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第1部 第4章 憂国の没落騎士 -工房始動-
第41話 番外編⑤ 無知なる者の怠慢
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ジェイクが工房を改築し、武器の販売にまで手を広げてから数ヶ月。
店の売上はなんと、ラウラやエルウッドの予想を裏切り、ぎりぎりで黒字に転じていた。
いくつか要因はある。
まず、シオンが遺した竜殺しの剣を始めとする武具を、店頭に飾っているのである。売るつもりはないので価格はメイクリエ製品の二倍ほどに設定している。それでも伝説級の装備に憧れ、ひと目見ようと客がやってくるのだ。
次に、【クラフト】の噂を聞きつけた新人冒険者たちが、続々とやってくるからだ。
彼らはせいぜい粗悪な既製品を買う程度の資金力しかないが、少しでもいい装備が欲しい。
必死にかき集めた素材で作ってもらうにしても、普通の鍛冶屋では金も時間もかかる。
しかしジェイクなら、【クラフト】で安く早く作ってくれるのだ。
質に関しては褒められたものではなかったが、自分に合わせた、自分だけの武器というのは、下手な高級品より扱いやすく、実力を発揮させやすかった。
おまけに、注文を細かくすればするほど、なぜか質も良くなるという点も一部で評判となっていた。
「ジェイク、ちょっと飲み過ぎよ。黒字って言ってもぎりぎりなんだからね。無駄遣いは控えなさいよ」
「うるせえなぁ、飲んでるときのほうが調子がいいんだよ、俺はよぉ。そのための酒ならよぉ、必要経費だろぉ、なあ」
ジェイクは調子に乗って、酒びたりの日が続いていた。
今でも暇があれば鍛錬しているエルウッドと違い、ジェイクは暇さえあれば寝るか、飲むかしかない。
それでも経営が成り立っているうちは良かった。しかし……。
「ふざけんじゃねえ、詐欺師野郎! 金を返しやがれ!」
「あぁん!? てめえの使い方が悪いんだろうがよ! アダマント製の剣がそう簡単に折れるかっつーんだよ! 三流剣士が舐めた口きいてんじゃねえ!」
客との言い争いを聞きつけ、工房の奥からラウラとエルウッドが顔を出す。
「なに? どうしたの、なんのクレーム?」
「この間抜けがよぉ、剣が折れたつってイチャモンつけてきてやがんだよ!」
聞けば、この客は希少素材であるアダマントを運良く手に入れたのだそうだ。これで是非剣を作りたいが、普通の鍛冶屋の相場価格は払えない。そこで多少の品質の低さは目をつむり、ジェイクに【クラフト】を依頼したのだという。
ところが、出来上がった剣で挑んだ魔物討伐依頼の最中、ここぞというときに剣が折れてしまったのだそうだ。
「お陰で依頼が失敗しただけじゃねえ、仲間がふたりも重傷だ! ひとりは今にも死ぬかもしれねえ! 治療士に診せる金が必要なんだよ! とっとと金を出しやがれ!」
それを聞いて、すぐにエルウッドは店の金を鷲掴みにした。
「それは大変だ! ひとまずこれを持っていけ!」
「エルウッド! てめえ、なんのつもりだ!」
「命がかかってるんだろ! 誰の責任かなんてあとだ!」
「ろくに仕事もしてねえくせに、なに勝手抜かしてやがる!」
「いいから! 早く持っていって!」
ラウラがジェイクを抑え、その隙にエルウッドが客にいくらかの金を渡す。
客はその金を握りしめ、背中を向ける。
「あとで正式に訴えるからな!」
数日後、その客の仲間は無事に命を取り留めたという。
ラウラとエルウッドは胸を撫で下ろすが、そのさらに数日後に息が止まるような事態に発展した。
職人ギルドから、賠償命令が下ったのである。
アダマントは非常に硬い素材であるが、その反面、柔軟性に欠ける。つまり衝撃を吸収することができない。強烈な衝撃を受けると、意外とあっさり折れてしまうのだ。
そのため剣に加工する際には、柔軟性のある他の金属と組み合わせて、硬度と柔軟性を併せ持つ構造にしなければならない。
そんなことジェイクは知らなかった。
だが、知らなかったでは済まされない。製造者には責任がある。
扱いきれない素材になど、手を出すべきではなかったのだ。
ジェイクは不服だったが、賠償金を払わなければ職人ギルドから追放され、商売ができなくなる。
仕方なく竜殺しの剣を担保にまた借金をして、高額な賠償金を支払ったのだが……。
「くそ! くそくそくそ! なんでこうなるんだよ、ちくしょお! ラウラ、エルウッド! 冒険者ギルドへ行くぞ! 今の稼ぎじゃ足りねえ。このままじゃ俺の剣が持っていかれちまう!」
「それはいいけどよ、ジェイク、冒険者の仕事は久しぶりだろう。まずは低級から慣らそうぜ」
「そんなチンタラやってられるかよ!」
ジェイクはエルウッドの反対を押し切り、できるだけ報酬の高いA級の依頼を受けた。
しかし因果は、返ってくるものである。
酒びたりの生活ですっかり体の鈍ったジェイクに、こなせる依頼ではなかった。
