異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ

文字の大きさ
上 下
182 / 182

第182話(最終話) おれの居場所

しおりを挟む
「べつの迷宮ダンジョン? それって、アメリカに出現したやつ?」

「そうだ。うちの沢渡のやつがよ、まだろくに攻略されてない迷宮ダンジョンなら、無双できてビッグになれるっつーんだよ」

「それで行くって決めたのかい、吾郎さんが?」

「まあな。ビッグになることに興味はねえが、一度攻略しちまった迷宮ダンジョンよりは面白みがあるだろうよ」

「若い子にそうやって夢を追わせてあげるのも吾郎さんらしいね」

「けっ、たまたま目的が一致しちまっただけだ」

「寂しくなるよ、吾郎さんがいなくなるのは」

「お前だって異世界リンガブルーム行きだろう? そっちのほうがアメリカより遠いと思うんだがな」

「また会えるかい?」

「ああ、人手が足りなきゃ連絡しろ。すっ飛んでいってやるぜ」

「仕事の話じゃない。友達としてだよ」

「そいつは……まあ、気が向いたらな」

 吾郎はそう言いつつ、どこか嬉しそうに笑った。

 次に目についたのは、隼人たちのテーブルだ。

「一条先生、フィリア先生! 結婚おめでとうございますっす!」

 隼人は尻尾をパタパタ振りながら挨拶してくれる。

「おめでとう、ふたりとも」

 雪乃は以前より落ち着いた様子だ。

「ありがとうございます、おふたりとも。むしろ、わたくしたちのほうからもおめでとうと言わせてください」

「うんうん、めでたいことだよ」

 雪乃のお腹は膨らんでいる。そう、隼人との子供を身ごもっているのだ。

「でもきっとこれから大変なんすよね。またいっぱい稼がないといけないっす」

「君の実力なら稼ぎに問題ないんじゃない?」

「んー、実際、迷宮ダンジョンの治安維持のノウハウを教えてくれーって、アメリカのほうに呼ばれてたりしますけど、雪乃先生を連れ回すのもアレですし……」

「アタシは気にせず行けって言ってるんだけどな。こいつ心配性なんだよ」

「とか言って、本当は隼人くんが行かないでくれて嬉しいんでしょ?」

 指摘すると図星らしく、むっ、と雪乃は黙った。

「一緒にいられるなら、一緒がよろしいかと思いますよ」

 フィリアにも言われて、観念したように雪乃は息をつく。

「……そうだな。実を言えば、しばらくは落ち着いていて欲しいよ。やっぱり、その……ふ、不安になっちまうからさ」

 お腹に手をおいて雪乃は呟く。以前より素直なのは、やはり子供ができたからだろうか。

「わっかりました! 俺、どこにも行かないっす。しばらくは地道にここでやっていくっすよ。どっか行くのは、余裕ができたらにしましょう」

「……うん」

 仲睦まじい様子に、おれとフィリアも心がほっこりする。

 それから、ギルド受付嬢をやっている美幸や、華子婆さんたちにも挨拶をして回る。

 紗夜と結衣のテーブルに回れたのはその後だ。

「モンスレさん、フィリアさん……おめでとう、ございます」

 結衣は異世界リンガブルーム語で祝福してくれた。

「今の、あってますか?」

「バッチリだよ、結衣ちゃん。発音もずいぶん上手になった」

「えへへ。やった、褒められた……」

「よかったね、結衣ちゃん。じゃあ、あたしも――『末永くお幸せに』。どうですか?」

「はい、お上手ですよ、葛城様。勉強は順調のようですね」

「はいっ。先生たちのお陰です!」

 紗夜と結衣は、変わらずこの迷宮ダンジョンを拠点としつつ、異世界リンガブルームでの活動も視野に入れているのだそうだ。

 そのためには、まず異世界リンガブルーム語ということで、おれやフィリアやロザリンデが勉強に付き合ってきたのだ。

「あたしたちは異世界リンガブルームを目指しますけど……先生たちはこれからどうするんですか?」

「しばらくは夫婦水入らずでイチャイチャするつもりかな」

「あはは、それは羨ましいですね」

「紗夜ちゃん……羨ましいなら、ユイとイチャイチャしよ? ね? しよ?」

 紗夜に迫る結衣だが、それを上手にかわしつつ、紗夜はおれと話を続ける。

「そのあとは、どうするんです?」

「忙しくなるだろうね。世界のあちこちに迷宮ダンジョンが生まれるのは、おれの責任でもあるわけだし、現地の人が危険な目に合う前に初期対応くらいはできるようにしておきたいんだ」

