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第1部 第3章 心優しき魔法使い -海水淡水化装置-
第28話 アタシの出番でしょ
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「あははは! お仕事成功のかんぱーい!」
「ノエル、それ五回目だから」
おれたちは酒場で依頼達成の打ち上げをしていた。
ノエルはご機嫌にビールを何杯も飲み干しており、すっかり出来上がっている。
一方、ソフィアは甘めの果実酒をちびちびとやっている。顔が赤くなっていくほどに目が据わり、無口になっていく。頬を緩ませて、左右に揺れているので楽しんではいるのだろう。
「でもごめーん! 報酬少なくてごめーん! アタシがもらってた前金からしか出せないんだもん。必要経費で赤字出てるでしょ!? 本当にごめんー!」
「いいって。おれたちが手伝ったのは、お金のためじゃない」
ソフィアが同意して無言でうんうんと頷く。
「はー? もうー、今時そんなことさらりと言えちゃうー? ちょっと格好良すぎないー!?」
ソフィアがまたうんうん頷く。
「そういえば、そうかな……」
思えば『フライヤーズ』の一員だった頃は、もう少しドライだった気がする。
でも、今の自分のほうがしっくり来る。ソフィアと旅をして、いい意味で彼女の影響を受けているのかもしれない。
「でもでも、お金のためじゃないんならなんのためー? もしかして、ア・タ・シ?」
両腕で胸を挟み、谷間を強調しながら色っぽく迫ってくる。
「うん、実はそうなんだ」
「へ?」
「是非とも君が欲しい」
ソフィアの揺れが止まった。据わった目で、じっとこちらを見つめてくる。
ノエルは慌てたように両手をパタパタさせる。
「えー、ちょ、待っ、えー……困るぅ。アタシ、知らないうちに誘惑しちゃってた的な?」
「誘惑……うん、まあそうかも。君にはだいぶ魅せられたよ。困らせちゃうかな?」
「え、え、本気? 本気なら、アタシ、あぅ、困るけど……一晩くらいなら」
「本気だし、一晩じゃ嫌だよ」
「でも、だって、それ以上はソフィアに悪いじゃん……」
「ソフィアもそのつもりだと思うよ。おれたちの仕事には魔力回路を作れる魔法使いがどうしても必要なんだ。それが君みたいな、尊敬できる信念を持った魔法使いならこれ以上ない。考えてくれないかな」
「でも仕事だからってぇ……仕事?」
酔いが覚めたかのように、ノエルの表情が固くなる。
「そう、面白いアイディアがあってね。世界初の技術になると思う。それを作るには、どうしても魔法の力が必要なんだ」
「あー……、はいはい、仕事、仕事ねー。うん、いや最初からわかってたし? ちょっと飲みすぎたかなー、顔が熱いわー。アタシ、バカだなー。知ってたはずなのになー」
「知ってた? ああ、ソフィアから聞いてたのかな」
「そうよ、そう。あなたがそういうやつってこと聞いてたし、さっきも見てたのに、本当、不覚だったわ。侮ってたわ、もう……」
呆れたような大きくため息をつかれる。
「君の夢からすれば寄り道だろうし、困らせちゃうのもわかるから、あんまり強くは誘えないんだけど……」
「いいえ、魔法の助けを求めてるなら、アタシの出番でしょ」
「じゃあ手を貸してもらえるんだね?」
「うん、助けてもらった恩義もあるし。あなたたちが面白いって言うんなら、本当に面白い仕事になりそうだもの」
「ありがとう、嬉しいよ」
おれはノエルに握手を求める。ノエルは笑顔で応じてくれる。
そこにソフィアが椅子ごと移動してきて、おれとノエルの手を両手で包み込む。
それから、ふらりと揺れて、ソフィアはおれの肩に頭を乗せた。
すー、すー、と寝息を立て始める。
「あらあら、可愛い寝顔♪」
