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第1章 カインとアリア
第7話 死ね、変態魔族め!
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「あぎゃあ!? また君たちぃい~!?」
奇形魔族が怯んだ隙にアリアが飛び出す。赤髪の少女を抱えて、距離を取る。
「大丈夫!? 怪我はない!?」
「お姉さん……? 無事だったんですね。私、てっきり……」
「うん、わたしたちは大丈夫。一緒に逃げよう!」
アリアは他の子供のところに駆け寄り、手を引いてくる。
その間に、赤髪の少女はアリアから離れて奇形魔族のほうへ歩んでいく。
「あれ!? ねえ、ダメだよ!」
アリアの声に振り向かず、赤髪の少女は俯く。
「いいんです。私のことは放っておいてください……。どうせ、助かっても生きていく場所なんてないですから……」
今にも泣きそうな顔が印象的だった。
「いっそここで囮にでもなったほうが、誰かの役に立てるから……」
バカなことを言うな!
俺は少女の手を強引に引っ掴んで止めた。
「お前は間違ってる!」
牽制射撃をしながら、俺は声を荒らげた。
「生きていく場所がないなら作ればいい!」
「でも私は……」
「純血かハーフかは知らないが、魔族なんだろう。そのせいで人間にいじめられて、捨てられて、こんなところまで来てしまったんだろう」
「なんでわかるの……?」
「お決まりなくらい、ありふれてるからな」
俺が魔王だった頃も、いや、魔王になる前から、数え切れないくらい見てきた。
見た目も特性も人間とほとんど変わらない魔族は、人間と共存できていた。それがゼートリックの侵攻をきっかけに、魔族と一括りにされ、迫害されるようになってしまったのだ。
ゼートリック系魔族と違って、人間に害を為すことなどなかったというのに。
だから俺はあの頃、人間を敵視していたし、原因を作った南の魔王ゼートリック4世とも敵対した。
同胞が生きていく場所を作るために。
「だからって、こんなところで死ぬな。負けるな。俺がお前の味方になってやる!」
「わたしも! わたしも味方になるよ!」
赤髪の少女を、背後からアリアが抱きしめる。
「お姉さん……」
「生きる場所がないんならね、わたしたちがなんとかするから! わたしたちと一緒に行こうよ!」
「でも私、魔族だから……人間の敵だから……」
「君は敵じゃないよ! あの子たちを守ってくれてた、いい子だもん!」
アリアの発言に、思わず口角が上がってしまう。
お人好しめ。
だが、俺にはない高潔さだ。それでこそ勇者となる者! 後で褒めてやるぞ!
「もうひとつ、お前は決定的に間違ってる」
赤髪の少女が俺を見上げる。
俺は奇形魔族を睨みつける。
「この程度の窮地、俺なら誰も死なせずに切り抜けられる」
俺は牽制射撃を止め、より強力な魔法のために両手で魔力を練り上げていく。
その隙に奇形魔族は傷を再生させ、汚い声で叫ぶ。
「あぁああ! 痛い、楽しくないぃ! もうみんな死んじゃえぇ!」
まったくもって醜悪なやつ。
もし同胞だったとしても、こんなやつは生かしておけない。
「死ね、変態魔族め!」
両足を踏ん張る。両腕から、練り上げた魔力を一気に放出する。
「閃爆魔砲!」
高熱を伴う魔力の塊が、奇形魔族の巨躯をまるごと飲み込む。
魔力はその背後の壁を融かしながら突き進み、はるか先で爆発する。
轟音とともに、火傷しそうなほどの熱風が吹き荒んだ。
奇形魔族は跡形もなく消し炭となった。
「ふん……こんなものだな」
アリアも赤髪の少女も、声も出せないまま目を見張っている。
俺の魔法の威力が、想像を遥かに超えていたのだろう。
「……す、凄い……凄いよぉ! さすがカイン!」
やがて感嘆の声を上げるアリア。
俺は制止すべく手を突き出す。
「今は抱きつくな。――ごふっ!」
吐血と同時に両腕、両足からも血が噴き出す。
立っていられず、崩れ落ちる。
「カイン!?」
地面に叩きつけられる前に、アリアに抱きとめられる。
「なんで? どうしてカインが血塗れになっちゃうの!?」
「う、ぐ……」
湧き上がってくる全身の痛みに、声を出すこともできない。
代わりに、赤髪の少女が口を開く。
「魔法を使った反動だと、思います……。体の強さに見合わない魔法を使うと、こうなるって……」
本来なら、強力な魔法を使うときには身体強化魔法も併用する。だが、今の俺の魔力では、併用できるほどの余裕はなかったのだ。
まあ、死にはしない。魔力が回復してから、治療魔法を使えばいい。
「そんな! それじゃあカイン、死んじゃうの!? わ、わたしのせい? みんなを助けてってわたしがお願いしたから……!?」
「……そうかもしれません……。私の、味方になってくれるって、言ったのに……」
いや、大したことないんだって。
「どうすればいいの!? どうしたらカインを助けられるの!?」
「……わかりません。治療魔法なんて、私には使えないですし……」
「うぅぅ……うぁああん! カイン~! 死んじゃやだぁああ!」
泣くなよ! 死なないんだって!
