上 下
10 / 162
第1部 第2章 情熱の美少女追放職人 -古剣修復-

第10話 バレたら仕方ないな

しおりを挟む
 おれとソフィアは、バネッサと別れて鍛冶屋へ向かった。さっそく使える道具を見定めながら、剣をどう直すのか打ち合わせを始める。

「刀身は錆がひどい。研ぐより打ち直したほうがいいけど、かなり絶妙な加減が必要になる。おれには無理だ。任せてもいいかい」

「はい、お任せください。その前に、形と装飾をスケッチします」

「柄頭の紋章はおれが磨いてみる。形がはっきりしたらこれもスケッチするから、あとで新造しよう」

「あんたたち本当に今からやるのか。今晩はやり過ごして、明日の朝から作業すれば、夜には修復した剣を返してやれるだろう?」

 鍛冶屋が準備を手伝いつつ、不安げに尋ねてくる。

「今晩をやり過ごせる保証がないんだ。この手のゴーストは、日毎に攻撃性を増していく。昨日まで死人が出なかったものが、翌日には住民全滅なんて話もある」

 鍛冶屋は「ひぃ」と小さく悲鳴を上げた。

「なんてこった。それならオレも本腰を入れるしかない。柄頭の新造は任せてくれ」

「ああ、よろしく頼む。けど鍔のほうはどうする? 元の形がわからないけど」

「そちらもわたしが引き受けます。ご主人は、材料の用意をお願いします。これは銀です」

「わかった。なら材料と一緒に木炭も持ってくる。水も汲んでこないとな」

 一旦鍛冶屋は席を立つ。

 続いておれとソフィアは協力して、剣を刀身とその他の部品とに分解していく。

 おれは頭でわかっていても手の動きが追いつかないが、ソフィアは動きによどみがない。見ていて頼もしい。

 さっそくおれは柄頭の紋章を磨き始める。

 そうして夕方から始めた突貫作業は、深夜にまでおよび――

 ――どこだ……。

 ――剣は、どこだ……。

 ――返せ。

 どこからともなく、不気味な声が響き始める。

「……来た」

 おれは作業の手を止め、続きを鍛冶屋に引き継ぐ。

「ソフィア、おれは足止めに行く。残りの作業を任せることになるけど、大丈夫かい?」

「大丈夫です。それよりショウさんも、お気をつけて」

「心配いらないよ。これでも元はS級パーティの一員だからね」

 おれは売りに出す予定だった自作の鎧を身に着け、外へ出た。

 武器は必要ない。どうせあっても役に立たない。

 カンカンキンキンといった金属を加工する音を背中に聞きながら、月のない闇夜を行く。

 声のするほうへ向かえば、そこには黒い重装騎士がいた。

 半透明で、陽炎のように揺らめいている。

「迷える騎士の魂よ。おれは冒険者のショウ。なぜ夜な夜な現れ、人々の生活を脅かすのか、理由をお聞きしたい」

「私は愛剣を探している。我が墓所より賊が持ち出した物だ。この町の者どもは愚かにも賊の隠しだてをするので成敗している」

 凄いな。ここまでハッキリ会話できるとは。

 かなり自我が強い。相当強力なゴーストだ。バネッサは少なくともB級と言っていたが、おれの見立てではA級。まともにやりあっても勝ち目はない。

 もともとやりあう気はない。会話で時間を稼ぐ作戦だ。

「力になれるかもしれない。剣の特徴を教えて欲しい」

 ゴーストは自分の胸当ての上部を指さした。紋章が刻まれている。

「我が一族の紋章が柄頭に刻まれている。鍔は銀で細工された、華麗なものだ」

 その紋章は、やはり、あの古剣にあったものと同じだった。

「よくわかった。明日にも探し出して必ずここへ持ってくる。今夜はお引取り願いたい」

「それには及ばん。剣の気配なら感じ取れる」

 提案に乗ってくれれば楽だったが、そう簡単にはいかないらしい。

 頑固者め。

 ショウを無視して鍛冶屋のほうへ行こうとするのを、先回りして阻止する。

「その気配を辿っても、今まで見つからなかったのだろう。別の方法を考えるべきだ」

「その通りだ。気配のもとへ貴様も来い。貴様が探せ」

「それではダメだ。結局気配に頼ってる。もっと他の、敢えて反対方向を探すといった工夫も必要だと思うが」

「お前は、私を逆方向に連れていきたいのか」

「違う。提案しているだけだ。本気で探すために」

 鍛冶屋のほうから聞こえていた加工音のひとつが鳴り止む。

 作業のひとつが終わったのだ。おそらく進行具合からして刀身への装飾彫り。となればあとは、鍔の銀細工を仕上げて、組み立てればいい。

 完成までもう少し。

 そう思って気が緩んだ。

 つい、鍛冶屋のある方向に一瞬目を向けてしまう。

 次の瞬間、ゴーストはおれの懐に入り込んでいた。

「貴様、剣の在り処を知っていて騙そうとしているな」

 ゴーストの右手に胸元に当てられる。

「――うぐあ!?」

 おれの体は軽々と跳ね飛ばされていた。

 かろうじて受け身を取るが、衝撃は殺しきれず、地面を転がる。

 ここまで物理的に干渉できるとは、凄まじい霊気だ。

「ほう、悪くない鎧だ。それが無ければ死んでいたぞ」

 見れば、鎧の胸のあたりに亀裂が入ってしまっている。

 せっかく手元に残った装備なのに……。

 いや、どうでもいいか。また作ればいい。

 おれは大きく息をついて立ち上がる。

「バレたら仕方ないな。そうだよ。あなたの探している剣は、おれたちが預かっている」
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...