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第1部 第3章 心優しき魔法使い -海水淡水化装置-

第27話 深くお詫びいたします

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「なんで良かった話みたいな雰囲気出してるのよ! あなたのせいで、どれだけ悔しい思いをしたか……どれだけ困ってた人を助けられなかったか、わかるでしょう!」

「まあ、それはそうだ」

「因果応報、です」

 ノエルの怒りに、おれとソフィアは頷き合う。

「だ、だからそれは謝るから! これまで立ち寄った場所全部で罪滅ぼしする!」

「しつこい! そんなに言うなら諦めさせてあげる。アタシね、もう婚約してるの。わかる? あなたの手の届かないところへ行くのよ!」

「!!!???」

 ボロミアはあまりの驚きに声も出せずに固まった。

 ノエルが婚約したというのは明らかに嘘だろうが、諦めさせるための手段としては、悪くはない。

「……だ、誰だ? そんな……僕のノエルを……誰が……」

「誰って、それは……」

 そこまで考えてなかったらしく、ノエルは言い淀む。

 その瞬間、なぜか勝手に納得したらしく、ボロミアはもの凄い形相をおれに向けた。

「お、お、おおお前かぁあ!」

「え、ちが――」

「そうよ! そう、アタシの婚約者はショウよ!」

 えええ!?

 今度はおれが声が出なくなる番だった。

 ソフィアまで驚愕して硬直してしまっている。

 ノエルはおれの腕に自分の腕を絡ませ、大きく柔らかい胸を押し付けてくる。

 そして小声でささやく。

(なにかつてない顔で驚いてるのよ、ここは合わせてよ!)

 仕方ない、演技しておこう。

「そ、そうだー。おれがー、ノエルのー、婚約者だー」

「く、く、くそぉお! こうなったら……!」

 暴れるか?

 おれはいつでも対応できるように拳を握り、重心を落としておく。

「僕はお前に挑戦するぞ、ショウ! お前を超える男になって、ノエルを取り戻してやる!」

「ん? お、おお! いつでも来るといい! 相手になってやる!」

「首を洗って待っていろぉおお!」

 ボロミアは号泣しながら全速力で走り去っていった。

「……面白いやつだなぁ」

「アタシは面白くない。って、なにソフィア、なんで引っ張るの」

 ソフィアがぐいぐいと引っ張って、おれからノエルを引き剥がす。

 それからおれとノエルの間に入り、唇を尖らせる。

「ショウさんは、ノエルさんと婚約しません」

「そりゃあその場しのぎの演技だからね」

 くすり、とノエルが笑う。

「あー、でもわかんないなぁ。さっきたくさん褒めてもらっちゃったし、ショウのお陰で色々変わりそうだし、アタシ結構ショウにときめいてるかも~♪」

「……ノエルさん」

「冗談よ、冗談♪」

 少しばかり頬を染めつつ、ノエルは笑って一歩引く。

 それからおれは、黙ってボロミアを見送った護衛に声をかける。

「主人を追わなくていいのかい?」

「追いますが、その前に一言、謝罪申し上げます」

「謝罪?」

「どうせ失敗すると侮辱した件、深くお詫びいたします。海水淡水化装置、見事な出来でした」

「ありがとう」

 護衛は懐からなにか紙片を取り出して、こちらに差し出した。

「私はアランと申します。こちらのカードには、ボロミア様および私への連絡先が記載されております」

「ボロミアくんに連絡するつもりはないけど……」

「利用するとお考えください。ロハンドール帝国魔法学院とのコネとして、役に立つこともありましょう」

「なぜそうしてくれる?」

「ひとつはボロミア様の罪滅ぼしのため。もうひとつは、あなた方のような優れた方とは、繋がりを残しておきたいからです」

「お互いに価値があるから、お互い利用し合おうってことかな?」

「仰るとおりです」

「そういうことなら、受け取っておく」

「ありがとうございます。では失礼いたします」

 アランは深々と丁寧に礼をしたあと、ボロミアを追って走り去った。

 おれは「ふう」と一息つく。

 みんなのほうへ振り返って、表情を崩す。

「なんだか騒がしかったけど、無事に終わったね。みんなお疲れ様」
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