「ごめんごめんごめん~! いなくなっちゃやだぁあ! 目を開けてぇえ!」
って、痛てててて! そんなにきつく抱きしめるな! やめろって! 痛てええ!
やばいやばいやばい。感覚がなくなってきた。痛みさえ薄れて、意識が……。
いや? 意識、はっきりしてるな?
目を開けると、アリアの全身がほのかに発光していた。
「……アリア?」
「カイン! 目が覚めたの!?」
「その光は……?」
そこでアリアは初めて気づいたらしく、自分の両手や体を見やる。
「なにこれ?」
戸惑うアリアをよそに、俺は自分の体を確認する。怪我はすっかり治ってしまっている。
そうか、と俺は確信する。
「覚醒したんだ、アリア」
「覚醒? わたしが? もしかして、勇者様の力!?」
「いや、どうだろう……」
俺は頭を抱えた。
覚醒には違いないが……なんで癒やしの力なんだ!?
俺の知ってる勇者アリアは、癒やしの力なんて持ってなかったぞ!?
奇形魔族が怯んだ隙にアリアが飛び出す。赤髪の少女を抱えて、距離を取る。
「大丈夫!? 怪我はない!?」
「お姉さん……? 無事だったんですね。私、てっきり……」
「うん、わたしたちは大丈夫。一緒に逃げよう!」
アリアは他の子供のところに駆け寄り、手を引いてくる。
その間に、赤髪の少女はアリアから離れて奇形魔族のほうへ歩んでいく。
「あれ!? ねえ、ダメだよ!」
アリアの声に振り向かず、赤髪の少女は俯く。
「いいんです。私のことは放っておいてください……。どうせ、助かっても生きていく場所なんてないですから……」
今にも泣きそうな顔が印象的だった。
「いっそここで囮にでもなったほうが、誰かの役に立てるから……」
バカなことを言うな!
俺は少女の手を強引に引っ掴んで止めた。
「お前は間違ってる!」
牽制射撃をしながら、俺は声を荒らげた。
「生きていく場所がないなら作ればいい!」
「でも私は……」
「純血かハーフかは知らないが、魔族なんだろう。そのせいで人間にいじめられて、捨てられて、こんなところまで来てしまったんだろう」
「なんでわかるの……?」
「お決まりなくらい、ありふれてるからな」
俺が魔王だった頃も、いや、魔王になる前から、数え切れないくらい見てきた。
見た目も特性も人間とほとんど変わらない魔族は、人間と共存できていた。それがゼートリックの侵攻をきっかけに、魔族と一括りにされ、迫害されるようになってしまったのだ。
ゼートリック系魔族と違って、人間に害を為すことなどなかったというのに。
だから俺はあの頃、人間を敵視していたし、原因を作った南の魔王ゼートリック4世とも敵対した。
同胞が生きていく場所を作るために。
「だからって、こんなところで死ぬな。負けるな。俺がお前の味方になってやる!」
「わたしも! わたしも味方になるよ!」
赤髪の少女を、背後からアリアが抱きしめる。
「お姉さん……」
「生きる場所がないんならね、わたしたちがなんとかするから! わたしたちと一緒に行こうよ!」
「でも私、魔族だから……人間の敵だから……」
「君は敵じゃないよ! あの子たちを守ってくれてた、いい子だもん!」
アリアの発言に、思わず口角が上がってしまう。
お人好しめ。
だが、俺にはない高潔さだ。それでこそ勇者となる者! 後で褒めてやるぞ!
