S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ

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第1部 第7章 ライバル -最高の盾-

第77話 褒美を取らそう

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 セレスタン王はヒルストンたちへの追求は後回しにして、悠然とおれたちの顔を見渡した。

「お前たちの働きは素晴らしいものである。この国を――いや世界を変える産業となるだろう。その功績に報いて褒美を取らそう」

 まず王は、ソフィアの手を取った。

「ソフィア・シュフィール。追放された身でありながら、腕に磨きをかけ我が国に戻ってきてくれたことに感謝する。ギルドへの復帰と、没収されていた生家の工房を返却させよう」

「……ありがとうございます」

 続いて王は、ノエルの前へ。

「魔法使いノエルよ。射出成形インジェクションなる技術の確立は、お前の魔法無くして実現しなかったと聞いている。望みがあれば、なんなりと申してみよ」

「アタシの望みは、おとぎ話の優しい魔法使いさんみたいに困った人を助けること。それだけです」

「ならば我が家名を刻んだエンブレムを授けよう。国賓としての身分を示すだけでなく、同盟国内においても最大限の協力が得られよう。今後、旅することがあれば大いに役に立つ」

「そんな凄い物を……? ありがとうございます!」

 続いてアリシア。

「アリシア・ガルベージ。もはや騎士でなくなっても変わらぬ忠誠心。余は果報者である。ヒルストンに預けたガルベージ家の領地は、すべてお前のもとに戻そう」

「陛下……。ありがとうございます……」

 そして、いよいよおれの前に王は立った。

「冒険者のショウ。みなをよくまとめ、革新的なアイディアを次々に提案し、それらを実現させてきたお前は、此度の最大の功労者だ。望みを申してみよ」

「おれの望みは、物を作ることで人を幸せにすることです。まずは、おれの愛する人たちを幸せにしたい」

「そのために、なにを作る?」

 おれはちらりとソフィアを見やる。彼女と目が合い、小さく笑い合う。

「地位を作りたい。どんなに小さくてもいい。領地をいただきたい」

「貴族に名を連ねたいと申すか。これは願ってもないこと。ショウよ、喜びを持って迎え入れよう。ちょうど、処置に悩んでいた土地がある」

 王は微笑むと、ヒルストンを睨んでから、また柔和な表情をおれに見せた。

「今はヒルストン領と呼ばれる土地の、三分の一ほどを与えよう」

「お、お待ち下さい!」

 いよいよヒルストンが駆けてきて、滑り込むように王の前にひざまずいた。

「いかに陛下のご采配とはいえ、それは認められませぬ!」

「リチャード・ヒルストンよ。今度はどんな言い訳をするのだ?」

 厳格に言い放たれてヒルストンは一瞬怯むが、首を横に振って抗議する。

「我が身可愛さゆえの提言ではございません! アリシア殿は、元々は右腕の怪我により、領地を守る力なしと判断されての所領没収だったはず。ショウ殿も、いかに功績を残そうとも所詮は冒険者。双方とも、領地を守り抜く力があるとは思えませぬ!」

 セレスタン王は顎に手をやり、立派な髭を撫でた。

「ならばリチャードよ。お前が両名の力を決闘にて確かめよ」

「決闘にございますか?」

「ふたりが敗れたならば、お前の言い分が正しかったと認めよう。しかしふたりが勝利したならば、実力はお前以上と判断し、ヒルストン領のすべてをふたりに与える」

 ヒルストンが王には見えぬよう、にやりとほくそ笑んだのをおれは見た。

「決闘ならば、間違いが起こる恐れもございますが……」

「その間違いがお前に降り注ぐかもしれぬことを忘れるな」

「承知いたしました。このリチャード・ヒルストン。すべての力をもって決闘に挑みましょう」

 頷いてから、王はわざとらしく困ったような顔を見せた。

「しかしこれでは褒美に差がありすぎるな。公平ではない。そこでソフィアよ」

「は、はい……」

 急に話を振られて、ソフィアは目を丸くしている。

「職人ギルドの長になる気概はあるか? 余はお前にその地位を贈りたいが」

 ソフィアが答える前に、ギルド長が声を上げる。

「陛下、どういうおつもりか?」

「ギルド長は、この国最高の職人が担うべきだ。それはお前ではないと、余は考えている」

「にわかには納得できぬ話です」

「ならばお前も実力を示せ」

 短く言い放って、王はおれたちへ向き直る。

「その方らは、いかがか?」

 おれに断る理由はない。ソフィアと約束した。

「受けて立ちます」

「私も。素晴らしい機会をお与えくださり感謝いたします」

 アリシアも凛然と答える。

 最後にソフィアは、静かに問う。

「……ギルド長になったら、ギルドのあり方を変えることができるのでしょうか?」

「もちろん、できるだろう」

「つまらない利権から、物を作る幸せを守れる組織に作り直せるでしょうか?」

「お前が望むなら。すべてはお前次第だ」

 ソフィアは深く頷いた。

「やらせてください」

 王は満足そうに頷いた。

「ならば双方とも、急ぎ準備に取り掛かるがいい。決闘の詳細は追って通達する」

 すごすごと立ち去っていくヒルストン一派。

 おれたちのほうは、王がまだその場にいて帰るに帰れない。

「すまぬな、ノエル。お前にももうひとつ褒美を贈りたいが、今は思いつかん」

「あ、いいですいいです。アタシ、ショウが貴族になってくれたら、それが最高のご褒美になるっていうか……えへへへへっ」

 などと雑談して、ヒルストンたちが見えなくなってから、王は目を細めた。

「お前たち、遠慮などいらぬぞ。やつらを徹底的に叩き潰せ」

「陛下?」

 こちらに肩入れしすぎた言い様に、アリシアは驚いている。

「余がやつらの悪行を今日まで知らぬと思っていたか? 此度のように、すべての膿を出せる機会をずっと窺っていたのだよ」

 そう言って、王はおれの肩を叩いた。

「期待しているぞ。お前たちの勝利と、胸が躍るような物作りにな」

 初対面で感じた威厳はどこへやら。

 セレスタン王の笑顔はどこか子供っぽい無邪気なもので、おれはとても好感を覚えたのだった。
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