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第132話 平和を守るためじゃないっすか
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「この! 大人しくしろ!」
手配されたその闇冒険者を見つけたときには、もう決着がついていた。
雪乃たちのパーティ『花吹雪』が無力化し、拘束しようとしている。
「ご活躍だね、雪乃ちゃん」
「へっ、あんたらほどじゃねーし」
地上で逮捕者が出始めると、おれたちの予想通り、闇冒険者たちは警察の手の届かない迷宮に逃げ込んできた。
やがて警察から、手配中の闇冒険者を逮捕するようギルドに依頼が届いた。
宿に滞在している者もいて、さっそく何人かはそこで捕えた。しかし多くはこの依頼を予測し、先んじて迷宮に潜伏してしまっていたのだ。
特に第2階層は広く、森など隠れる場所も多い。危険を承知で野営しつつ、ほとぼりが冷めるのを待っているのだろう。
依頼を受けたパーティは、これらを捜索し、無力化の上、拘束しているのだ。
おれたちは積極的にこれに参加して成果を上げていたが、雪乃たち『花吹雪』の活躍も目覚ましい。
その中でも、最近『花吹雪』に加入した、隼人の活躍は大したものだった。
どうやらおれとの会話のあと、隼人は本当に雪乃にパーティ入りを志願しに行ったらしい。
そのときのことを、雪乃は愚痴っていた。
「――あいつ、めちゃくちゃ強引でさ。しかもいつの間にか、アタシに彼氏がいるか、みたいな話になっててさ……」
「なんて答えたの?」
「いるわけねーだろって。弟のためにも、男にうつつ抜かしてる暇なんかねーし。って言ってんのに、あいつ、こ、告ってきやがって」
「うわあ、勢い任せ」
「気付いたら、あいつをパーティに入れるか、付き合うかの二択みたいにされてて……。いや今思うとどっちもねーよって断りゃよかったんだけど」
「あはは、勢いにやられちゃったかー」
「ったくよー。あいつ、近いうちになんか理由つけて追い出してやる」
とか言ってたのに、隼人は未だにパーティにいる。
それもそのはず。隼人の実力は、いまやリーダーの雪乃に迫るほどになっていたのだ。もともと臨機応変な戦い方を得意とする『花吹雪』だが、隼人の加入で、戦術の幅がさらに広くなったのも大きい。彼が離脱するのは、もはや無視できない損失となる。
わかっているが、おれは雪乃を突っつく。
「近いうちに追い出すんじゃなかったっけ?」
「うっせー。理由を探してんだよ」
「見たところ、レベルの割に技が荒いよね。おれの動きを真似ようとしてるみたいだけど、見た目だけで芯が入ってない。あと精神的に幼いところもあるかな。そのせいか判断に合理性が欠けてたり」
「待てよ。確かに荒削りだけどよ、あんたの動きなんて、見た目だけでも真似できたら上等じゃねーか。それに言うほどガキじゃねーし、根性あるし、見どころはあんだかんな」
「そっか、それなら今後に期待だね。これからもお世話よろしく」
「おーよっ、しっかり見とけよ。って、ん? あれ?」
追い出せそうな理由をわざと提示したのに、しっかり反論するあたり、雪乃も隼人のことは満更でもなく思っているのだろう。
ここ最近、雪乃は明るい。自分を襲ってきたような連中を、ぶちのめして恐怖を払拭していっているのもあるだろう。でもそれ以上に、隼人の純粋な好意が、彼女の傷を癒やしているのだと思う。
一方、隼人は拘束した闇冒険者を乱暴に引き連れてきた。
なにか思うところがあるのか、顔を曇らせている。
「どうしたの、隼人くん?」
「一条先生、こんなやり方でいいんすかね……?」
「こんなやり方って?」
「この手ぬるいやり方っすよ! ただ捕まえて警察に渡すだけなんて! 闇冒険者、全員が手配されたわけじゃないんすよ。隠れて大人しくしてるやつら、今をしのいだら、絶対またやりますよ!」
「この前言ってたみたいに、しっかり制裁する様子を動画配信でもして、見せしめにしたほうがいいって話かい?」
「そうっすよ。なんでやらないんすか」
「必要以上に暴力を振るえば、それは私刑だよ。おれたちも犯罪者に――こいつらと同じになってしまう」
「同じじゃないっすよ。平和を守るためじゃないっすか」
「隼人、あんまり絡むんじゃねーの! もう行くぞ!」
雪乃に促され、隼人はしぶしぶついて行く。
おれは彼女らの背中を黙って見送る。
平和を守るため……か。
そのとき、ぽつりとフィリアがつぶやいた。
「……わたくしのせいかもしれません」
「フィリアさん?」
フィリアは暗い表情でうつむいてしまう。
「みなさんのためにと思って、ギルドの依頼制度などを提案しましたが……あのように悪用する方々も出てきてしまいました。インターネットの開通も、彼らに利することだったのかもしれません。わたくしのしたことが、みんな裏目に出て……」
「なに言ってるんだ、そんなことあるわけがない」
否定すると、すかさず丈二やロザリンデも続く。
「そうです。そもそもああいった闇サイトは、迷宮出現以前からあちこちに存在するのです。私たちが作った制度がなくても、いずれ進出してきたのは間違いありません」
「ネットもそうよ。迷宮でできなくても、どうせ地上でやるだけよ。あなたの為したことに関係ないわ」