ジェイクは負傷とその際に受けた毒で数週間は再起不能となり、依頼はもちろん失敗。
返済日の延期を願い出るが聞き入れられず、ジェイクは借金のカタに、竜殺しの剣を失った。
店の売上はなんと、ラウラやエルウッドの予想を裏切り、ぎりぎりで黒字に転じていた。
いくつか要因はある。
まず、シオンが遺した竜殺しの剣を始めとする武具を、店頭に飾っているのである。売るつもりはないので価格はメイクリエ製品の二倍ほどに設定している。それでも伝説級の装備に憧れ、ひと目見ようと客がやってくるのだ。
次に、【クラフト】の噂を聞きつけた新人冒険者たちが、続々とやってくるからだ。
彼らはせいぜい粗悪な既製品を買う程度の資金力しかないが、少しでもいい装備が欲しい。
必死にかき集めた素材で作ってもらうにしても、普通の鍛冶屋では金も時間もかかる。
しかしジェイクなら、【クラフト】で安く早く作ってくれるのだ。
質に関しては褒められたものではなかったが、自分に合わせた、自分だけの武器というのは、下手な高級品より扱いやすく、実力を発揮させやすかった。
おまけに、注文を細かくすればするほど、なぜか質も良くなるという点も一部で評判となっていた。
「ジェイク、ちょっと飲み過ぎよ。黒字って言ってもぎりぎりなんだからね。無駄遣いは控えなさいよ」
「うるせえなぁ、飲んでるときのほうが調子がいいんだよ、俺はよぉ。そのための酒ならよぉ、必要経費だろぉ、なあ」
ジェイクは調子に乗って、酒びたりの日が続いていた。
今でも暇があれば鍛錬しているエルウッドと違い、ジェイクは暇さえあれば寝るか、飲むかしかない。
それでも経営が成り立っているうちは良かった。しかし……。
「ふざけんじゃねえ、詐欺師野郎! 金を返しやがれ!」
「あぁん!? てめえの使い方が悪いんだろうがよ! アダマント製の剣がそう簡単に折れるかっつーんだよ! 三流剣士が舐めた口きいてんじゃねえ!」
客との言い争いを聞きつけ、工房の奥からラウラとエルウッドが顔を出す。
「なに? どうしたの、なんのクレーム?」
「この間抜けがよぉ、剣が折れたつってイチャモンつけてきてやがんだよ!」
聞けば、この客は希少素材であるアダマントを運良く手に入れたのだそうだ。これで是非剣を作りたいが、普通の鍛冶屋の相場価格は払えない。そこで多少の品質の低さは目をつむり、ジェイクに【クラフト】を依頼したのだという。
ところが、出来上がった剣で挑んだ魔物討伐依頼の最中、ここぞというときに剣が折れてしまったのだそうだ。
「お陰で依頼が失敗しただけじゃねえ、仲間がふたりも重傷だ! ひとりは今にも死ぬかもしれねえ! 治療士に診せる金が必要なんだよ! とっとと金を出しやがれ!」
それを聞いて、すぐにエルウッドは店の金を鷲掴みにした。
「それは大変だ! ひとまずこれを持っていけ!」
「エルウッド! てめえ、なんのつもりだ!」
「命がかかってるんだろ! 誰の責任かなんてあとだ!」
「ろくに仕事もしてねえくせに、なに勝手抜かしてやがる!」
「いいから! 早く持っていって!」
ラウラがジェイクを抑え、その隙にエルウッドが客にいくらかの金を渡す。
客はその金を握りしめ、背中を向ける。
「あとで正式に訴えるからな!」
数日後、その客の仲間は無事に命を取り留めたという。
ラウラとエルウッドは胸を撫で下ろすが、そのさらに数日後に息が止まるような事態に発展した。
職人ギルドから、賠償命令が下ったのである。
アダマントは非常に硬い素材であるが、その反面、柔軟性に欠ける。つまり衝撃を吸収することができない。強烈な衝撃を受けると、意外とあっさり折れてしまうのだ。
そのため剣に加工する際には、柔軟性のある他の金属と組み合わせて、硬度と柔軟性を併せ持つ構造にしなければならない。
そんなことジェイクは知らなかった。
だが、知らなかったでは済まされない。製造者には責任がある。
扱いきれない素材になど、手を出すべきではなかったのだ。
ジェイクは不服だったが、賠償金を払わなければ職人ギルドから追放され、商売ができなくなる。
仕方なく竜殺しの剣を担保にまた借金をして、高額な賠償金を支払ったのだが……。
「くそ! くそくそくそ! なんでこうなるんだよ、ちくしょお! ラウラ、エルウッド! 冒険者ギルドへ行くぞ! 今の稼ぎじゃ足りねえ。このままじゃ俺の剣が持っていかれちまう!」
「それはいいけどよ、ジェイク、冒険者の仕事は久しぶりだろう。まずは低級から慣らそうぜ」
「そんなチンタラやってられるかよ!」
ジェイクはエルウッドの反対を押し切り、できるだけ報酬の高いA級の依頼を受けた。
しかし因果は、返ってくるものである。
酒びたりの生活ですっかり体の鈍ったジェイクに、こなせる依頼ではなかった。
ジェイクは負傷とその際に受けた毒で数週間は再起不能となり、依頼はもちろん失敗。
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