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第2部 第2章 新たなる旅立ち
第98話 生きて、いたの……?
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「なんでおれが、おれの花嫁を迎えに行っちゃいけないんだ!」
「落ち着くんだ、ショウ! 貴方だって、頭ではわかっているはずだろう」
すぐ屋敷を飛び出そうとしたおれを押し止めたのはアリシアだった。
「ああ、わかってる。わかってるよ! でも、わかってるからって納得なんてできない!」
メイクリエ王国は、スートリア神聖国の侵攻には協力しない。思い通りの武具が供給されないとなれば、教皇派も戦争を諦めるだろうと考えていた。
だが教皇派は、こうなること予測していたのかもしれない。あるいは、聖女を擁する枢機卿派に間者がいたのか。
ソフィアたちの行方は、すぐ教皇派から知らされた。
――不慮の事態で聖女の一団が危機的状況にあったので、救出して保護している。
あまりにタイミングが良すぎる。そして、救出はしたが、こちらに送り届けるつもりはないらしいこと……。
保護とは名ばかりの人質であることは明らかだ。無事に返して欲しければ、戦争に使う武具を供給しろ……と暗に示している。
この事態に対し、セレスタン王はおれに「動くな」と言った。
下手に動けば、人質が危険に晒されるからだ。
では教皇派に従うかといえば、そうではなかった。
「娘の命惜しさに、同盟を裏切るわけにはいかぬ。国の名誉が傷つけば、未来において苦しむのは民草である」
あくまで譲歩しない構えだ。王として正しい考えだろう。
そして領地と領民を持つ貴族としても、同じ考えを持つべきなのだろう。
けれどできない。おれは、そこまで大きい人間じゃない。
「ソフィアは! ソフィアは一度、この国で傷つけられて、追放された。それが今度は、国に見捨てられようとしてるんだぞ! そんなことおれが許さない!」
「違う! 違うんだ、ショウ。見捨てはしない! 陛下は、外交努力でふたりを取り戻すつもりなんだ」
「どれだけかかるんだ! それに取り戻せる保証もない!」
「だからといって、今出て行ってどうなる!? 今は手段を考えるべきだ」
「けど――!」
そのとき、背後から抱きつかれる。ノエルだ。
「ショウ、お願いだから冷静になって……。あなたはどんな困難でも、いつだって冷静に解決してきたでしょ。冷静さは、あなたの武器よ。それを失わないで……」
アリシアも、真剣におれを見据える。
「私たちだって、同じ気持ちだ。ショウ、貴方が冷静に考え出した手段なら、どんなことだって協力する。だから……」
ノエルが震えているのがわかる。アリシアが今にも泣き出しそうな目をしていると、やっと気づく。
「……わかった」
ふたりから離れる。
「取り乱してしまって、ごめん。不安なのは一緒なのに……」
おれは頭を冷やすべく、お茶を入れることにする。
家人の手伝いを断り、厨房でみずから湯を沸かすところから始める。
炎の揺らめきが、ソフィアと旅してた頃の野宿を思い出させる。
茶葉の香りが、雑貨屋で一緒に買物をした光景を連想させる。
お茶の熱さが、ソフィアと交わした口づけの熱さを蘇らせる。
「ダメだ……」
今すぐ動きたくなる気持ちを、頭を振って追い出す。
冷静になれ……。
そもそも、保護されたというソフィアやサフラン王女の居所もわかっていない。
迎えに行くにしても、まずはそれを調べる必要がある。
かといって目立つことはできない。少なくとも、メイクリエ王国が関与していると知られるわけにはいかない。
となれば、身分を隠しての潜入となるだろう。
そこからソフィアたちの行方を探すアテは……以前ならあった。今はどこへ行ってしまったかわからない。
それに……。
「ダメだ……」
頭数が足りない。
ノエルもアリシアも一緒に来てくれるだろう。
しかしスートリア神聖国は強力な魔物が多い。それに対抗する勇者たちも強力だ。なにかの拍子でそれらと戦闘になったとき、三人では戦力不足だ。
特に、ノエルはS級魔法使いだが、実戦経験に乏しすぎる。
ならどうする?
模索していく中、やがて自分の考えに違和感を覚えていく。
どうしておれは、戦ってどうにかしようと考えている?
