上 下
99 / 162
第2部 第2章 新たなる旅立ち

第99話 物作りで戦争を止めるんだ

しおりを挟む
「シオン、お前、生きていたのかよぉ……!」

 エルウッドは恥じることなくボロボロと涙を流す。

 ラウラも大粒の涙を頬に伝わらせる。

「あなた、生きてたんなら教えてくれたっていいじゃない……! あたしたちが、ずっとどんな気持ちでいたと思ってるのよぉ!」

「すまない、ふたりとも……。事情があったんだ」

 おれは号泣するふたりをなだめて、生存を隠していた理由を説明した。

「そうか、やっぱりジェイクがお前を……。抜けて正解だったか」

「『フライヤーズ』の解散のあと、脱獄までしてたのね……とことん落ちたものね、あいつも」

 ふたりはジェイクを悪く言うが、おれにはもう彼を恨むような気持ちは残っていなかった。

 彼に【クラフト】を奪われたからこそ、おれはソフィアと出会えた。今日まで仲間たちと共に、ひとりでは作れないたくさんの物を作ってこれたのだ。

 実際にまた会ったら、やっぱり怒ってしまうかもしれないが。

「それで物作りの旅をして、結婚して、貴族に出世……ね。なんだか手の届かないところへ行っちゃったみたい」

「でもシオンはここにいる。こうして生きてる」

「ええ……本当に良かった……」

 揃ってしんみりしてしまう。

 本当はおれも時間を忘れて再会を喜び合いたいが、そうするわけにはいかない。

「ところで、ふたりはどうしてここへ? ボロミアくんとケンドレッドさんの紹介みたいだけど……」

「ケンドレッド? ケン師匠のことか?」

「師匠?」

「ああ、オレはケン師匠から鍛冶仕事を習ったんだ。シオン、お前の友になりたくてな」

「おれはもとから友達だと思ってたよ」

「お前はそうでも、オレは違った。お前が見ていた世界のことを、なにもわかってなかった。でも……今なら少しはわかる。お前と語り合いたい」

「エルウッド……そう言ってくれて嬉しいよ」

「お前の工房で働かせてくれないか。まだまだ役立たずの未熟者らしいけどよ」

 エルウッドが持ってきた紹介状の内容と、エルウッドの認識は少々違っている。

 ケンドレッド曰く「メイクリエでは平均以下だが、他所なら一生喰っていけるだけの腕前だ」とのこと。調子に乗らないよう、弟子には厳しく言っていたのだろう。

 ケンドレッドさんらしいや、とおれは微笑む。エルウッドには黙っておこう。

「ラウラはどうしてここに?」

「あたしはボロミア先生のとこでA級に昇格したんだけど、S級を目指すならノエルさんに師事しろって勧められて。まあ、先生の思惑としては、あたしにショウさんを籠絡させて、ノエルさんを取り戻したかったみたいだけど」

「あぁ、その小細工……彼らしいな」

「でも、あの噂のショウ・シュフィールの正体がシオンだなんてね。先生には悪いけど、そんな気にはなれないわ」

「そうだね……。でも、そっか。A級魔法使いになれたんだね、おめでとう」

 頭の中でかちりと歯車がはまる感覚があった。

 職人とA級魔法使い。ふたりとも戦闘経験も申し分ない。

 おれは深く頭を下げる。

「ふたりとも、ここへは目標のために来たのはわかってる。けど、すまない。その前に力を貸してくれないか。おれは――」

「いいとも。なんでも言ってくれ」

 最後まで聞かずに、エルウッドは即答した。

「事情も聞かずに?」

「聞く必要があるか?」

 エルウッドは腕を伸ばして、拳をおれの胸に当てた。

「お前の頼みなら、どんな事情だろうと力を貸すさ」

「エルウッド……ありがとう」

「あたしも手を貸すわ。シオン、さっきから他のこと気にしてるでしょ。相当、切羽詰まってるんじゃない?」

「ああ、実はそうなんだ」

「でもあたしは事情は聞きたいわ。なにをすればいいのかも、ね」

 おれは頷いて、事情を話す。

 それから、ノエルとアリシアも呼んでくる。簡単な紹介を終えたところで、おれはみんなに表明する。

「やることは当初の予定通りだ。スートリア神聖国に、物作りに行く」

 全員、困惑の表情を浮かべた。代表して、アリシアが問う。

「どういうことだ。戦争中だぞ」

「戦争中だから行くんだ」

 おれは闘志を込め、強く拳を握りしめる。

「資源が欲しくて戦争するんなら、欲しがる物を作ってやればいい」

「戦争の原因を取り除くってこと?」

 いち早く理解したノエルの問いに、おれは頷きを返す。

「そうさ。おれたちの物作りで戦争を止めるんだ」

「できるのか、そんなことが」

 エルウッドは、ラウラと同じく困惑したままだ。

「できる。物作りに不可能なんかない」

「なら……信じるぜ」

 エルウッドは困惑から一転、覚悟を決めた表情になる。

 その隣でラウラが声を上げる。

「待って。仮にそれができたとして、ソフィアさんとサフラン王女はどう助けるの?」

「戦争の必要が無くなれば人質もいらなくなる。返してもらえるさ」

「回りくどくない?」

「かもしれない。けど、これが一番確実なんだ」

 ソフィアたちをアテもなく探して回り、見つけたら今度は、精強な勇者たちを倒して奪還する。そんな方法は現実的ではない。

 おれたちにやれる方法で、最も確実なのはこの方法だったのだ。

「もちろんソフィアたちは探すし、見つけたなら救出の手段も考える。そのとき物作りが進んでいたら、交渉材料としても使えるはずだ」

 ふぅ、とアリシアは感心したようなため息をつく。

「まったく。さすがの発想だな、ショウ。私も乗った。この国を一度救っているんだ。戦争を止め、ソフィアや王女を救うことだって、きっとできる」

「アタシも賛成。物作りでどうにかするって、きっとソフィアがいたら同じこと考えると思う」

 ノエルの返答を一瞥し、エルウッドもすでに賛成済みとばかりにうなずく。

「そこまで言うなら、あたしも賛成するけど……。シオン、変わったわね。発想のスケールが特に……」

 最後に残ったラウラは賛成しつつも、呆気にとられていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

俺だけ異世界行ける件〜会社をクビになった俺は異世界で最強となり、現実世界で気ままにスローライフを送る〜

平山和人
ファンタジー
平凡なサラリーマンである新城直人は不況の煽りで会社をクビになってしまう。 都会での暮らしに疲れた直人は、田舎の実家へと戻ることにした。 ある日、祖父の物置を掃除したら変わった鏡を見つける。その鏡は異世界へと繋がっていた。 さらに祖父が異世界を救った勇者であることが判明し、物置にあった武器やアイテムで直人はドラゴンをも一撃で倒す力を手に入れる。 こうして直人は異世界で魔物を倒して金を稼ぎ、現実では働かずにのんびり生きるスローライフ生活を始めるのであった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~

アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。

処理中です...