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第1部 第5章 最高の仲間たち -製造準備-
第51話 恋人に、なってくれますか?
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おれとソフィアは揃ってケンドレッドを睨みつける。
「デートだと思うのなら、どうして話しかけてきたのですか」
「本当に、空気を読んでいただきたい」
ケンドレッドはおれたちの視線と声に怯んで、一歩二歩と後ずさった。
「なんだよ、今日はやたらとド迫力じゃねえか……」
「当たり前です。あなたは、わたしを怒らせたのです。せっかくの雰囲気を、よくもです……!」
珍しく顔を真っ赤にしてソフィアが抗議する。本当に悔しそうで、涙目になっている。
普段ならなだめるところだが、今回はおれも腹の虫が治まらない。
「わざわざ声をかけてきたんだ。よほど緊急の用事とお見受けするが、なんの用件です?」
「いや……ちょいと世間話でもと思っただけでよぉ……」
ソフィアは握った拳をぷるぷる震わせる。やがて大きな深呼吸で怒りを吐き出そうとする。
「話すことはありません。ショウさん、帰りましょう」
おれは頷いてケンドレットに背中を向ける。
「なんだよ、おい。くそ、逃げんのかよ」
無視すると、今度は笑い出した。
「へへへっ、そりゃあそうだよぁ。お前らにゃ、あと三ヶ月しかねえんだ。恋人といちゃついてる場合じゃねぇよなぁ。せいぜい急いで帰って精を出しな。ま、頑張っても出来ねえもんは出来ねえだろうけどよぉ」
ぴたりと立ち止まり、ソフィアは振り返る。
「出来ます」
「ほうほう~? そのセリフ、追放前にも聞いたなぁ? 結局出来なかったよなぁ?」
「今のわたしは違います。ショウさんが……ノエルさんや、アリシアさんがついています。必ずやってみせます」
おれはソフィアの背中を支えるように、後ろから彼女の両肩に手を置く。
「むしろおれは、あなたのお弟子さんたちに同情するよ。おれたちと同じ時期に登録してたんだ。そちらの期限もあと三ヶ月だろう? 大変そうだ」
「へっ、こっちはお前らみてえな怪しい弱小工房と違って信用があるんだよ。期限は短縮されちゃいねえ。ざまあみろってんだ」
おれとソフィアは以心伝心とばかりに、揃って苦笑いを浮かべてやる。
「なるほど。協会からは三ヶ月じゃ無理だと思われたのか」
「お師匠様からも協会からも信用してもらえないなんて、お弟子さんが可哀想……」
「違えよ! 俺の弟子どもをバカにするんじゃねえ!」
「でもケンドレッドさんも、三ヶ月じゃ頑張っても出来ないって言っただろう?」
「お前らが、出来ねえって意味に決まってんだろ! うちの工房の弟子どもなら、あと三ヶ月でも余裕に決まってんだよ。期限短縮を食らってねえってだけだっつの」
「信じているのは素晴らしいことですが、それだけでは、わたしたちにはわからないのです」
「やっぱり職人なら、口じゃなく腕で証明してくれないと」
「言いやがったな! だったら見せてやろうじゃねえかよ、ペトロア工房の格の違いをよぉ! 三ヶ月後を楽しみに待ってやがれ!」
ふんっ、と鼻を鳴らし、ケンドレッドは大股で歩き去っていった。
おれとソフィアはその背中を見送ることなく、さっさと帰路につく。
「まったく……。デリカシーのない人だ」
「まったくです。本当に、まったくです」
ソフィアはまだご立腹だったが、そんな怒った顔も可愛いとおれは思ってしまう。
「しかし煽っちゃったなぁ」
「はい。煽りました。痛快です」
その一言がきっかけで、おれたちは互いに笑い合う。