「もうひとつ、お前は決定的に間違ってる」
赤髪の少女が俺を見上げる。
俺は奇形魔族を睨みつける。
「この程度の窮地、俺なら誰も死なせずに切り抜けられる」
俺は牽制射撃を止め、より強力な魔法のために両手で魔力を練り上げていく。
その隙に奇形魔族は傷を再生させ、汚い声で叫ぶ。
「あぁああ! 痛い、楽しくないぃ! もうみんな死んじゃえぇ!」
まったくもって醜悪なやつ。
もし同胞だったとしても、こんなやつは生かしておけない。
「死ね、変態魔族め!」
両足を踏ん張る。両腕から、練り上げた魔力を一気に放出する。
「閃爆魔砲!」
高熱を伴う魔力の塊が、奇形魔族の巨躯をまるごと飲み込む。
魔力はその背後の壁を融かしながら突き進み、はるか先で爆発する。
轟音とともに、火傷しそうなほどの熱風が吹き荒んだ。
奇形魔族は跡形もなく消し炭となった。
「ふん……こんなものだな」
アリアも赤髪の少女も、声も出せないまま目を見張っている。
俺の魔法の威力が、想像を遥かに超えていたのだろう。
「……す、凄い……凄いよぉ! さすがカイン!」
やがて感嘆の声を上げるアリア。
俺は制止すべく手を突き出す。
「今は抱きつくな。――ごふっ!」
吐血と同時に両腕、両足からも血が噴き出す。
立っていられず、崩れ落ちる。
「カイン!?」
地面に叩きつけられる前に、アリアに抱きとめられる。
「なんで? どうしてカインが血塗れになっちゃうの!?」
「う、ぐ……」
湧き上がってくる全身の痛みに、声を出すこともできない。
代わりに、赤髪の少女が口を開く。
「魔法を使った反動だと、思います……。体の強さに見合わない魔法を使うと、こうなるって……」
本来なら、強力な魔法を使うときには身体強化魔法も併用する。だが、今の俺の魔力では、併用できるほどの余裕はなかったのだ。
まあ、死にはしない。魔力が回復してから、治療魔法を使えばいい。
「そんな! それじゃあカイン、死んじゃうの!? わ、わたしのせい? みんなを助けてってわたしがお願いしたから……!?」
「……そうかもしれません……。私の、味方になってくれるって、言ったのに……」
いや、大したことないんだって。
「どうすればいいの!? どうしたらカインを助けられるの!?」
「……わかりません。治療魔法なんて、私には使えないですし……」
「うぅぅ……うぁああん! カイン~! 死んじゃやだぁああ!」
泣くなよ! 死なないんだって!
「ごめんごめんごめん~! いなくなっちゃやだぁあ! 目を開けてぇえ!」
って、痛てててて! そんなにきつく抱きしめるな! やめろって! 痛てええ!
やばいやばいやばい。感覚がなくなってきた。痛みさえ薄れて、意識が……。
いや? 意識、はっきりしてるな?
目を開けると、アリアの全身がほのかに発光していた。
「……アリア?」
「カイン! 目が覚めたの!?」
「その光は……?」
そこでアリアは初めて気づいたらしく、自分の両手や体を見やる。
「なにこれ?」
戸惑うアリアをよそに、俺は自分の体を確認する。怪我はすっかり治ってしまっている。
そうか、と俺は確信する。
「覚醒したんだ、アリア」
「覚醒? わたしが? もしかして、勇者様の力!?」
「いや、どうだろう……」
俺は頭を抱えた。
覚醒には違いないが……なんで癒やしの力なんだ!?
俺の知ってる勇者アリアは、癒やしの力なんて持ってなかったぞ!?
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