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第2部 第7章 旅の終わりに -新型義肢-

第134話 また一緒に仕事ができて嬉しいよ

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 その後、レジーナには義足の性能試験を手伝ってもらった。

 前段階で充分にテストはしていたそうだが、実際に装着して動かしてみたら、気づかなかった不具合が見つかるかもしれない。

「うー、動かせるのは嬉しいけど、もう飽きたよぉ~」

「そう言うなって、もう少しだ。次で最後だからよ」

「もー、しょーがないなぁー」

 不満を言うレジーナをなだめるバーンの様子は、父親のようで微笑ましい。

 結局、不具合は小さな物が数個見つかった程度だった。それらを修正して、本当に完成ということになる。

 おれたちの仕事は、ここからだ。

 設計した図面や、魔力回路の写しを確認しつつ、バーンたちと打ち合わせる。

「魔物素材で軽量化できているけれど、毎回狩るのはやっぱり手間がかかるだろう? 大部分は新素材で作ったほうがいいかな」

 おれの提案に、しかしバーンは唸る。

「うぅん? 新素材っていうと、射出成形インジェクションってやつだろ? たしか、まったく同じ物を早くいくらでも作れるって……それは凄いけどよ、使う人間の体格に合わせなきゃならねえ義肢には、向いてねえんじゃねえか?」

「うん、向いてない。けど、その技術を知っていれば【クラフト】で使える」

「そうか! 俺が射出成形インジェクション技術を覚えりゃ、新素材を好きな形に加工してやれるわけか」

「そういうこと」

「新素材の生産に特化させた村がある。もう手配は済ませたから、じきに充分な量の新素材が届くはずだ。これからは供給が絶えることはないだろうな」

 アリシアが補足してくれる。

「そいつは助かる」

「で、覚えてもらうためにも、射出成形インジェクション装置も作るよ。どっちにせよ、魔力回路の大量複製にはこっちのほうが有効だしね。どうノエル? ラウラの作った魔力回路は?」

 尋ねると、うんうん、と関心した様子でノエルは頷く。

「文句なしの出来♪ これならレジーナみたいな才能ある子じゃなくても、基本をちょっと習っただけの人でもすぐ動かせると思う」

「よかった。ノエルさんのお墨付きがもらえたなら、ひと安心だわー……」

 魔力回路をノエルに見られている間、ずっと緊張していたラウラは、脱力して大きく息をつく。

 その肩を労うように、ぽんと叩き、エルウッドはおれに目を向ける。

射出成形インジェクション装置は、この前、ケン師匠と一緒に来た輸送隊が持ってきてた部品で作るのか?」

「そうそう。メイクリエから運んできてもらったんだ。組み立てれば、すぐ使えるはずだよ」

「けどあんなデカいもの、診療所には置けないぞ。今、保管してる部品だって、土地からはみ出してる。本当なら地主に文句言われて、金を取られるところだ」

「それなら心配ないよ。ここに来る前に話はつけておいた。この診療所の土地は、今はもう倍くらい広くなってる」

 エルウッドは苦笑する。

「また買ったのか。まったく、変わらないな。お前は前から、目的のためには金に糸目をつけないやつだった」

「そうね、自分の食費削って本を買ったりしてたものね」

「最高の装備を作るためだって、予算オーバーの買い物もさせられたこともあったな」

「あはは……あのときは、ごめん」

「でも、今は助かる。ありがとう」

 診療所側を代表するようにバーンが頭を下げる。

 その隣で、ケンドレッドは疑問を呈する。

「金型が必要になるだろう。そいつは俺やエルも手伝わせてもらうが、肝心のモリアス鋼はどうなりそうなんだ?」

 それにはソフィアが答える。

「陛下が上手く取りなしてくれそうです。時間はかかるかもしれませんが、きっと手に入ります。そのことで、ケンドレッドさんにお話があるそうです」

 ソフィアはサフラン王女に目を向ける。ケンドレッドも、それに倣う。

「なんだい、お姫様?」

「はい。父上は、ケンドレッド様の追放処分を取り消したいと考えておりますの」

「あぁん? おいおい、そりゃダメだろ。俺があの国で、なにをしでかしたのかわかってるだろ。それをお前、被害者のソフィアの前で……」

「わたしなら、もう納得していますよ」

 ソフィアに微笑まれて、ケンドレッドは困惑する。

「どういう流れでそういう話になったんだよ」

「モリアス鋼の活用法を見つけたのは、追放されたモグリの職人ではなく、メイクリエ王国の職人という体にしておきたいのです」

「政治の話か」

「そうです。産出はロハンドール。活用技術はメイクリエ。それを用いて画期的な義肢を製造するのはスートリア。こうして三国のバランスを取れば、今回の件でただでさえメイクリエに恩のあるロハンドールです。交渉はさらに楽になりますわ」

「そういうことかよ……」

 仏頂面で腕を組み、考え始める。

 それに対し、おれもソフィアも、バーンたちもじっと見つめる。

「だー、もう、そんな目で見るんじゃねえよ。わかったわかった。それでいい!」

「ケンドレッドさん、ありがとうございます」

「礼なんかいらねえよ、ソフィア。お前へのケジメがついたとは思っちゃいねえんだ。追放は取り消されても、帰らねえからな」

「それでも、ありがとう、です」

「……ったく」

 苦笑いしつつケンドレッドはそっぽを向く。

「ともかく、みんな、また一緒に仕事ができて嬉しいよ……ん?」

 だいたいの話が済んだところで、ふとバーンが外をちらちら気にしているのに気づく。

「誰か来るのを待ってる?」

「いや……来れるわけないってのはわかってるんだが、つい、な」

「聖女様?」

「ああ……ちょっと話したいことがあったからよ。まあ、手紙でもいいんだが」

 少し寂しそうな様子に、おれは笑いかける。

「近いうちに会えると思うよ」

「そんなわけないだろ。終戦の色々で仕事があるはずだ」

「ところがその仕事で来るのさ。おれたちもついこの前連絡を受けたんだけど、終戦調印式はこの診療所でやることになりそうなんだ」
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