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第2部 第2章 新たなる旅立ち
第97話 新婚旅行代わりになるかな
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スートリア神聖国での物作りの話になって、さっそくソフィアは聖女セシリーに熱い視線を送った。
「どのような物を作りたいか、作れそうか……なにかアテはあるのでしょうか?」
「申し訳ありません。そのアテさえ、私には検討がつかないのです」
「それでは見つけるところから始めてみましょう。聖女様、まずはスートリア神聖国のことを詳しくお聞かせください」
ソフィアは身を乗り出す勢いで食いついていく。
みんなで、それぞれの得意分野に関する質問を重ね、物作りのヒントを探っていく。
そして結論。ソフィアはセレスタン王に顔を向ける。
「陛下。スートリア神聖国へ実際に行かねば、最終的な判断はできそうにありません」
「うむ。特使を派遣する方向で考えよう。詳細は後ほど詰めるとして、他になにかあるか?」
「あっ」と聖女が思い出したかのように声を出した。みんなで注目するが、聖女は目を伏せてしまう。
「すみません。産業とは言えそうにないのですが……」
「それでも構いません。なんでも聞かせてください」
「実は、私の友人に、手足を失った方々のために義肢を作っている方がいるのですが、行き詰まりを感じているそうで……こちらにも予算や技術的なご援助をいただきたく……」
「殊勝な者がいるようだ。予算は検討しよう。技術は……」
王が話を区切る前に、ソフィアは「図面かなにかはありますか?」と問い、聖女から一枚の紙片を受け取っていた。
さっそく机に広げる。おれたちはそれを覗き込んだ。
「なるほど、本物と遜色なく動く義肢を作りたいんだな、この人は。これができれば、たくさんの人が救われる。凄くいい考えだ」
そう思う反面、おれは反省もする。
おれたちには、誰かの失った幸せを取り戻すという発想がなかった。
この義肢を考えた人はきっと、たくさんの物を失って、それでも誰かのために立ち上がれた人なのだろう。尊敬に値する。是非とも会ってみたい。
「重量と魔力回路の付与に関しては、射出成形技術で解決できるな。義肢に適した新素材があればいいんだが……」
「動力源も魔力石って書いてあるけど、人に直接付けるなら、要らないかも。使う人に魔法の基礎を教えれば、自分の魔力で動かせるようになるわ」
「問題は駆動系ですね。現状では駆動箇所が多すぎます。新素材で軽量化しても、まだかなり重くなるはずです」
その場でああだこうだと議論を始めてしまい、王の側近は呆れた顔をしていたが、王自身は笑っていた。
「今すぐ全部は解決できそうにないですが、こちらも是非手伝わせてください」
おれがそう言うと、聖女セシリーは嬉しそうに瞳を潤ませる。
「ありがとうございます……。私が、目の前で救い切れなかった方も数多くいるのです。その方々を救えるのなら、私もなんでもいたします」
その後も会談は続き、おれたちとサフラン王女の五人は特使の中心として派遣されることに決まった。
そのうちソフィアとサフラン王女のふたりが、先行して聖女たちとともにスートリア神聖国へ向かうこととなる。
「やっぱり、遅らせることはできないかな?」
ソフィアの出立前、おれは何度目かの問いを投げかけていた。
「はい。聖女様をお待たせするわけにはいきませんから。それに、先と言っても二週間程度のことです」
おれとしてはソフィアから片時も離れたくなかったが、貴族として処理すべき雑務があって一緒に出発することはできそうになかった。
アリシアも同様。ノエルは作っておきたい物があるから、と出発を先送りにした。
「……こうなったら大急ぎで仕事を片付けるよ。それですぐ追いつく。絶対、すぐに」
「はい、期待しています」
ソフィアが顎を上げて目をつむる。その唇にキスをする。
それで離れようと思ったが、どうしても離れがたくて抱きしめてしまう。
「でもやっぱり一緒がいいなぁ……」
ソフィアは手を伸ばし、おれの背中や肩を撫でてくれる。
「もう。甘えん坊さんになるのは、夜だけの約束ですよ……?」
ソフィアのほうから、そっと離れる。それから、おれの唇に人差し指をそっと当てた。
「めっ、ですよ。いつもの頼りになるところを見せてください」
おれは観念して、苦笑する。
「わかったよ。少しだけ頑張る」
「はい。向こうで合流したら、暇を見つけてデートしましょう。楽しみにしていますから」
「うん。新婚旅行代わりになるかな。一応、仕事なんだけどね」
「新婚旅行先で物を作るなら、わたしたちらしいです」
そうしてソフィアは、サフラン王女と聖女セシリーと共に出立していった。
