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第1部 第2章 情熱の美少女追放職人 -古剣修復-

第12話 あなたが初めてでしたから

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 ソフィアは横にした剣を両手で、差し出すように掲げる。

「あなたの剣です」

 ゴーストはその剣をひと目見て、おれを解放した。

 剣を掴み、月明かりに照らす。

「これは……まさに、私の剣だ」

 ゆっくりと、丁寧な仕草でソフィアは頭を下げる。

「すみません、わたしたちで勝手に直してしまいました。あまりにも、ひどい状態だったのです」

「あの朽ちた剣が、本当に私の剣だったというのか。あの剣は鍔の銀細工もほとんど欠けていた。元の形も知らずに復元できるわけがない」

「はい。仕方がないので、わたしが想像でやりました」

「バカな。これは私の記憶に残る細工そのものだ。想像でこんなことができるわけがない」

「そうですね。本当は、真似ただけです。欠けずに残っていた部分が、昔、祖父がよく作っていた細工に似ていたので、それを再現しただけです」

 ゴーストは、初めてソフィアの顔を見た。

「祖父の名は?」

「キースです」

「キース……。キース・シュフィールか?」

 ソフィアは目を丸くして、「はい、そうです」と頷いた。

「キースめ、いい孫を持ったな……」

 ゴーストの口調から刺々しさがなくなり、穏やかなものに変わる。

「お前の名は?」

「ソフィアと申します」

「ソフィアよ、お前の祖父はいい職人だった。この細工の意味を知っているか」

「はい。持ち主の幸運を願って彫られた、銀細工です」

「そうだ。やつが作ったこの剣を主君から賜ったときから、私の人生は鮮やかな色に変わった。友に恵まれ、愛する者と出会い、結ばれ、子を授かった。その景色のすべてに、この剣はあった」

 ゴーストは再び剣に視線を落とす。

「この剣は、私の幸せな思い出そのものだ」

 ゴーストの姿が薄れていく。

「迷惑をかけてすまなかった。そしてありがとう、ソフィア」

 それからおれのほうに近寄ってくる。

「冒険者のショウと言ったな。お前は果報者だ。ソフィアほどの職人は、世界中どこを探してもおるまい」

「おれもそう思う」

「この期に及んで勝手な話だとは思うが、最後の頼みを聞いてくれまいか」

 剣の柄を差し出されたので、受け取る。

 すると左手首の出血が止まり、みるみるうちに傷が塞がる。体中の打撲の痛みも消える。

「我が墓所に……妻と子が共に眠る地に、この剣を戻して欲しい……」

「場所は?」

「メイクリエ王国、ガルベージ領ディブリス教会」

「わかった。必ず届けると約束する」

「ありがとう……――」

 それを最後にゴーストナイトは、霧が闇夜に溶けるように消えていった。

 緊張が解けたのか、ソフィアは鍛冶屋の外壁に背中を預け、へなへなと尻餅をついた。

 おれはそんなソフィアの隣に腰掛ける。

 大きく息をついてから、ソフィアに微笑みかける。

「お疲れ様、ソフィア」

「……はい、ショウさんもお疲れ様でした。けれどすみません、わたしの仕事が遅いせいで、ひどい怪我を」

「それはいいよ。ゴーストが還り際に、治してくれたし、そもそも相当早い仕事だったと思う」

 すると安心したように、ソフィアも微笑んだ。

「……嬉しかったです。窮地に陥っても『最後までやるんだ』と言ってくれて。わたしを信じてくださったのは、家族以外では、あなたが初めてでしたから……」
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