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第3部 第1章 魔王の技術 -武装工房車-

第144話 魔王の存在に心当たりはありませんか?

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「しかし婚約発表まで、ずいぶん時間がかかったよね」

「立場的に色々あったからなぁ。まあ、一番の原因はレジーナなんだが」

「ようやく納得してくれたんだよね?」

「そうだとは思うが、まだ不服そうでな。養子にするって話は断られてる。傷心だから旅行するなんて書き置きして、どっか行っちまったよ」

「どうせまたこっちに来るんだろうね」

「すまねえが、またしばらく面倒を見てやってくれねえか」

「もちろんいいさ。いつも子供たちと遊んでくれて助かってるよ。エルウッドやラウラは元気かい?」

「ああ、相変わらずだ。仲が良いんだか悪いんだか、あれで付き合ってるっていうんだから面白いよ」

「ケンドレッドさんは?」

「たまに帰ってくるんだが、あっちこっち走り回ってる。例のモリアス鋼で走る車にかかりきりでな。もう歳だろうに、ずいぶん楽しそうだよ」

「そっか。みんな元気ならなによりだよ」

「ああ。それより、セシリーが話したいことがあるそうなんだ。考えすぎじゃねえかと思ってるんだが、あんまりにも不安そうなんでな。聞いてやって欲しい」

「わかった。では、聖女様?」

 通信魔導器の映像の中で、バーンは一歩下がり、代わりに聖女セシリーが中心に来る。

「……こんなことは初めてなのですが、神のお告げがありました」

「お告げ? それは、どのような?」

「魔王が、蘇る……と」

「魔王……。今じゃおとぎ話にしか出てこないような存在ですよ」

「ですがお告げでは……。どこか漠然としたイメージのようなものだったので解釈次第だとは思うのですが……私には、魔王復活を予示しているとしか思えないのです」

「それが仮に本当だったとしても、魔王相手じゃおれたちにできることは少ない。聖勇者同盟に伝えたほうがいいと思う」

「もちろん伝えていますが、今回ショウ様にお伝えするのには理由があるのです。イメージだけでなく、わずかですが神の声も聞こえたのです。魔王のことは、ショウ・シュフィールに聞け、と」

「おれに?」

「そして、魔王の野望を絶つのは、シュフィールの血を引く男子だとも……」

 どきり、と心臓が跳ねる。

 ハルトが、魔王をやっつける勇者になりたいなどと言っていた。まさか?

「ショウ様、魔王の存在に心当たりはありませんか?」

 あるわけがない。一応、しっかり自分の記憶を探ってみるが、結論は同じだ。

「申し訳ないけれど、本当に心当たりはないですよ」

「やはり、そうですか……」

 セシリーはうつむく。バーンがその肩を優しく叩く。

「ほら、な。きっとなにか悪い夢でも見たのさ」

「そうかもしれません。ただの杞憂なら、それに越したことはありません。魔王の復活だなんて……」

 おれは話を続けようとするが、先にノエルが声を上げた。

「ちょーっと、ごめーん! そろそろ魔力が、魔力が切れるぅ~! 映像付きは消耗がヤバイのぉ~!」

「ああ、ごめん。バーン、聖女様。そういうわけだから、そろそろ通信は切るよ。お告げのこと、伝えてくれてありがとう」

「おう、またな。お告げのことは、あまり気にしないでくれ」

「すみません。それでは、失礼いたします」

「うん。改めておめでとう、ふたりとも。結婚式には呼んでね」

 そこで通信は切れる。大きく息をついて、ノエルが机に突っ伏する。

「ふぃー、疲れたー……。けど魔王ねぇ、本当に復活するのかしら?」

「うーん、あんまり現実味がないね。なんにも知らないおれに、魔王について聞けって言われても困るし」

 ソフィアも、ゆっくりと頷いてくれる。

「ひとまず今は、バーンさんの言うとおり、気にしないでおきましょう。お告げのことは、なにか前兆があったときにでも、また考えばいいと思います」

「そうだね、そうしよう」

 こんなにも平和で、こんなにも幸せな日々なのだ。

 なにか悪いことが起こるなんて、どうしても想像できない。

 けれど。

 数週間後、ラウラからの緊急通信を受けて、あのお告げは一気に現実味を帯びることになる。

「バーンが、刺されたの! 合成生物キメラが突然現れて、モリアス鉱山が大変で!」

 映像がない。旧型の通信魔導器を使っているらしい。だが、その慌てぶりや声の調子で切迫感が伝わってくる。

 すぐ通信相手がラウラからエルウッドに変わる。

「すまない。ラウラは混乱してる。代わりにオレが伝える」

「わかった。エルウッド、なにがあったんだい?」

「モリアス鉱山が、大量の合成生物キメラに襲われたんだ。その討伐にロハンドール軍や勇者が動いて、バーンもそれに参加してたんだが……刺されたらしい」

「バーンは、無事なのかい?」

「ああ、聖女様の治療が間に合った。それは良いんだが、問題は刺されたことじゃない。刺されたか、だ」

「……まさか?」

「そうだ。使われたのは『技盗みの短剣スキルドレイン』だ。たぶん合成生物キメラを作ったやつだ。そいつが【クラフト】を奪っていったんだ」

「そいつは、いったい何者なんだ?」

「わからない。でも誰かが言ってたよ。魔王だ、って」

「魔王……」

「どちらにせよ、ヤバいことになりそうだ。なにせ敵は【クラフト】使いだ」
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