おれは宣言通り、大急ぎで貴族の仕事をこなした。
アリシアやノエルのことも手伝い、二週間かかるところを十日で終わらせた。
これで出発できる。急げば、スートリア神聖国に到着する前に合流できるかもしれない。
そう思っていた。だが甘かった。
おれたちの出発の直前。
スートリア神聖国が、ロハンドール帝国へ侵攻したという報が届く。
そして同時に、ソフィアたちを含む聖女の一団が行方不明になったと聞かされた。
「どのような物を作りたいか、作れそうか……なにかアテはあるのでしょうか?」
「申し訳ありません。そのアテさえ、私には検討がつかないのです」
「それでは見つけるところから始めてみましょう。聖女様、まずはスートリア神聖国のことを詳しくお聞かせください」
ソフィアは身を乗り出す勢いで食いついていく。
みんなで、それぞれの得意分野に関する質問を重ね、物作りのヒントを探っていく。
そして結論。ソフィアはセレスタン王に顔を向ける。
「陛下。スートリア神聖国へ実際に行かねば、最終的な判断はできそうにありません」
「うむ。特使を派遣する方向で考えよう。詳細は後ほど詰めるとして、他になにかあるか?」
「あっ」と聖女が思い出したかのように声を出した。みんなで注目するが、聖女は目を伏せてしまう。
「すみません。産業とは言えそうにないのですが……」
「それでも構いません。なんでも聞かせてください」
「実は、私の友人に、手足を失った方々のために義肢を作っている方がいるのですが、行き詰まりを感じているそうで……こちらにも予算や技術的なご援助をいただきたく……」
「殊勝な者がいるようだ。予算は検討しよう。技術は……」
王が話を区切る前に、ソフィアは「図面かなにかはありますか?」と問い、聖女から一枚の紙片を受け取っていた。
さっそく机に広げる。おれたちはそれを覗き込んだ。
「なるほど、本物と遜色なく動く義肢を作りたいんだな、この人は。これができれば、たくさんの人が救われる。凄くいい考えだ」
そう思う反面、おれは反省もする。
おれたちには、誰かの失った幸せを取り戻すという発想がなかった。
この義肢を考えた人はきっと、たくさんの物を失って、それでも誰かのために立ち上がれた人なのだろう。尊敬に値する。是非とも会ってみたい。
「重量と魔力回路の付与に関しては、射出成形技術で解決できるな。義肢に適した新素材があればいいんだが……」
「動力源も魔力石って書いてあるけど、人に直接付けるなら、要らないかも。使う人に魔法の基礎を教えれば、自分の魔力で動かせるようになるわ」
「問題は駆動系ですね。現状では駆動箇所が多すぎます。新素材で軽量化しても、まだかなり重くなるはずです」
その場でああだこうだと議論を始めてしまい、王の側近は呆れた顔をしていたが、王自身は笑っていた。
「今すぐ全部は解決できそうにないですが、こちらも是非手伝わせてください」
おれがそう言うと、聖女セシリーは嬉しそうに瞳を潤ませる。
「ありがとうございます……。私が、目の前で救い切れなかった方も数多くいるのです。その方々を救えるのなら、私もなんでもいたします」
その後も会談は続き、おれたちとサフラン王女の五人は特使の中心として派遣されることに決まった。
そのうちソフィアとサフラン王女のふたりが、先行して聖女たちとともにスートリア神聖国へ向かうこととなる。
「やっぱり、遅らせることはできないかな?」
ソフィアの出立前、おれは何度目かの問いを投げかけていた。
「はい。聖女様をお待たせするわけにはいきませんから。それに、先と言っても二週間程度のことです」
おれとしてはソフィアから片時も離れたくなかったが、貴族として処理すべき雑務があって一緒に出発することはできそうになかった。
アリシアも同様。ノエルは作っておきたい物があるから、と出発を先送りにした。
「……こうなったら大急ぎで仕事を片付けるよ。それですぐ追いつく。絶対、すぐに」
「はい、期待しています」
ソフィアが顎を上げて目をつむる。その唇にキスをする。
それで離れようと思ったが、どうしても離れがたくて抱きしめてしまう。
「でもやっぱり一緒がいいなぁ……」
ソフィアは手を伸ばし、おれの背中や肩を撫でてくれる。
「もう。甘えん坊さんになるのは、夜だけの約束ですよ……?」
ソフィアのほうから、そっと離れる。それから、おれの唇に人差し指をそっと当てた。
「めっ、ですよ。いつもの頼りになるところを見せてください」
おれは観念して、苦笑する。
「わかったよ。少しだけ頑張る」
「はい。向こうで合流したら、暇を見つけてデートしましょう。楽しみにしていますから」
「うん。新婚旅行代わりになるかな。一応、仕事なんだけどね」
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