それから帰り道を連れ立って歩いていると、ふと、ソフィアがぽつりと呟いた。
「……恋人同士だと、思われていましたね」
「おれとしては嬉しい勘違いだけど……。今度会ったときには訂正しとくよ」
「いえ。それは面倒なので、本当に恋人になってしまいませんか」
「うん……うん!?」
あまりに何気なく言い放たれたせいで、理解が追いつかなかった。
ソフィアは澄まし顔でてくてく歩いているが、その実、顔は耳まで赤いし、チラチラとこちらに向けられる瞳は落ち着きがない。
おれはなにも言えず、ただソフィアを見つめるだけになってしまう。
「なにか言ってくれないと、困ってしまいます……」
本当に困ったように言うので、おれはやっとのことで喉から言葉を絞り出す。
「……なんちゃって、って言わないんだね」
どちらともなく立ち止まる。
黄色く綺麗なソフィアの瞳は、おれだけを映していた。
「はい。冗談ではなく、わたしは本当に、ショウさんのことが好きですから」
嬉しさが急に込み上がってきて、思わず視界が滲む。唇も震えてしまう。
「でも、あれ? 君には他に好きな人がいるんじゃ……」
すると、ため息混じりの笑みが返ってくる。
「ショウさんは、とても賢くて頼りになるのに、ときどき、どうしようもなくおバカさんになります」
ソフィアは一歩踏み込んで、人差し指をおれの唇に立てた。
「勘違いは、めっ、です。お仕置きしちゃいますよ」
人差し指を離すと、今度はおれの胸に両手を当て、そっと背伸びして目を閉じる。
柔らかく滑らかな唇が、おれの唇に触れた。
ただ触れ合うだけの短いキス。
それだけでもおれは、竜に火で炙られたときみたいに顔が熱くなる。
ソフィアも真っ赤になっていたが、こちらから視線は外さない。
「恋人に、なってくれますか?」
おれは行動で答えを示した。
ソフィアを抱き寄せ、優しくそっと口づけをする。
「恋人になろう、ソフィア。君を幸せにする。君と一緒に歩んでいきたい」
ソフィアは恥ずかしげに微笑みを返してくれる。
「はい。嬉しい、です。ふつつか者ですが、どうかよろしくお願いします」
「デートだと思うのなら、どうして話しかけてきたのですか」
「本当に、空気を読んでいただきたい」
ケンドレッドはおれたちの視線と声に怯んで、一歩二歩と後ずさった。
「なんだよ、今日はやたらとド迫力じゃねえか……」
「当たり前です。あなたは、わたしを怒らせたのです。せっかくの雰囲気を、よくもです……!」
珍しく顔を真っ赤にしてソフィアが抗議する。本当に悔しそうで、涙目になっている。
普段ならなだめるところだが、今回はおれも腹の虫が治まらない。
「わざわざ声をかけてきたんだ。よほど緊急の用事とお見受けするが、なんの用件です?」
「いや……ちょいと世間話でもと思っただけでよぉ……」
ソフィアは握った拳をぷるぷる震わせる。やがて大きな深呼吸で怒りを吐き出そうとする。
「話すことはありません。ショウさん、帰りましょう」
おれは頷いてケンドレットに背中を向ける。
「なんだよ、おい。くそ、逃げんのかよ」
無視すると、今度は笑い出した。
「へへへっ、そりゃあそうだよぁ。お前らにゃ、あと三ヶ月しかねえんだ。恋人といちゃついてる場合じゃねぇよなぁ。せいぜい急いで帰って精を出しな。ま、頑張っても出来ねえもんは出来ねえだろうけどよぉ」
ぴたりと立ち止まり、ソフィアは振り返る。
「出来ます」
「ほうほう~? そのセリフ、追放前にも聞いたなぁ? 結局出来なかったよなぁ?」
「今のわたしは違います。ショウさんが……ノエルさんや、アリシアさんがついています。必ずやってみせます」
おれはソフィアの背中を支えるように、後ろから彼女の両肩に手を置く。