ソフィアのぬくもりと、甘えるような幸せそうな寝顔に、つい口元がほころぶ。
「仕事の話は明日にしようか。今日はもうお開きってことで」
「ノエル、それ五回目だから」
おれたちは酒場で依頼達成の打ち上げをしていた。
ノエルはご機嫌にビールを何杯も飲み干しており、すっかり出来上がっている。
一方、ソフィアは甘めの果実酒をちびちびとやっている。顔が赤くなっていくほどに目が据わり、無口になっていく。頬を緩ませて、左右に揺れているので楽しんではいるのだろう。
「でもごめーん! 報酬少なくてごめーん! アタシがもらってた前金からしか出せないんだもん。必要経費で赤字出てるでしょ!? 本当にごめんー!」
「いいって。おれたちが手伝ったのは、お金のためじゃない」
ソフィアが同意して無言でうんうんと頷く。
「はー? もうー、今時そんなことさらりと言えちゃうー? ちょっと格好良すぎないー!?」
ソフィアがまたうんうん頷く。
「そういえば、そうかな……」
思えば『フライヤーズ』の一員だった頃は、もう少しドライだった気がする。
でも、今の自分のほうがしっくり来る。ソフィアと旅をして、いい意味で彼女の影響を受けているのかもしれない。
「でもでも、お金のためじゃないんならなんのためー? もしかして、ア・タ・シ?」
両腕で胸を挟み、谷間を強調しながら色っぽく迫ってくる。
「うん、実はそうなんだ」
「へ?」
「是非とも君が欲しい」
ソフィアの揺れが止まった。据わった目で、じっとこちらを見つめてくる。
ノエルは慌てたように両手をパタパタさせる。
「えー、ちょ、待っ、えー……困るぅ。アタシ、知らないうちに誘惑しちゃってた的な?」
「誘惑……うん、まあそうかも。君にはだいぶ魅せられたよ。困らせちゃうかな?」
「え、え、本気? 本気なら、アタシ、あぅ、困るけど……一晩くらいなら」
「本気だし、一晩じゃ嫌だよ」
「でも、だって、それ以上はソフィアに悪いじゃん……」
「ソフィアもそのつもりだと思うよ。おれたちの仕事には魔力回路を作れる魔法使いがどうしても必要なんだ。それが君みたいな、尊敬できる信念を持った魔法使いならこれ以上ない。考えてくれないかな」
「でも仕事だからってぇ……仕事?」
酔いが覚めたかのように、ノエルの表情が固くなる。
「そう、面白いアイディアがあってね。世界初の技術になると思う。それを作るには、どうしても魔法の力が必要なんだ」
「あー……、はいはい、仕事、仕事ねー。うん、いや最初からわかってたし? ちょっと飲みすぎたかなー、顔が熱いわー。アタシ、バカだなー。知ってたはずなのになー」
「知ってた? ああ、ソフィアから聞いてたのかな」
「そうよ、そう。あなたがそういうやつってこと聞いてたし、さっきも見てたのに、本当、不覚だったわ。侮ってたわ、もう……」
呆れたような大きくため息をつかれる。
「君の夢からすれば寄り道だろうし、困らせちゃうのもわかるから、あんまり強くは誘えないんだけど……」
「いいえ、魔法の助けを求めてるなら、アタシの出番でしょ」
「じゃあ手を貸してもらえるんだね?」
「うん、助けてもらった恩義もあるし。あなたたちが面白いって言うんなら、本当に面白い仕事になりそうだもの」
「ありがとう、嬉しいよ」
おれはノエルに握手を求める。ノエルは笑顔で応じてくれる。
そこにソフィアが椅子ごと移動してきて、おれとノエルの手を両手で包み込む。
それから、ふらりと揺れて、ソフィアはおれの肩に頭を乗せた。
すー、すー、と寝息を立て始める。
「あらあら、可愛い寝顔♪」
ソフィアのぬくもりと、甘えるような幸せそうな寝顔に、つい口元がほころぶ。
「仕事の話は明日にしようか。今日はもうお開きってことで」
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