上 下
133 / 162
第2部 第7章 旅の終わりに -新型義肢-

第133話 わたし、また歩けてるんだ!

しおりを挟む
「だからお前ら来るのが早いんだよ!」

「えぇー……」

 バーンたちのいる診療所に到着するやいなや、ケンドレッドに怒られた。

 ソフィアは首を傾げる。

「中途半端なところでお任せしてしまっていたので、早くお手伝いしたいと急いで来たのですが……なにかいけなかったのでしょうか?」

「お前らが来る前に終わらせて、仕事を奪っちまおうと思ってたんだよ」

「お楽しみを独占とは、ずるいです」

「なに言ってやがる任された仕事をまっとうしただけだぜ?」

「むぅ……」

 まあまあ、とノエルがソフィアをなだめる。

「でも来るのが早いっていうなら、まだ仕事はあるわけでしょ? それは手伝わせてもらいましょ?」

「いや、実のところオレたちの出番はもうない。最終段階なんだ」

 奥から出てきたエルウッドの発言に、おれもソフィアも肩を落とす。

「べつに早く来すぎたわけでもないじゃないか、ケンドレッドさん……」

「ふんっ、どうせなら全部終わってから見せてやりたかったんだよ」

 診療所の奥に通されると、ちょうどバーンが眼鏡をかけた少女に新型の義足を付けてやっているところだった。

 きっとあの少女がレジーナだろう。バーンの言うとおり、可愛らしい容姿をしている。

「これでよし。レジーナ、こいつはお前の魔力で自由に動かせる新しい足だ。上手くいけば、前の足と同じように……いや、もしかしたらそれ以上に動かせるかもしれねえ」

「わたしの魔力? 魔法じゃなくていいの?」

「ああ、ちょっとコントロールにコツがいりそうだが、魔法ほどじゃない。というか、いくらなんでもこの短期間で魔法なんて使えるようにはならねえだろ」

「簡単なやつなら、もう使えるもん」

「マジか。凄いな、才能か……? まあ、それなら案外簡単に動かせるかもな」

 バーンは一歩下がり、代わりにラウラが前に出る。

「じゃあレジーナ。魔力操作の基本を思い出して。血の巡りのように、魔力を全身に循環させるの」

「うん……やったよ」

「次は、その循環を義足のほうまで広げてみて。本物の足があるイメージよ」

 レジーナは今度は目をつむって集中した。数秒の間。

「うん……できた」

「早い。さすが優等生ね。あとは義足の魔力回路がやってくれるわ。魔力の循環を維持したまま、本物の足を動かすみたいにやってみて」

「こう……かな?」

 すると、義足が動いた。膝関節が伸びる。曲がる。足首も伸びたり曲がったり。

 それをレジーナが自分の意思で動かしているのは表情から明らかだ。

「わ、わっ、すごいすごい! 動くよ、動く動く!」

 レジーナは椅子からぴょんと飛び降りる。

 バーンは緊張の面持ちで、いつでも飛び出せる構えを取る。レジーナが転んでしまったら、すぐ抱きとめるつもりなのだろう。

 レジーナは最初こそ力の加減をしくじりバランスを崩すが、しかしすぐに慣れたようで、なめらかな動きで歩きだす。

 バーンの唇が震え、瞳が潤んでいく。

「歩ける……わたし、また歩けてるんだ!」

 すると今度は、ぴょんぴょんと片足跳びを試す。左足の跳躍は普通だが、義足での跳躍は彼女の体格からすれば、異様なほどの飛距離だ。

 片足跳びで一旦離れたレジーナは、バーンに向けてにこりと笑う。

 かと思ったら駆け出して、バーンに勢いよく抱きついた。

 バーンはかろうじて受け止める。

「ありがとう、バーン!」

「ば、バカ! 急に無茶な動きするなっ。不具合とかあるかもしれねえのに」

「だってだって、嬉しいんだもん!」

「そりゃ俺だって……。またお前が歩いてくれて……嬉しいよ」

 バーンの声が震える。瞳に溜まっていた涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちる。

「バーン、泣いてる?」

「悪いかよ……。今まで生きてきて、一番、嬉しいんだよ……。少しは泣かせろよ……っ」

 レジーナはそっとバーンの後頭部に手を回し、あやすように撫でる。

「……ありがと、バーン。わたしのこと、また助けてくれたね……」

「それを言ったら、俺だってお前には救われてる……」

「わたし、なにかしたっけ?」

「いてくれるだけで俺には救いなんだよ、お前は」

 バーンはぎゅっとレジーナを抱きしめる。

「……あ、ねえ、バーン? 知らない人が来てるけど、お友達?」

「う、ん?」

「……おめでとう、バーン」

 控えめに声をかけたつもりだが、バーンは物凄く驚いた様子で顔を上げた。

 照れくさそうにレジーナから離れる。

 おれはしゃがんでレジーナに目線を合わせる。

「初めまして、レジーナ。おれはバーンの友達の、ショウ・シュフィールだよ。よろしく」

「うん、よろしく。バーンが、お世話になってます」

 バーンは苦笑する。

「もう来てたのか……ていうか、見てないで声をかけてくれよ」

「ごめん、水を差す気にはなれなくってさ。改めて完成おめでとう、バーン」

「ありがとよ。つっても、俺のやったことなんて、たかがしれてるけどな」

「でも君がいなければ生まれなかった物だ。それは誇っていいことだよ」

「いや……まだだ。まだ誇れねえ。レジーナのことは、俺の勝手な望みだ。他の……見知らぬ連中にも、同じことをしてやらねえと」

「手伝うよ。試作品づくりには間に合わなかったけど、たくさん作るならおれたちの領分だ。大量生産とはいかないだろうけど、かなり効率は上げられると思う」

「本当はそれも自分でやりたいんだが……今の俺じゃ無理だからな。素直に手を借りるぜ。面倒かもしれないが、色々と教えてくれ」

「もちろんさ。なんだって教えるとも」

 おれとバーンは互いに手を握る。

 その握手は、かつて冒険者ジェイクとした固く痛いものとは違って、敬意と優しさに包まれるような柔らかいものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜

平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。 都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。 ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。 さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。 こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...