「むしろおれは、あなたのお弟子さんたちに同情するよ。おれたちと同じ時期に登録してたんだ。そちらの期限もあと三ヶ月だろう? 大変そうだ」
「へっ、こっちはお前らみてえな怪しい弱小工房と違って信用があるんだよ。期限は短縮されちゃいねえ。ざまあみろってんだ」
おれとソフィアは以心伝心とばかりに、揃って苦笑いを浮かべてやる。
「なるほど。協会からは三ヶ月じゃ無理だと思われたのか」
「お師匠様からも協会からも信用してもらえないなんて、お弟子さんが可哀想……」
「違えよ! 俺の弟子どもをバカにするんじゃねえ!」
「でもケンドレッドさんも、三ヶ月じゃ頑張っても出来ないって言っただろう?」
「お前らが、出来ねえって意味に決まってんだろ! うちの工房の弟子どもなら、あと三ヶ月でも余裕に決まってんだよ。期限短縮を食らってねえってだけだっつの」
「信じているのは素晴らしいことですが、それだけでは、わたしたちにはわからないのです」
「やっぱり職人なら、口じゃなく腕で証明してくれないと」
「言いやがったな! だったら見せてやろうじゃねえかよ、ペトロア工房の格の違いをよぉ! 三ヶ月後を楽しみに待ってやがれ!」
ふんっ、と鼻を鳴らし、ケンドレッドは大股で歩き去っていった。
おれとソフィアはその背中を見送ることなく、さっさと帰路につく。
「まったく……。デリカシーのない人だ」
「まったくです。本当に、まったくです」
ソフィアはまだご立腹だったが、そんな怒った顔も可愛いとおれは思ってしまう。
「しかし煽っちゃったなぁ」
「はい。煽りました。痛快です」
その一言がきっかけで、おれたちは互いに笑い合う。
それから帰り道を連れ立って歩いていると、ふと、ソフィアがぽつりと呟いた。
「……恋人同士だと、思われていましたね」
「おれとしては嬉しい勘違いだけど……。今度会ったときには訂正しとくよ」
「いえ。それは面倒なので、本当に恋人になってしまいませんか」
「うん……うん!?」
あまりに何気なく言い放たれたせいで、理解が追いつかなかった。
ソフィアは澄まし顔でてくてく歩いているが、その実、顔は耳まで赤いし、チラチラとこちらに向けられる瞳は落ち着きがない。
おれはなにも言えず、ただソフィアを見つめるだけになってしまう。
「なにか言ってくれないと、困ってしまいます……」
本当に困ったように言うので、おれはやっとのことで喉から言葉を絞り出す。
「……なんちゃって、って言わないんだね」
どちらともなく立ち止まる。
黄色く綺麗なソフィアの瞳は、おれだけを映していた。
「はい。冗談ではなく、わたしは本当に、ショウさんのことが好きですから」
嬉しさが急に込み上がってきて、思わず視界が滲む。唇も震えてしまう。
「でも、あれ? 君には他に好きな人がいるんじゃ……」
すると、ため息混じりの笑みが返ってくる。
「ショウさんは、とても賢くて頼りになるのに、ときどき、どうしようもなくおバカさんになります」
ソフィアは一歩踏み込んで、人差し指をおれの唇に立てた。
「勘違いは、めっ、です。お仕置きしちゃいますよ」
人差し指を離すと、今度はおれの胸に両手を当て、そっと背伸びして目を閉じる。
柔らかく滑らかな唇が、おれの唇に触れた。
ただ触れ合うだけの短いキス。
それだけでもおれは、竜に火で炙られたときみたいに顔が熱くなる。
ソフィアも真っ赤になっていたが、こちらから視線は外さない。
「恋人に、なってくれますか?」
おれは行動で答えを示した。
ソフィアを抱き寄せ、優しくそっと口づけをする。
「恋人になろう、ソフィア。君を幸せにする。君と一緒に歩んでいきたい」
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