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第1部 第3章 心優しき魔法使い -海水淡水化装置-
第21話 おとぎ話の、魔法使いさんみたいになれたらなーって
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ノエルは薄暗い倉庫の中、壊れた装置を前に座り込んでいた。
おれとソフィアが戻ってきたことにも気づいていない。
「……今度こそダメなのかな」
かなり消沈している声だ。
まるで、先天的超常技能を奪われた直後のおれのように。
「今回も帰って来ないのかなぁ……。良さそうなふたりだったのに」
ソフィアが先に動いた。かつておれにしてくれたように、そっと隣に座る。
ほんの少し遅れて、おれもノエルを挟むような位置で座る。
「ノエル、戻って来たよ」
「あ、えっ!? ふたりとも? 戻ってきてくれてたの」
「はい。ノエルさん、ただいまです」
「どうしておれたちが戻ってこないと思ったんだい?」
「それは……よくあるのよ。アタシが仕事してると途中で妨害が入って、そしたら組んでた人たちもいなくなって、アタシひとりになっちゃうこと」
「大丈夫ですよ。わたしたちは、どこにも行きません」
「ありがとう……」
「ノエル、おれたちは手を引けと言われた。謝礼金と引き換えに、だ。この町の鍛冶屋や、君が以前に組んでいた人たちも、同じように言われたんだと思う」
「そっか……。やっぱり、そうなんだ……」
「君はあれが誰か、心当たりがあるんだろう? 良かったら、話してくれないか?」
「憂鬱な気持ちが、少しは晴れるかもしれません」
ノエルはおれとソフィアを交互に見てから、小さく「うん」と頷いた。
「アタシね、ロハンドール帝国魔法学院出身なの」
「あのエリート魔法学院の? それなら納得の腕前だけど、でもあそこは……」
「うん、帝国軍人として魔法使いを養成してる学院」
「ということは、君は脱走兵なのか? それで追われてる?」
「あははっ、違うわ。あの学院、任官拒否は認められてるから。厳しい学院だったけど、アタシの夢のためには、あそこが一番だったの」
「ノエルさんの夢は、どんな夢なのですか?」
ソフィアに問われて、ノエルは恥ずかしそうに上目遣いになる。
「……笑わない?」
「はい。人の夢を笑ったりはしません」
「んーと、ね。おとぎ話の、魔法使いさんみたいになれたらなーって……」
「おとぎ話の?」
「ほら、あのさ、報われない女の子に魔法をかけて舞踏会に連れてってあげたり、異種族同士の恋を手伝ってあげたりとか、そういう、困ってる人を助ける魔法使い」
「それはとても素敵な夢です」
ソフィアの優しい声に、ノエルは安心して口元が緩む。
「うん、ありがと! 素敵でしょ? だから奨学金とか、授業内容とか、どんなに厳しくても卒業まで頑張ったわ。ただ……頑張りすぎちゃったみたい」
ノエルは憂鬱なため息をつく。
「同級生に、学院長の孫がいてね……そいつに目をつけられちゃって」
「まさか、いじめに遭ったのか?」
「それならまだ対処は楽だったわ。あいつ、アタシに結婚を迫ってきてるの」
「結婚? 現在進行系で?」
「そう、現在進行系。何度も断ってるのに」
「まさか、妨害はそいつが?」
「そうみたい。アタシの行く先々に人探しの手配書なんか貼ってみたり、今回みたいに妨害したり、仕事仲間を解散させたり……。それで失敗したら『こんなところじゃ君の才能は活かせない』とか『もっと相応しい場所がある。僕の隣さ』とか言ってくれちゃって……どの口が言うってのよ、もう」
ノエルは片膝を抱えて、顎を乗せる。
「アタシだけが嫌な思いをするならいいわ。でも……あんな風に妨害されたら、アタシに助けを求めてきた人が、困るじゃない……。助けてあげたり、喜ばせてあげたいのに……それを邪魔されるなんて、悔しすぎるわ……」
気持ちが痛いほど伝わってくる。
おれは強く拳を握りしめた。
個人の恋路としてはやりすぎている。
「たぶん、学院や軍の意図もあるんだろう。いくらエリート学院でも、卒業までにA級以上になってる魔法使いなんて滅多にいないそうじゃないか。学院長の孫が君に惚れてるのをいいことに、結婚させて君を帝国軍の手元に置こうとしてるんだ」
ソフィアも、まだ見ぬ相手への憤りが表情に出てきている。
それを深呼吸で吐き出すと、綺麗な黄色い瞳でノエルを見据える。
「ではやるべきことは簡単です。期日までに装置を完成させましょう」
ノエルは目を丸くする。
「できるの?」
「やってみせます。どんな妨害をしても、ノエルさんを自由にはできないと見せつけましょう。そして、最後に言ってあげてください」
「なんて?」
「ざまあみろ、です」
ふふっ、とノエルは笑った。
「なにそれ。言えたら凄くスッキリしそう。でも、あなたたちも嫌がらせされるかもしれないのよ。なのに、どうしてそこまでしてくれるの?」