「こっちじゃなくて、異世界リンガブルーム側のほう、でしたよね?」

「そうだね。この前も、やってきたところだよ」

 アメリカの出現した新たな迷宮ダンジョンは、もちろん異世界リンガブルームに繋がっている。そういった新たな迷宮ダンジョンが、異世界リンガブルームのどこに繋がっているか確認し、迷宮ダンジョンの恩恵に預かれるよう初期対応するのもおれの仕事になるわけだ。

「だったら、あたしたちも異世界リンガブルームで活動してたら、また一緒の迷宮ダンジョンを攻略する日も来るかもしれないんですね」

「そうだね。プライベートではいつでも連絡は取れるけど、やっぱり仕事で会えるとちょっと嬉しいよね」

「はいっ、なんだか楽しみですっ」

「そのときは、また一緒に配信、お願いします」

「もちろんっ。そのときでなくても、コラボはいつでも受け付けておりますよ」

 このように、仲間たちの進路はまちまちだ。

『ドラゴン三兄弟』などは、ドラゴンの肉を食べるために、この迷宮ダンジョンに残るそうだし、吾郎たちのように新たな迷宮ダンジョンに挑もうと出ていく者もいる。

 迷宮ダンジョンの攻略など眼中になく、拠点の管理人を続けたり、治療魔法のみを極めて拠点常駐の治療士として生計を立てようとする者もいる。

 異世界リンガブルーム人はほとんど故郷へ帰っていったが、日本が気に入ってそのまま定住する者だっている。

 みんなそれぞれに、居場所があるということだ。

 そして、おれの居場所は――。


   ◇


 おれとフィリアの結婚式から数カ月後。

 おれたちは異世界リンガブルーム側に出現した、新しい迷宮ダンジョンの前にいた。

「フィリアさん、こっちの準備はいいよ」

「こちらもいつでもいいですよ、タクト様」

「よし、なら始めよう」

 おれはスマホを操作して、生配信を開始する。

「どうも、モンスレチャンネルのモンスレさんです!」

「同じく、フィリア・シュフィール・メイクリエです! みなさま、ごきげんよう! 本日はこちらの迷宮ダンジョンに突入する様子をお送りいたします!」

"待ってました、異世界生配信!"

"姫様、生き生きしていらっしゃる"

"フィリア様の才能はここにあったのですね!"

"フィリアさん、人妻かわいい"

"↑貴様、姫様に向かって不敬なるぞ!"

"臣下ウゼ-"

"信者じゃなくて臣下なのか"

"ガチ臣下の人が見てるっぽい"

「はいはーい、喧嘩なさらず! 地球の方も、リンガブルームの方も、仲良くお願いいたしますね!」

"申し訳ありません"

"どうかお許しを"

"臣下、素直すぎる"

「この迷宮ダンジョンから魔物モンスターがあふれて近くの住民が困っているそうなんです。誰かの居場所が脅かされているのなんて見過ごせません! みなさん応援よろしくお願いします!」

"応援するよ!"

"支援"[¥5000]

"やっぱ、モンスレさんは人助けだよな!"

"だからいつだって応援するんだ!"

"姫様、ご武運を!"

「ありがとうございます、みなさん! それではさっそく突入です!」

 ――この日々と、フィリアの隣。

 誰かの居場所を守るために、迷宮ダンジョンの闇を駆け抜ける。

 それこそが、おれの生きる道。

 こここそが、おれの居場所。

 冒険と迷宮ダンジョンの日々に、終わりはない――。
しおりを挟む
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

キンドル・ファイバー

完結おめでとうございやす!
某クラフトスキルの話と繋がってたんすねこれ!メイクリエ王国とかすっげぇ聞き覚えあると思ったら…w

2024.06.22 内田ヨシキ

感想ありがとうございます!
そして、最後までお読みいただきありがとうございます!

はい、実は繋がっておりました!
「S級クラフト(以下略)」を読んでいただけた方なら、よりお楽しみいただけるかなと思います!

解除
たくたく
2024.05.08 たくたく

142と143の間飛んでません?

2024.05.08 内田ヨシキ

ご指摘ありがとうございます!

予約投稿のミスで、数日先の分が公開されてしまっていました! 今は直しました!

ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!

解除
無銘
2024.04.15 無銘

いよいよダンジョン配信者時代が到来しそうですね

2024.04.15 内田ヨシキ

感想ありがとうございます!

はい、ついに環境が整いました!
今後は配信目的で冒険者になる人も増えていくかもしれません

解除

あなたにおすすめの小説

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。