最強のラスボスが逆行転生したら宿敵の美少女勇者の弟だった件

内田ヨシキ

文字の大きさ
上 下
10 / 51
第1章 カインとアリア

正史編③ 追い立てられて

しおりを挟む
 ――これは、本来の歴史の物語。


   ◇


 生贄の洞窟の中、ひとり生き残ったアリアは呆然と佇むのみだった。

 どれだけそうしていたのか。

 やがてアリアは、死んだ子供たちを埋めてやらなければと思い立った。それとほぼ同時のことだった。

 複数の足音が響いた。咄嗟に振り向く。ランプの灯りを向けられて目が眩んでしまう。

「見つけたぞ! こいつが生贄を喰らう化物だ!」

 アリアにはなにを言われているのか理解できない。その化物ならもう殺したのに。

「こんな少女が、化物なのか?」

「ああ、聞いていたとおりだ。化物は、らしいからな」

 光にやっと目が慣れる。その男たちはみんな鎧を着込んでいた。次々に剣を抜いていく。

 アリアには知る由もないが、彼らは化物を討伐にやってきた騎士だ。

 そして、血塗れでいくつもの遺体を前に佇むアリアの姿は、彼らが誤認するに充分な異様さだったのだ。

「よし、かかれぇ!」

 掛け声とともに男たちが迫ってくる。鋭利な剣を振るい、アリアを殺そうとする。

 なんで? どうして?

 わけがわからない。だが、相手はどう見ても人間なのだ。魔族や化物のように殺してしまう訳にはいかない。

「やめて! やめてください、わたし化物じゃない! 化物じゃないよぉ!」

「耳を傾けるな! 騙し討ちされるぞ!」

 アリアの必死の呼びかけにも聞く耳を持たない。

 いやだよ、どうして? どうしていじめるの?

 それとも、やっぱりわたしは村のみんなやこの人たちが言うように、本当に化物なの?

「ちがう、違うよぉお! わたし、人間だよぉ!」

 アリアは包囲の隙間に強引に突っ込んだ。剣によっていくつも切り傷を刻まれながらも突破し、出口へ向かって走る。

 騎士たちはアリアを追い立ててくる。

 鉄格子を力任せに破壊し、アリアはそのまま逃げ出した。

 けれども、やはり行くアテはない。

 そして、行く先々は放浪の孤児に優しくはなかった。

 アリアは常に腹を空かせていた。女の子らしく健康的だった体は、やがて見る影もないほどに痩せ細っていく。

 街道をひとりで歩けば、暴行や人身売買目的で襲ってくる者や魔物が現れる。アリアの力なら負けることはないが、危険なことには違いない。

 暴漢は時々金銭を持っていて、生活の足しになった。

 魔物の中には食べられそうなものもいたが、知識がないまま調理したのが災いしたか、食中毒になったこともあって、以後、魔物を狩って食べることは止めた。

 必然的に、街中で生活することが多くなる。

 かといって家などない。夜は寒さに震え、昼は飢えを凌ぐために食い扶持を探す日々だ。

 そのうちアリアは、泣いても誰も助けてくれないどころか、喰い物にされるのだと知った。

 隙を見せないために感情を表に出さず、最低限に言葉を交わす。

 そして身を守るために武器を扱うことを覚え、自分に害する者ならば傷つけることも、時として殺すことも厭わないようになっていった。

 そんな生活が、半年以上も続いた。

 故郷のアーネスト村から遠く離れ、そこそこの街の路上を拠点としていた。

 そしてその日、体を洗おうと街の外へ出て川へ向かう最中のこと。

 盗賊に襲われている貴族の馬車を見つけた。アリアは盗賊を蹴散らし、貴族を救った。

 善意ではない。こうすれば謝礼がもらえて、少しばかりいい食事ができるからだ。

 しかしその貴族は、目の付け所が違った。

「おい、お前、それは勇者の力ではないのか?」

 アリアにはわからない。早く謝礼が欲しいのだけれど。

「お前の先祖に、勇者はいなかったか?」

「……いたと思う」

「そうか。なるほど、こいつはいい。飼ってればいい戦力になるな。おい、喜べ! お前、我が家が後ろ盾になってやる。学園で学んで、強くなってこい!」

 いよいよアリアには意味がわからない。

 その貴族の意図はよくわからなかったが、話を聞いてみれば毎日の食事と住むところが与えられるのだという。そして学園で学ぶ。平和に暮らしていた頃には憧れもあったが、今となってはそこになんの意味があるかわからない。

 ただ、こんな生活から脱せる。それは喜ばしいことだと思う。

 それから間もなく、アリアは王立ロンデルネス修道学園へ放り込まれた。

 だがもともとが無学な田舎娘で教養もない上に、放浪生活で荒んでいたアリアだ。

 エリートだらけの学園に、ひとり浮浪児が紛れ込んだようなもの。

 馴染めるわけもなく悪目立ちする。そして実技だけは誰より成績がいいのが、ますます侮蔑や憎悪を育てることになる。

 そう。学園でアリアを待ち受けていたのは、陰湿ないじめだったのだ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダブル・シャッフル~跳ね馬隊長の入れ替わり事件~

篠原 皐月
ファンタジー
 建国以来の名門、グリーバス公爵家のアルティナは、生家が保持する権益と名誉を守る為、実在しない双子の兄を名乗り国王直属の近衛騎士団に入団。順調に功績を立てて緑騎士隊隊長に昇進するも、実父の思惑により表向き死亡した事に。更に本来の名前に戻った途端、厄介払いの縁談を強制され、彼女の怒りが振り切れる。自分を都合の良い駒扱いしてきた両親に、盛大に蹴りを入れてから出奔しようと、策を巡らせ始めたアルティナだったが、事態は思わぬ方向に。飲み仲間の同僚と形ばかりの結婚、しかも王太子妃排除を目論む一派の陰謀に巻き込まれて……。稀代の名軍師の異名が霞む、アルティナの迷走っぷりをお楽しみ下さい。

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...