れるかもしれない。逆は警戒しなければならないが。
「まあ、いいだろう。3人では組手のときにひとり余ってしまうからな。数合わせだ」
「へへっ、ありがとよ」
するとグレンだけでなく、アリアまでにっこりと笑う。
「それでこそカインだね。本当は優しいんだってこと、お姉ちゃんはちゃあんと分かってわかってるんだから」
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