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第2部 第3章 なにもない国 -村おこし-

第104話 物作りをするなら、一番困ってるところから

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 おれたちの船が入港したのは、港町ユーリクだ。

 勇者の紋章のお陰で入国手続きはスムーズだった。おれは帰国であるし、他の仲間たちはおれが身分を保証することで、問題なく上陸することができた。

「おかえりなさいませ、勇者シオン様。此度の戦のため、帰ってこられたのですね。ご武運をお祈りいたします。どうか我が国に勝利を……」

 入国審査官に、聖印を切られて祈りを捧げられてしまった。

「ところでおれたちに先んじて、聖女様の船が入港しませんでしたか? 事情があって合流したいのですが、どこへ向かわれたか教えていただきたいのですが」

「申し訳ございません。外交機密に当たるとのことですので、その件に関しましては、たとえ勇者様であってもお答えできません」

「それなら仕方ありません。おれたちは、おれたちの仕事をするとします」

 おれは挨拶もほどほどに、みんなを連れて町へ出る。

 港町ユーリクは、スートリアの玄関口とも言われる港町で、巡礼者や観光客向けに手製の神具や土産物などを売っていたりする。食事処も多い。

 とはいえ、戦時下で来客も少ないのか、あまり賑わっている様子はない。もしかしたらこれが普段の様子かもしれないが。

 久々の客を逃すまいと熱心に客引きをする店員に誘われて、おれたちは一旦、寂れた雰囲気の飲食店に入った。

「勇者シオン様って、なんかかっこいい響きだよねぇ」

「ごめん、ノエル。それ、あんまり言わないで欲しいな。ボロが出ちゃうかも」

「ボロ?」

 おれは店員に聞かれないよう、小声で話す。

「実はおれ、任務で国外に出たけど、そのまま放棄して帰らなかったからさ。たぶん、中央では脱走兵みたいな扱いになってると思う」

「ええー、なにしちゃってんの?」

「スートリア教の閉塞的な空気が耐えられなくてね……。おれの【クラフト】も、本来の使い方をさせてもらえてなかったし」

 ラウラとエルウッドは揃って首を傾げる。

「【クラフト】に他の使い方なんてあったのか?」

「まあ、ね。あんまり話したくないけど……」

 あらゆる物や生物の、壊れた姿や死体をことができてしまう。

「冒険者になってからも、その使い方であっさりS級にまでなったんだけど……、やっぱりそれも嫌だったから封印したんだ」

 やはり壊すより、作るほうが難しくて面白いから。

「それで、物作りを試しながら最低ランクからやり直してた頃に、君たちに出会って『フライヤーズ』に加入したんだよ」

 セレスタン王は、少なくともS級冒険者だったことまでは調べた様子だった。おれが勇者であったことまで知っていたかもしれない。

 そんな話をしていると、おれたちの座るテーブルの目の前に、かごを抱えた小さな男の子がやってきた。

「うん? どうしたの、ボク? 私たちになにか用?」

 アリシアが優しい口調で語りかけると、男の子はかごを両手で持ち上げて、中身をおれたちのほうへ見せた。

「なにか、かって!」

「ああ、土産物かな? じゃあ、ひとつ――」

「やめときなさい、アリー」

 ラウラはアリシアを愛称で呼びつつ、お金を出そうとする手を止める。

「こういう子からひとつでも買ったら、子供が無限に群がってくるわよ。しかも買ってあげないと解放してくれないの。一日中追い回される羽目になるんだから」

「えっ、そうなの?」

 アリシアは目を丸くして、ラウラと男の子を交互に見やる。

 男の子は「かって!」と繰り返す。いたいけな瞳に、アリシアの心が揺れ動かされているのがよくわかる。

 そんな子供に甘い様子を見せてしまっては、アリシアはもはや「いいカモ」と認識されてしまったことだろう。働く子供は、見た目の印象よりはるかにしたたかだ。

「いいじゃないか。どうせなら他の子も呼び寄せてもらおう。ほら君、これひとつもらうよ。お代はこれで。お釣りはいらないよ」

 粗末な出来栄えの人形を摘み上げ、かなり多めにお金をあげる。

 男の子は目をぱちくりさせ、やがて「ありがとう!」と走り去っていった。

「どういうつもりなんだ?」

 問いかけるエルウッドに、おれはにやりと笑う。

「おれたちの仕事先を決めようと思ってね」

 やがてさっきの男の子が呼び集めたのか、店内は子供たちで溢れかえる。

 みんな一様に土産物を詰めたかごを持ち上げ、「かって」「かって」と声を上げる。

「みんな悪いけど、お土産はさっきのひとつで充分なんだ。代わりに、知ってたら教えて欲しい。答えてくれたらこれをあげる。みんなで山分けだよ?」

 おれが示したのは、ぴかぴかの金貨三枚だ。

「わあっ」と子供たちの目が釘付けになる。

 ちなみに、メイクリエの通貨では悪目立ちするので、ちゃんと共通通貨に両替済みだ。

「最近、聖女様が来ただろう? どこへ行ったか知らない?」

 何人もが「しらない」と答える中、ひとりだけ「しってる」と声を上げる。

「だいしんでんにいくって言ってた」

「メルサイン大神殿だね? ありがとう」

 スートリア教の中枢――つまりこの国の中枢となる神殿だ。そこに監禁されているとなれば、やはり救出は困難を極めるだろう。

「それじゃあ、もうひとつ。この中で、一番貧しいところから来たのは誰かな?」

 子供たちはみんなで相談したあと、痩せ細った少年が手を上げた。着ている服も、他のみんなにより粗末で傷んでいる。

「リリベル村からきたんだ」

「そこの教区長は? 守護担当の勇者も、知ってたら教えて」

「きょうくちょー? は、わかんないけど、勇者はダリア」

 その名前に、おれは頷く。

 約束通り金貨を与えて解散させると、おれは仲間たちに提案する。

「リリベル村へ行こう」

「その理由は?」

「物作りをするなら、一番困ってるところから助けたいからね。それに――」

 おれは懐かしい顔を思い浮かべる。

「――ダリアはおれの知り合いなんだ」
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