「わたしたちも、奪われる悔しさならよく知っていますから」
おれもノエルに微笑みかける。
「そういうこと。さあ、この妨害の中、どうやって作るか一緒に考えよう」
おれとソフィアが戻ってきたことにも気づいていない。
「……今度こそダメなのかな」
かなり消沈している声だ。
まるで、先天的超常技能を奪われた直後のおれのように。
「今回も帰って来ないのかなぁ……。良さそうなふたりだったのに」
ソフィアが先に動いた。かつておれにしてくれたように、そっと隣に座る。
ほんの少し遅れて、おれもノエルを挟むような位置で座る。
「ノエル、戻って来たよ」
「あ、えっ!? ふたりとも? 戻ってきてくれてたの」
「はい。ノエルさん、ただいまです」
「どうしておれたちが戻ってこないと思ったんだい?」
「それは……よくあるのよ。アタシが仕事してると途中で妨害が入って、そしたら組んでた人たちもいなくなって、アタシひとりになっちゃうこと」
「大丈夫ですよ。わたしたちは、どこにも行きません」
「ありがとう……」
「ノエル、おれたちは手を引けと言われた。謝礼金と引き換えに、だ。この町の鍛冶屋や、君が以前に組んでいた人たちも、同じように言われたんだと思う」
「そっか……。やっぱり、そうなんだ……」
「君はあれが誰か、心当たりがあるんだろう? 良かったら、話してくれないか?」
「憂鬱な気持ちが、少しは晴れるかもしれません」
ノエルはおれとソフィアを交互に見てから、小さく「うん」と頷いた。
「アタシね、ロハンドール帝国魔法学院出身なの」
「あのエリート魔法学院の? それなら納得の腕前だけど、でもあそこは……」
「うん、帝国軍人として魔法使いを養成してる学院」
「ということは、君は脱走兵なのか? それで追われてる?」
「あははっ、違うわ。あの学院、任官拒否は認められてるから。厳しい学院だったけど、アタシの夢のためには、あそこが一番だったの」
「ノエルさんの夢は、どんな夢なのですか?」
ソフィアに問われて、ノエルは恥ずかしそうに上目遣いになる。
「……笑わない?」
「はい。人の夢を笑ったりはしません」
「んーと、ね。おとぎ話の、魔法使いさんみたいになれたらなーって……」
「おとぎ話の?」
「ほら、あのさ、報われない女の子に魔法をかけて舞踏会に連れてってあげたり、異種族同士の恋を手伝ってあげたりとか、そういう、困ってる人を助ける魔法使い」
「それはとても素敵な夢です」
ソフィアの優しい声に、ノエルは安心して口元が緩む。
「うん、ありがと! 素敵でしょ? だから奨学金とか、授業内容とか、どんなに厳しくても卒業まで頑張ったわ。ただ……頑張りすぎちゃったみたい」
ノエルは憂鬱なため息をつく。
「同級生に、学院長の孫がいてね……そいつに目をつけられちゃって」
「まさか、いじめに遭ったのか?」
「それならまだ対処は楽だったわ。あいつ、アタシに結婚を迫ってきてるの」
「結婚? 現在進行系で?」
「そう、現在進行系。何度も断ってるのに」
「まさか、妨害はそいつが?」
「そうみたい。アタシの行く先々に人探しの手配書なんか貼ってみたり、今回みたいに妨害したり、仕事仲間を解散させたり……。それで失敗したら『こんなところじゃ君の才能は活かせない』とか『もっと相応しい場所がある。僕の隣さ』とか言ってくれちゃって……どの口が言うってのよ、もう」
ノエルは片膝を抱えて、顎を乗せる。
「アタシだけが嫌な思いをするならいいわ。でも……あんな風に妨害されたら、アタシに助けを求めてきた人が、困るじゃない……。助けてあげたり、喜ばせてあげたいのに……それを邪魔されるなんて、悔しすぎるわ……」
気持ちが痛いほど伝わってくる。
おれは強く拳を握りしめた。
個人の恋路としてはやりすぎている。
「たぶん、学院や軍の意図もあるんだろう。いくらエリート学院でも、卒業までにA級以上になってる魔法使いなんて滅多にいないそうじゃないか。学院長の孫が君に惚れてるのをいいことに、結婚させて君を帝国軍の手元に置こうとしてるんだ」
ソフィアも、まだ見ぬ相手への憤りが表情に出てきている。
それを深呼吸で吐き出すと、綺麗な黄色い瞳でノエルを見据える。
「ではやるべきことは簡単です。期日までに装置を完成させましょう」
ノエルは目を丸くする。
「できるの?」
「やってみせます。どんな妨害をしても、ノエルさんを自由にはできないと見せつけましょう。そして、最後に言ってあげてください」
「なんて?」
「ざまあみろ、です」
ふふっ、とノエルは笑った。
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「わたしたちも、奪われる悔しさならよく知っていますから」
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