19 / 51
第2章 王立ロンデルネス修道学園
第16話 相手が悪かったと今更気づいたか?
しおりを挟む
模擬戦開始直後、男子生徒は瞬間的に距離を詰めてきた。
放たれた拳を、手のひらで受け止める。踏ん張った床に亀裂が走る。
「よく受け止めたなぁ! だがお得意の魔法攻撃はできねえだろぉ!」
一気呵成に拳や脚の連撃で攻めたててくる。それらを冷静に、一撃一撃を丁寧に受け止めてやる。
どうやらこいつの強みは、身体強化魔法を使っての格闘戦らしい。
言うだけのことはある。こいつの実力なら、俺の村を襲った程度の魔族なら単独で一掃できるだろう。
といっても、俺の敵じゃない。発射まで溜めのある魔法攻撃でさえ、やつの拳より速い。
しかし徹底的に叩き潰すなら、相手の得意分野で、言い訳できない敗北を与える必要がある。
つまり格闘戦だ!
「喋ってると舌を噛むぞ」
俺は隙をついて、強化した拳を顔面に叩き込んでやった。
「なに、こいつ!?」
「お前に合わせて拳で相手をしてやる。もっとかかってこい」
「舐めんじゃねえぞ!」
弱犬が遠吠えするように叫んでから、再び攻勢に戻ってくる。
俺は次々に繰り出される攻撃を見切っては、その度にカウンターをぶちこむ。すぐ気絶しないよう手加減して。
「ぐ、ぅ! マジかよ……!」
「最初の威勢はどうした。相手が悪かったと今更気づいたか?」
「……ああ、くそ。確かにお前は強い。こんなすげえやつに会えるとは、嬉しいぜ! このオレが本気で戦えるんだからなあ!」
男子生徒は一旦後退すると、さらに魔力を集中させた。
「うぉりゃああ!」
その突進はさっきまでとは比べ物にならない速度と重さだった。
受け止めることはできず、咄嗟に両腕で防御した。体重差で大きく弾き飛ばされる。
こいつ、マジか!?
ただの身体強化魔法じゃない。限界突破だ。
通常の身体強化魔法より遥かに効果が高いが、身体への負荷がまったく考慮されていない。
攻撃の反動だけでも全身に痛みが走るし、踏み込みひとつで足を骨折することもあり得る。継続しているだけで死ぬことさえある危険な魔法だ。
たかが模擬戦でこんなものを使うなんて、よほどのバカだぞ!
「――うぉああ!」
続く、かかと落としは回避。床が砕け、破片が飛散する。
しかもかなり使いこなしている。大した才能だが、それで危険性が緩和されるわけでもない。
放っておけば、勝手に自滅して死ぬだろう。
だがそうなると、俺が模擬戦で殺したことになってしまうのか?
「ちっ、退学は困るんだよ」
俺は瞬間的に魔力を集中させ、身体強化魔法の効果を最大化する。限界突破ではない、あくまでの通常の強化魔法だ。
男子生徒が放った拳に、こちらの拳を合わせる。
岩同士が衝突するような音。
力負けした男子生徒の拳が砕け、ひしゃげていく。
俺はその胸板に、飛び蹴りで追い打ちをかける。
「がああ!? まだ、届かねえのか!?」
床を転がった男子生徒はしかし、まだ瞳に闘志を燃やしたままだ。
立ち上がり、さらに魔力を集中させようとする。
バカが! これ以上は即死もありうるぞ!
俺は床が砕けるほどの勢いで踏み切った。風より速く、男子生徒の鳩尾に肘を叩き込む。
「が――っ!」
それで男子生徒は気絶した。どさり、と顔面から倒れ込む。
手加減はしてある。すぐ目を覚ますだろう。
「勝者、カイン・アーネスト!」
さっそく女教師が勝ち名乗りを上げるが、直後、頭を抱えた。
「って、もおぉ~。ラングラン家のご子息がボロボロじゃない~。これって私のせい? 私のせいになっちゃうのぉ~?」
……ラングラン?
俺は倒した男子生徒を見下ろす。
まさかこいつ、グレン・ラングランか!?
しまった! 俺としたことが、またやってしまった!
グレン・ラングランは、本来の歴史ではアリアと模擬戦をおこなうはずだったのだ。その縁でのちに勇者アリアの仲間となり、非常に重要な役目を果たすはずだったのに。
俺がまたその機会を潰してしまった。
いや、まだ間に合うか? 挽回しなければ!
