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第145話 ピンチになれば、駆けつけてくれるかも

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 雪乃たちは今回の捜索では、隼人も梨央も見つけることはできなかった。

 それは連絡を取ったパーティも同様だったらしい。この広い迷宮ダンジョン内を、単独で行動している者を見つけ出すのは非常に難しいことだ。

 魔力探査が使えれば少しはマシだが、それは魔法を得意とする一部の冒険者にしかまだ使えない。結局は、目と足で探すことになる。

 これではほとんど運任せだ。なにか別の手段を取ったほうがいいだろう。

 そんなことを考えながらも、雪乃はもううつむくことはない。なにせ隼人は生きている。心のどこかで諦めながら、せめてとばかりに遺品を探すようなことはもうしなくていいのだ。

 時間が限られていると拓斗は言っていたが、それでも気持ちはずっと明るい。

「あ……ゆきのん」

「雪乃さんも、今戻りですか」

 第2階層の宿で、結衣と紗夜に声をかけられる。ふたりも、隼人や梨央の捜索に出てくれていた。

「ああ、収穫なしだ。このままじゃちょっと埒が明かねー。なんとかして誘き出せりゃあいいんだけどよ」

「それ、ユイたちも考えてました。もしかしたら、誘き出すまでもない、かもです」

「マジか? どんな作戦だよ?」

「作戦っていうか……まだ持ってるなら、普通にスマホに連絡してみたらどうかなーって。あたしたちは斎川さんと連絡先交換してないから無理ですけど」

「あ……なんだ、梨央のほうか……」

 せっかく紗夜が説明してくれたのに悪いが、雪乃はちょっとがっかりしてしまう。

「まあ確かに、それはまだ試してなかったな。すぐ切られそうな気もするけどよ」

「そのときは、誘き出し作戦で……」

「なんだ、やっぱり作戦あるのかよ」

「はい。生配信しちゃうんです。これから闇冒険者をやっつけにいくぞーって。実際に闇冒険者をやっつけなくても、なんなら見つけられなくてもいいんです。こっちの位置を知らせて、襲ってもらえばいいんです」

「そこを返り討ちにすりゃあいいわけか。それならやれそうだな。それで……その、隼人のほうを見つける、いいアイディアはねーか?」

「……ごめんなさい。隼人くん、スマホ壊されちゃってますし……それに、なにか事情があってあたしたちと接触しようとしないんなら、連絡できても意味ない気がしますし……」

「あのバカ……。地道に探すしかねえのかよ……」

「案外、ゆきのんがピンチになれば、駆けつけてくれるかも」

「はあ?」

「だって、隼人くん、ゆきのんが大好きだし」

「いやっ、バカ、事情があって出てこれないやつが、アタシがピンチだからって来ると思うかよ」

「来る、と思う。ユイも同じ立場なら、大好きな紗夜ちゃんのことは絶対助けに行くし」

「そ、そうか?」

 ちょっと嬉しくなって声が弾む。が、すぐブルブルと首をふる。

「いや、んなことわかんねーだろ! つか、いい手がねえならしょーがねえ。さっそく梨央のやつを誘き出そーぜ。もしかしたらあいつが、隼人の手がかりも持ってるかもしんねーし」

 すると紗夜と結衣は、揃って雪乃の顔を見上げてきた。なんだか微妙な顔をしている。

「なんだよ? なんかアタシの顔についてるか?」

「疲れが、ついてる」

「うん……。雪乃さん、最近あんまり休んでないですよね? その、言いづらいんですけど、結構ひどい顔してますよ。美人さんが台無しっていうか……」

「べつに、冒険者は顔で仕事してるわけじゃねーし」

「でも、ほら」

 紗夜がカード型の折りたたみミラーで、雪乃の顔を映す。

「げっ」

 それを見て、雪乃は思わず呻いてしまった。想像以上にひどい。

 結衣が訴えるようにジィっと見つめてくる。

「せっかく、隼人くんに会えるかもなのに、そんな顔で……いいの?」

「むぅ……」

 そう言われると、さすがの雪乃も考えてしまう。隼人を迎えてやれたとき、こんな顔をしていたらがっかりさせてしまう。

「わ、わかったよ。ちょっと休んでから作戦開始だ。梨央のやつも、なんかやべー魔物モンスターになってるっぽいしな。こんな疲れてたんじゃ、返り討ちにもできねーだろーからな! べ、べつに、隼人のためじゃねーけどな!」

 にっこりと紗夜が笑う。

「はい、わかってますよ。まずはしっかり休んでくださいね」

 結衣のほうは、悪戯っ子みたいに、にへら、と笑う。

「ゆきのんも、隼人くんのこと、大好き……だもんね」

「はあぁ? おまっ、はぁぁ!? なに言ってんだよ、こんなときに?」

「どんなときでも、愛は不滅、です」

「えっと、あたしもそう思ってました。あたしたちも頑張ってるつもりですけど、雪乃さんほどには無理はできてませんし……。そうできるのは、やっぱり好きだからなんだろうなぁって」

 雪乃は急に胸のあたりがムズムズしてきた。ちょっと顔が熱くなってきたような……?

「そ、そういうもんなのか……? アタシ、今まで余裕がなくてよ、そーいう気持ちが、どういうことかわからなかったんだけどよ……」

 紗夜と結衣は顔を見合わせて、また笑う。

「やっぱり、ゆきのん、かわいい……ね」

「うん、ギャップがあっていいよね」

「お、おめーら、からかってんのか!? 冗談はやめろよな」

「べつに冗談でもないんですけどねー」

 なんだか急に隼人のことを意識してしまう。もともと会わなければならないと思っていたのが、会いたいという願望に変わっていく。いや、これがもともとの感情だった?

 なんで? バカで、ちょっと困るくらいグイグイ来て、勝手に無茶して……でも真面目で素直で、彼なりに正しいことはなにかと考えて行動する、あんな年下の、もうひとりの弟みたいに思っていたやつを……?

 頭の中がぐるぐるしてきた。これからするべきこと、したいこと。隼人のこと、梨央のこと。自分の気持ち、あいつの気持ち。ぐちゃぐちゃに入り混じって、わけがわからない。

 そんなときは、これに限る。

「うぅう! よ、よし、寝る! 気合い入れて寝る! 寝りゃあ余計なことは忘れて、仕事に専念できるからな! いいか、アタシは寝るぞ! おめーらも、作戦に備えて休んどけよ」

「はいはーい」

「おやすみなさい。あたしたちは、準備もしておきますね」

 そうして雪乃たちが充分な休養を取ったあと――。

 未だ第4階層深部から戻らない拓斗たちの帰還を待たず、梨央を誘き出す作戦は開始された。
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