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幕間
第84話 番外編⑫ 学び始めた者と師匠
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ラウラをロハンドール帝国魔法学院へ送り届けたあと、エルウッドは港町ディストンに滞在していた。
メイクリエ王国への船代を稼ぐために、この辺りで仕事をしなければならない。
だがどうせなら、仕事のための装備は自作したい。
エルウッドは町の鍛冶屋の工房を借りて、斧と盾を製作している。
前回の製作品より良い物にしようと、試行錯誤していたところ……。
「よお、若いの。なに作ってんだ?」
旅人と思わしき男が、興味深そうにエルウッドの作業を覗き込んでいた。
「オレの斧と盾を作ってる」
「へえ……。冒険者が自分で自分に合った装備を作るってのはそう珍しかねえが……お前、そんな腕前じゃ、戦士としての実力に見合った物は作れねえぞ」
「オレの実力なんか知らないだろう、おっさん」
「いや、わかるぜ」
男はにやりと笑った。
「筋肉の付き方からして盾役だろう。かなりの修羅場をくぐってきてるようだが、ひどい傷痕がないところを見るに、使っていた装備はよほど質が良かったんだな。俺の見立てじゃあ、B級冒険者……だが、装備と仲間次第じゃS級パーティの一員ってところか」
エルウッドは作業の手を止め、男を見上げた。
「凄いな。なんでわかるんだ?」
「職人だからな。装備を使う人間のことは、本人以上にわかってなきゃならねえ」
「職人……」
「どうだ、若いの。お前の装備、俺が作ってやろうか? どうせ金がねえんだろ。格安でやってやるぜ」
「いや……金はないが、自作してるのはそれが理由じゃない」
「ほう? なんか訳ありか?」
「死んだ仲間に、物作りの好きだったやつがいてな。今更だが、オレはそいつの友になりたいんだ。物作りってのをもっと知ることで、な」
「そうか。それなら俺が出る幕じゃねえな。俺もダチを思い出すぜ……。いい理由だ。邪魔したな、若いの」
「待ってくれ、おっさん」
「なんだ?」
「オレに話しかけてくるくらいだ。暇なんだろ? オレに鍛冶仕事ってのを教えてくれよ」
「俺に弟子入りしたいってのか? 旅はいいのかよ。長い足止めになるぜ」
「別にいい。どうせ職人修業が目的だ。いい職人に会えたなら、教えを請うさ」
「なんで俺がいい職人だと思う?」
「さあな。オレも職人のことはまだよくわからねえけどよ……強いて言うなら目だ」
「俺の目か?」
「ああ、あんたが声をかけてきたときの目がな。死んだ仲間が、物作りしてるときの目に似てたんだよ。いかにもわくわくして、楽しそうって感じの目でな」
「そりゃ光栄だな……。へへっ、あいつらのお陰かもしれねえな……」
男は小さく呟いたあと、笑顔で頷いてくれた。
「わかった。弟子にしてやるよ」
「ありがとよ、おっさん。オレはエルウッド。あんたは?」
男は少々困ったような顔を見せる。
「名前なんかどうでもいいだろ」
「それじゃ呼ぶときに困る。なんで渋るんだ、名前くらいで」
「……前歴もなにもかも捨てて試してる途中なんだよ。名前を出したら台無しだ」
「なら偽名でもいい。名前を出さないことにこだわるのも、名前にこだわってるのと同じようなもんだぜ」
「言うじゃねえか。確かにな。ならケンドレッ――おっと、ケンだ。ケンと呼んでくれ」
「ああ、よろしくな。ケン師匠」
その日から、ケンの指導は始まった。
エルウッドの見立ては正しかった。
ケンは一流の職人で、教え方も上手い。エルウッドの向上心も相まって、その腕前はメキメキと上がっていくのだった。
メイクリエ王国への船代を稼ぐために、この辺りで仕事をしなければならない。
だがどうせなら、仕事のための装備は自作したい。
エルウッドは町の鍛冶屋の工房を借りて、斧と盾を製作している。
前回の製作品より良い物にしようと、試行錯誤していたところ……。
「よお、若いの。なに作ってんだ?」
旅人と思わしき男が、興味深そうにエルウッドの作業を覗き込んでいた。
「オレの斧と盾を作ってる」
「へえ……。冒険者が自分で自分に合った装備を作るってのはそう珍しかねえが……お前、そんな腕前じゃ、戦士としての実力に見合った物は作れねえぞ」
「オレの実力なんか知らないだろう、おっさん」
「いや、わかるぜ」
男はにやりと笑った。
「筋肉の付き方からして盾役だろう。かなりの修羅場をくぐってきてるようだが、ひどい傷痕がないところを見るに、使っていた装備はよほど質が良かったんだな。俺の見立てじゃあ、B級冒険者……だが、装備と仲間次第じゃS級パーティの一員ってところか」
エルウッドは作業の手を止め、男を見上げた。
「凄いな。なんでわかるんだ?」
「職人だからな。装備を使う人間のことは、本人以上にわかってなきゃならねえ」
「職人……」
「どうだ、若いの。お前の装備、俺が作ってやろうか? どうせ金がねえんだろ。格安でやってやるぜ」
「いや……金はないが、自作してるのはそれが理由じゃない」
「ほう? なんか訳ありか?」
「死んだ仲間に、物作りの好きだったやつがいてな。今更だが、オレはそいつの友になりたいんだ。物作りってのをもっと知ることで、な」
「そうか。それなら俺が出る幕じゃねえな。俺もダチを思い出すぜ……。いい理由だ。邪魔したな、若いの」
「待ってくれ、おっさん」
「なんだ?」
「オレに話しかけてくるくらいだ。暇なんだろ? オレに鍛冶仕事ってのを教えてくれよ」
「俺に弟子入りしたいってのか? 旅はいいのかよ。長い足止めになるぜ」
「別にいい。どうせ職人修業が目的だ。いい職人に会えたなら、教えを請うさ」
「なんで俺がいい職人だと思う?」
「さあな。オレも職人のことはまだよくわからねえけどよ……強いて言うなら目だ」
「俺の目か?」
「ああ、あんたが声をかけてきたときの目がな。死んだ仲間が、物作りしてるときの目に似てたんだよ。いかにもわくわくして、楽しそうって感じの目でな」
「そりゃ光栄だな……。へへっ、あいつらのお陰かもしれねえな……」
男は小さく呟いたあと、笑顔で頷いてくれた。
「わかった。弟子にしてやるよ」
「ありがとよ、おっさん。オレはエルウッド。あんたは?」
男は少々困ったような顔を見せる。
「名前なんかどうでもいいだろ」
「それじゃ呼ぶときに困る。なんで渋るんだ、名前くらいで」
「……前歴もなにもかも捨てて試してる途中なんだよ。名前を出したら台無しだ」
「なら偽名でもいい。名前を出さないことにこだわるのも、名前にこだわってるのと同じようなもんだぜ」
「言うじゃねえか。確かにな。ならケンドレッ――おっと、ケンだ。ケンと呼んでくれ」
「ああ、よろしくな。ケン師匠」
その日から、ケンの指導は始まった。
エルウッドの見立ては正しかった。
ケンは一流の職人で、教え方も上手い。エルウッドの向上心も相まって、その腕前はメキメキと上がっていくのだった。
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