放たれた拳を、手のひらで受け止める。踏ん張った床に亀裂が走る。
「よく受け止めたなぁ! だがお得意の魔法攻撃はできねえだろぉ!」
一気呵成に拳や脚の連撃で攻めたててくる。それらを冷静に、一撃一撃を丁寧に受け止めてやる。
どうやらこいつの強みは、身体強化魔法を使っての格闘戦らしい。
言うだけのことはある。こいつの実力なら、俺の村を襲った程度の魔族なら単独で一掃できるだろう。
といっても、俺の敵じゃない。発射まで溜めのある魔法攻撃でさえ、やつの拳より速い。
しかし徹底的に叩き潰すなら、相手の得意分野で、言い訳できない敗北を与える必要がある。
つまり格闘戦だ!
「喋ってると舌を噛むぞ」
俺は隙をついて、強化した拳を顔面に叩き込んでやった。
「なに、こいつ!?」
「お前に合わせて拳で相手をしてやる。もっとかかってこい」
「舐めんじゃねえぞ!」
弱犬が遠吠えするように叫んでから、再び攻勢に戻ってくる。
俺は次々に繰り出される攻撃を見切っては、その度にカウンターをぶちこむ。すぐ気絶しないよう手加減して。
「ぐ、ぅ! マジかよ……!」
「最初の威勢はどうした。相手が悪かったと今更気づいたか?」
「……ああ、くそ。確かにお前は強い。こんなすげえやつに会えるとは、嬉しいぜ! このオレが本気で戦えるんだからなあ!」
男子生徒は一旦後退すると、さらに魔力を集中させた。
「うぉりゃああ!」
その突進はさっきまでとは比べ物にならない速度と重さだった。
受け止めることはできず、咄嗟に両腕で防御した。体重差で大きく弾き飛ばされる。
こいつ、マジか!?
ただの身体強化魔法じゃない。限界突破だ。
通常の身体強化魔法より遥かに効果が高いが、身体への負荷がまったく考慮されていない。
攻撃の反動だけでも全身に痛みが走るし、踏み込みひとつで足を骨折することもあり得る。継続しているだけで死ぬことさえある危険な魔法だ。
たかが模擬戦でこんなものを使うなんて、よほどのバカだぞ!
「――うぉああ!」
続く、かかと落としは回避。床が砕け、破片が飛散する。
しかもかなり使いこなしている。大した才能だが、それで危険性が緩和されるわけでもない。
放っておけば、勝手に自滅して死ぬだろう。
だがそうなると、俺が模擬戦で殺したことになってしまうのか?
「ちっ、退学は困るんだよ」
俺は瞬間的に魔力を集中させ、身体強化魔法の効果を最大化する。限界突破ではない、あくまでの通常の強化魔法だ。
男子生徒が放った拳に、こちらの拳を合わせる。
岩同士が衝突するような音。
力負けした男子生徒の拳が砕け、ひしゃげていく。
俺はその胸板に、飛び蹴りで追い打ちをかける。
「がああ!? まだ、届かねえのか!?」
床を転がった男子生徒はしかし、まだ瞳に闘志を燃やしたままだ。
立ち上がり、さらに魔力を集中させようとする。
バカが! これ以上は即死もありうるぞ!
俺は床が砕けるほどの勢いで踏み切った。風より速く、男子生徒の鳩尾に肘を叩き込む。
「が――っ!」
それで男子生徒は気絶した。どさり、と顔面から倒れ込む。
手加減はしてある。すぐ目を覚ますだろう。
「勝者、カイン・アーネスト!」
さっそく女教師が勝ち名乗りを上げるが、直後、頭を抱えた。
「って、もおぉ~。ラングラン家のご子息がボロボロじゃない~。これって私のせい? 私のせいになっちゃうのぉ~?」
……ラングラン?
俺は倒した男子生徒を見下ろす。
まさかこいつ、グレン・ラングランか!?
しまった! 俺としたことが、またやってしまった!
グレン・ラングランは、本来の歴史ではアリアと模擬戦をおこなうはずだったのだ。その縁でのちに勇者アリアの仲間となり、非常に重要な役目を果たすはずだったのに。
俺がまたその機会を潰してしまった。
いや、まだ間に合うか? 挽回しなければ!
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる