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第2部 第4章 再会と再開

第119話 女心がわかってない

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 いよいよ分かれ道に差し掛かり、バーンだけがおれたちと違う道を行こうとする。

 別れ際、聖女セシリーはバーンと向き合っていた。

「待っていてくださいね。必ず、また会いに行きますから」

「ああ、是非来てくれ。みんな喜ぶ」

 バーンの返答に、セシリーは不服そうだ。

「あなたは? 喜んでくれないのですか?」

「俺はスートリア信徒じゃないからな。他のみんなほど喜ぶとは言えねえかな」

「そうですかぁ……」

「悪いな。どうにも聖女様って呼ばれてる割には、他の連中が言うほど神聖って感じがしなくてよ」

「それってどういう意味ですか?」

「どうって……あんまりにも普通の女って感じで、崇めようとは思えねえっていうか……いや、聖女様をそんな風に言うんじゃ、リックに怒られちまうか」

「普通だと思ってくれるのなら、聖女様ではなくセシリーと呼んでくれませんか」

「ん、わかったよ。セシリー様」

 セシリーは目を細めて、唇を尖らせる。

「様ぁ~?」

 バーンは困ったように咳払いする。

「……セシリー」

「はいっ。そう呼んでくださいね。ふふっ」

 にこりと笑うセシリーに、バーンは頭をかく。

「なにが、そんなに嬉しいんだ」

「私を普通の女の子として扱ってくれる人、初めてですから」

「そうか。でもさすがに信徒が集まってるところじゃ、呼び捨てにはできねえぞ?」

「たまにでいいです。たまにだけ、普通でいさせてください」

「ああ、わかったよ」

 それから名残惜しそうな視線を交わし、バーンは背を向ける。

「それじゃあ、またな」

「……待て、バーン」

 エルウッドに呼び止められて、バーンは振り返る。

「どうした?」

「オレも行く」

「えっ!」

 言われたバーンよりも、聞いていたラウラのほうが驚いていた。

「ちょっと、エルウッド。急になに言ってるの」

「オレとしては、そう急でもない。このところずっと考えてたんだ。もともとオレは、ソフィアさんの代役だった。彼女が戻ってきた以上、オレはもういなくてもいいんじゃないかってな」

「エルウッド、おれはそうは思わない。人手があれば、それだけ助かるんだ」

 おれの言葉を、エルウッドは否定しない。

「オレもそう思う。だから、バーンの話を聞いてて思ったんだ。より人手が必要なのは、診療所のほうなんじゃないかってよ」

 バーンは小さく首を横に振る。

「資材が無いんじゃ、せっかく来てくれても活かせねえよ」

「それはシオンがなんとかしてくれる。それにな、無いなら調達すりゃいい。魔物はいい素材になる」

「魔物素材の使い方なんて、俺にゃわからねえよ」

「オレがわかってる。師匠に仕込まれたし、実績もある。この国の魔物は強いが、お前とオレとラウラでなら、どうとでもなるレベルだ」

 急に名前を出されて、ラウラはさっきにも増して驚いていた。

「ちょっとちょっと、なんであたしも行くことになってるの?」

「来てくれないのか?」

 純粋な眼差しで問うエルウッドに、ラウラの勢いは削がれる。

「いや、まあ、行ってもいいけど……。なんであたしなのよ。あたし、それこそ魔物退治の手伝いくらいしかできないのよ。材料調達が済んだら、なんの役にも立てないし……」

「ただ来て欲しいから、ってのは理由にならないか?」

「えっ、えっ。それって、どういう意味で言ってるの?」

 少しばかり頬を染めながら問うラウラ。エルウッドは、じっと彼女を見つめ続ける。

「シオンやソフィアさんの幸せそうな様子とか、バーンたちのもどかしい感じを見てたらな。オレもここらでハッキリさせておきたくなったんだ。ラウラ、オレは――」

「わああ! ちょっと待って! 一緒に行くから、ちょっと待って!」

 ラウラは顔を真っ赤にしながら、両手をばたばたさせる。

「なんでだ」

「雰囲気! ムード! 情緒ぉ! そんなついでみたいなノリで言われたくなぁい!」

 バチィンッ、とラウラの張り手がエルウッドの尻を襲った。エルウッドは微動だにしない。

「そういうものなのか?」

 おれは苦笑する。

「うん、今のは君が悪いよ。女心がわかってない」

「ショウさんがそれを言うのですか……?」

「鈍感、勘違い、すれ違いの前科者なのにね~」

「人をその気にさせて本人は無自覚なあのショウが、よくもまあ」

「うぐ……っ」

 妻と婚約者たちから総ツッコミを受けてなにも言えなくなる。

 とりあえずエルウッドは納得したようだった。

「なら告白はまた今度にする。ラウラ、一緒に来てくれるなら嬉しいぞ」

「いやもう、そのセリフがさー、もうさー……」

 ぼやきながらも、満更でもないラウラだった。

 そんなラウラに、ノエルが挙手しつつ声をかける。

「それならラウラさん、患者さんに魔法教えてみたらどうかな?」

「魔法を?」

「そうそう、アタシがラウラさんに教えてたみたいに。手足の代わりにはならないけど、簡単な魔法が使えれば、少しは生活の補助になるでしょ?」

「ああ、なるほど。それならあたしでも役に立てそう。やってみるわ!」

 こうしてバーンたち三人は、おれたちと別れて診療所へ向かうこととなった。

「すまねえ、ふたりとも。また世話になる」

 エルウッドとラウラに頭を下げるバーンの真摯な姿に、おれは彼らの行く先に幸あることを確信するのだった。

 三人を見送ってすぐ、ノエルがおれの腕に絡みついてきた。豊かで柔らかい胸の感触が久しぶりで、どきりと心臓が跳ねる。

「ああいうの見てるとアタシも……、って気持ちになっちゃうなぁ。ソフィアも戻ってきたわけだし、これまで遠慮してた分、甘えちゃうわよ~?」

「抜け駆けはずるいよ」

 反対側では、アリシアがそっと袖を掴む。

「…………」

 左右ともに塞がれたソフィアは、黙っておれの胸に、ぽふっ、と背中を預けてきた。

「まあ。両手に花とは言いますけれど、ショウ様は両手に抱えきれませんのね」

 サフラン王女に笑われて、おれは大いに照れた。
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