おれとソフィアの日々は、戦いなんかじゃなく、なにかを作り出す日々だったじゃないか。
おれは勇者じゃない。もう冒険者でもない。職人だ。
だったら職人らしいやり方がきっとある。
「それでも、足りない……」
やり方は思い浮かんだが、やはり頭数が足りない。
ソフィアほどでなくても、おれの考えを形にできる腕前の職人が必要だ。
それでいて、戦闘能力があることが望ましい。
贅沢を言うなら、ノエルの実戦経験の少なさを補えるA級以上の魔法使いも欲しい。
ケンドレッドやボロミアに頼りたいところだが、一方は消息不明で、もう一方は前線に立っていることだろう。
「ショウ様、お客様がいらっしゃいました」
家令のベネディクト氏に声をかけられ、おれは思考を中断させられる。
「こんなときに? 悪いけど、会っている暇はないんだ。帰ってもらえないかな」
「しかし紹介状を持って、はるばる海を渡っていらっしゃった方々です。無下になさっては、紹介主の顔を潰すことになります」
「紹介状? 誰からの?」
「ボロミア様と、ケンドレッド様からのようです」
「あのふたりからの!? わかった、会ってみよう」
そして、ふたりの男女が応接間に現れる。
目を合わせた瞬間、おれたちは互いに固まった。
「シ、オン……か?」
「エルウッドに、ラウラ……?」
「シオン……生きて、いたの……?」
「落ち着くんだ、ショウ! 貴方だって、頭ではわかっているはずだろう」
すぐ屋敷を飛び出そうとしたおれを押し止めたのはアリシアだった。
「ああ、わかってる。わかってるよ! でも、わかってるからって納得なんてできない!」
メイクリエ王国は、スートリア神聖国の侵攻には協力しない。思い通りの武具が供給されないとなれば、教皇派も戦争を諦めるだろうと考えていた。
だが教皇派は、こうなること予測していたのかもしれない。あるいは、聖女を擁する枢機卿派に間者がいたのか。
ソフィアたちの行方は、すぐ教皇派から知らされた。
――不慮の事態で聖女の一団が危機的状況にあったので、救出して保護している。
あまりにタイミングが良すぎる。そして、救出はしたが、こちらに送り届けるつもりはないらしいこと……。
保護とは名ばかりの人質であることは明らかだ。無事に返して欲しければ、戦争に使う武具を供給しろ……と暗に示している。
この事態に対し、セレスタン王はおれに「動くな」と言った。
下手に動けば、人質が危険に晒されるからだ。
では教皇派に従うかといえば、そうではなかった。
「娘の命惜しさに、同盟を裏切るわけにはいかぬ。国の名誉が傷つけば、未来において苦しむのは民草である」
あくまで譲歩しない構えだ。王として正しい考えだろう。
そして領地と領民を持つ貴族としても、同じ考えを持つべきなのだろう。
けれどできない。おれは、そこまで大きい人間じゃない。
「ソフィアは! ソフィアは一度、この国で傷つけられて、追放された。それが今度は、国に見捨てられようとしてるんだぞ! そんなことおれが許さない!」
「違う! 違うんだ、ショウ。見捨てはしない! 陛下は、外交努力でふたりを取り戻すつもりなんだ」
「どれだけかかるんだ! それに取り戻せる保証もない!」
「だからといって、今出て行ってどうなる!? 今は手段を考えるべきだ」
「けど――!」
そのとき、背後から抱きつかれる。ノエルだ。
「ショウ、お願いだから冷静になって……。あなたはどんな困難でも、いつだって冷静に解決してきたでしょ。冷静さは、あなたの武器よ。それを失わないで……」
アリシアも、真剣におれを見据える。
「私たちだって、同じ気持ちだ。ショウ、貴方が冷静に考え出した手段なら、どんなことだって協力する。だから……」
ノエルが震えているのがわかる。アリシアが今にも泣き出しそうな目をしていると、やっと気づく。
「……わかった」
ふたりから離れる。
「取り乱してしまって、ごめん。不安なのは一緒なのに……」
おれは頭を冷やすべく、お茶を入れることにする。
家人の手伝いを断り、厨房でみずから湯を沸かすところから始める。
炎の揺らめきが、ソフィアと旅してた頃の野宿を思い出させる。
茶葉の香りが、雑貨屋で一緒に買物をした光景を連想させる。
お茶の熱さが、ソフィアと交わした口づけの熱さを蘇らせる。
「ダメだ……」
今すぐ動きたくなる気持ちを、頭を振って追い出す。
冷静になれ……。
そもそも、保護されたというソフィアやサフラン王女の居所もわかっていない。
迎えに行くにしても、まずはそれを調べる必要がある。
かといって目立つことはできない。少なくとも、メイクリエ王国が関与していると知られるわけにはいかない。
となれば、身分を隠しての潜入となるだろう。
そこからソフィアたちの行方を探すアテは……以前ならあった。今はどこへ行ってしまったかわからない。
それに……。
「ダメだ……」
頭数が足りない。
ノエルもアリシアも一緒に来てくれるだろう。
しかしスートリア神聖国は強力な魔物が多い。それに対抗する勇者たちも強力だ。なにかの拍子でそれらと戦闘になったとき、三人では戦力不足だ。
特に、ノエルはS級魔法使いだが、実戦経験に乏しすぎる。
ならどうする?
模索していく中、やがて自分の考えに違和感を覚えていく。
どうしておれは、戦ってどうにかしようと考えている?
おれとソフィアの日々は、戦いなんかじゃなく、なにかを作り出す日々だったじゃないか。
おれは勇者じゃない。もう冒険者でもない。職人だ。
だったら職人らしいやり方がきっとある。
「それでも、足りない……」
やり方は思い浮かんだが、やはり頭数が足りない。
ソフィアほどでなくても、おれの考えを形にできる腕前の職人が必要だ。
それでいて、戦闘能力があることが望ましい。
贅沢を言うなら、ノエルの実戦経験の少なさを補えるA級以上の魔法使いも欲しい。
ケンドレッドやボロミアに頼りたいところだが、一方は消息不明で、もう一方は前線に立っていることだろう。
「ショウ様、お客様がいらっしゃいました」
家令のベネディクト氏に声をかけられ、おれは思考を中断させられる。
「こんなときに? 悪いけど、会っている暇はないんだ。帰ってもらえないかな」
「しかし紹介状を持って、はるばる海を渡っていらっしゃった方々です。無下になさっては、紹介主の顔を潰すことになります」
「紹介状? 誰からの?」
「ボロミア様と、ケンドレッド様からのようです」
「あのふたりからの!? わかった、会ってみよう」
そして、ふたりの男女が応接間に現れる。
目を合わせた瞬間、おれたちは互いに固まった。
「シ、オン……か?」
「エルウッドに、ラウラ……?」
「シオン……生きて、いたの……?」
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