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第1部 第1章 追放と出会い

第1話 追放仲間です

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「シオン、お前は追放だ。パーティからだけじゃない。この世から」

 その言葉を最後に、おれは崖から捨てられた。


   ◇


 確実に死んだと思っていたのに、おれは目を覚ました。覚ますことができた。

「あなたは、そちらの川辺に流れ着いていたのです」

 おれの命を救ってくれたのは、どうやら目の前の少女らしい。

 青みがかった銀髪のショートヘア。顔立ちは端正で、冷静クールな印象を受ける。けれど、黄色く綺麗な瞳による眼差しは優しげで温かい。

 シンプルな長袖のシャツに革のジャケット、動きやすそうなズボンに、丈夫そうな革の靴。それに大きな鞄。明らかに旅人の出で立ちだが、服装に乱れは少なく、汚れてはいても上品な雰囲気をまとっていた。

 座っている姿勢も背筋がぴんと伸びていて、声や動きには落ち着きがある。

 育ちの良さを感じさせる美少女だ。どこかの令嬢かもしれない。

 おれは体を起こすと、まず頭を下げた。

「助けてくれてありがとう。おれはシオン」

「わたしはソフィアです。シオンさん、もう体は大丈夫でしょうか」

 言われて腹部を手で触れる。痛みはまだ少し残っているが、ほとんど治癒している。

 服もほどんど乾いている。ソフィアが近くで焚き火をしてくれていたお陰だろう。

 その焚き火の近くに、空の小瓶が置いてあるのに気が付いた。よく霊薬ポーションを入れるのに使われる物だ。

 この子は、見ず知らずのおれなんかに、あんな貴重品を使ってしまったのか。

「お陰で体は平気そうだけど、すまない。貴重な霊薬を使わせてしまったみたいだ」

「いいんです。霊薬は補充が利きますが、人の命はそうはいきませんから」

 それはちょっとお人好しすぎないか?

「助けてもらって言うのもなんだけど……あまり無闇に人を助けていると、足元をすくわれるかもしれないよ」

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です、ちゃんと見返りはいただきます」

 それなら、むしろ安心だ。育ちの良いだけのお嬢さんかと思ったが、しっかり旅慣れしているようだ。

「実はわたしが河原に来たのは、お魚さんを釣るためなのです。そしたら幸運にも、こんなに大きな獲物が捕れました。いえい」

 ソフィアは黄色い瞳でこちらを見つめながら、指を二本立ててVサインを作る。

「……獲物って、おれ?」

「はい、見返りに少々いただきます。食べごたえがありそうです。じゅるり」

「え……マジ?」

「なんちゃって」

 おれは思わず、がくり、と脱力してしまう。

 さっきからほとんど表情が変わっていない。真面目そうな顔のまま冗談を言わないで欲しい。

 いや、しかし、よく観察してみると、ほんの少しだけソフィアは頬を緩ませている。

 そのタイミングで「きゅるるるる~」とお腹が鳴った。ソフィアの。

「…………」

 ソフィアは無言で赤面して、懇願するようにおれを見つめてくる。

 おれは笑って頷いた。

「いいよ、魚釣り手伝うよ」

 早速おれとソフィアは、竿になりそうな枝や、糸に使えそうな木の皮を採ってくる。

 せっせと釣り竿作りを始めるソフィアの傍らで、おれは材料に右手をかざす。

「シオンさん、それはなにをしているのですか?」

「実はおれ、【クラフト】の先天的超常技能プリビアス・スキルを持っててね。材料さえあれば、どんな物でも作ることができるんだ」

 いつものように技能スキルを発動させようとするが、なにも起こらない。

 ……やっぱりか。

 首を傾げるソフィアを尻目に、おれは肩を落とす。

「正確には、できたんだ……」

 刺された腹を手で触れる。もう痛みはない。けれど、心はまだ痛い。

 思い出したくもないが、これが現実だ。

「おれの技能スキルは奪われたんだ。仲間に――仲間だと思ってたやつに。刺されて、追放だって言われたよ。パーティからだけじゃない、この世から追放だってさ。この世から……」

 そして崖に落とされた。川の激流に飲み込まれて、この下流まで流れ着いた。

 その光景が、あのときの罵倒が、鮮明に蘇ってきて涙が溢れてくる。流れ落ちないよう、グッとこらえる。

「そう、だったのですね……」

 ソフィアは視線を落とす。まるでおれの悲しみが伝播したかのように、ソフィアも瞳を潤ませていた。

「でもそれなら、わたしと同じです」

 ソフィアは顔を上げて、精一杯に笑いかけようとしてくれた。

「わたしも故郷を追放されたのです。追放仲間です」

 けれどソフィアは、ちっとも笑えていなかった。
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