「それに、フィリアさん、たとえ本当に影響していたとしても、それ以上に恩恵があるはずだ。ギルド制でみんなの生存率は上がったし、収入だって担保できてる。ネットだって、開発中のアプリが完成すれば人の命を救うことだってあるはずだ」
「……そう、でしょうか」
「間違いない。自信を持っていいんだ」
「はい……。そう、そうですよね……? すみません、相手が犯罪者とはいえ、人と争うのに気が滅入ってしまっていたようです」
顔を上げて微笑んでくれる。が、それはまだ苦笑にしか見えない。
「もう少し頑張ろう。きっといい形に収まるはずだからさ」
そう慰めながらも、このままで上手くいくとはおれにも思えなかった。
闇冒険者側も、徒党を組んで抵抗しつつある。逮捕に動いているパーティの情報が闇サイトに流された上に、討伐するよう闇依頼を出されてもいる。
その襲撃を受け、傷ついた者もいる。
フィリアと――みんなと作ってきた、この大切な居場所が壊されつつある。
このままにはしておけない。なによりフィリアの暗い顔など見たくない。平和を守るためには、やるべきことをやるしかないだろう。
その日からおれは、同居してるフィリアに見つからないよう注意しつつ、必要な道具を揃え始めた。
覆面に、ボイスチェンジャー。個人識別のできないような、量産品の装備などなど。
あとは用事のない夜を待って、実行するのみだ。
手配されたその闇冒険者を見つけたときには、もう決着がついていた。
雪乃たちのパーティ『花吹雪』が無力化し、拘束しようとしている。
「ご活躍だね、雪乃ちゃん」
「へっ、あんたらほどじゃねーし」
地上で逮捕者が出始めると、おれたちの予想通り、闇冒険者たちは警察の手の届かない迷宮に逃げ込んできた。
やがて警察から、手配中の闇冒険者を逮捕するようギルドに依頼が届いた。
宿に滞在している者もいて、さっそく何人かはそこで捕えた。しかし多くはこの依頼を予測し、先んじて迷宮に潜伏してしまっていたのだ。
特に第2階層は広く、森など隠れる場所も多い。危険を承知で野営しつつ、ほとぼりが冷めるのを待っているのだろう。
依頼を受けたパーティは、これらを捜索し、無力化の上、拘束しているのだ。
おれたちは積極的にこれに参加して成果を上げていたが、雪乃たち『花吹雪』の活躍も目覚ましい。
その中でも、最近『花吹雪』に加入した、隼人の活躍は大したものだった。
どうやらおれとの会話のあと、隼人は本当に雪乃にパーティ入りを志願しに行ったらしい。
そのときのことを、雪乃は愚痴っていた。
「――あいつ、めちゃくちゃ強引でさ。しかもいつの間にか、アタシに彼氏がいるか、みたいな話になっててさ……」
「なんて答えたの?」
「いるわけねーだろって。弟のためにも、男にうつつ抜かしてる暇なんかねーし。って言ってんのに、あいつ、こ、告ってきやがって」
「うわあ、勢い任せ」
「気付いたら、あいつをパーティに入れるか、付き合うかの二択みたいにされてて……。いや今思うとどっちもねーよって断りゃよかったんだけど」
「あはは、勢いにやられちゃったかー」
「ったくよー。あいつ、近いうちになんか理由つけて追い出してやる」
とか言ってたのに、隼人は未だにパーティにいる。
それもそのはず。隼人の実力は、いまやリーダーの雪乃に迫るほどになっていたのだ。もともと臨機応変な戦い方を得意とする『花吹雪』だが、隼人の加入で、戦術の幅がさらに広くなったのも大きい。彼が離脱するのは、もはや無視できない損失となる。
わかっているが、おれは雪乃を突っつく。
「近いうちに追い出すんじゃなかったっけ?」
「うっせー。理由を探してんだよ」
「見たところ、レベルの割に技が荒いよね。おれの動きを真似ようとしてるみたいだけど、見た目だけで芯が入ってない。あと精神的に幼いところもあるかな。そのせいか判断に合理性が欠けてたり」
「待てよ。確かに荒削りだけどよ、あんたの動きなんて、見た目だけでも真似できたら上等じゃねーか。それに言うほどガキじゃねーし、根性あるし、見どころはあんだかんな」
「そっか、それなら今後に期待だね。これからもお世話よろしく」
「おーよっ、しっかり見とけよ。って、ん? あれ?」
追い出せそうな理由をわざと提示したのに、しっかり反論するあたり、雪乃も隼人のことは満更でもなく思っているのだろう。
ここ最近、雪乃は明るい。自分を襲ってきたような連中を、ぶちのめして恐怖を払拭していっているのもあるだろう。でもそれ以上に、隼人の純粋な好意が、彼女の傷を癒やしているのだと思う。
一方、隼人は拘束した闇冒険者を乱暴に引き連れてきた。
なにか思うところがあるのか、顔を曇らせている。
「どうしたの、隼人くん?」
「一条先生、こんなやり方でいいんすかね……?」
「こんなやり方って?」
「この手ぬるいやり方っすよ! ただ捕まえて警察に渡すだけなんて! 闇冒険者、全員が手配されたわけじゃないんすよ。隠れて大人しくしてるやつら、今をしのいだら、絶対またやりますよ!」
「この前言ってたみたいに、しっかり制裁する様子を動画配信でもして、見せしめにしたほうがいいって話かい?」
「そうっすよ。なんでやらないんすか」
「必要以上に暴力を振るえば、それは私刑だよ。おれたちも犯罪者に――こいつらと同じになってしまう」
「同じじゃないっすよ。平和を守るためじゃないっすか」
「隼人、あんまり絡むんじゃねーの! もう行くぞ!」
雪乃に促され、隼人はしぶしぶついて行く。
おれは彼女らの背中を黙って見送る。
平和を守るため……か。
そのとき、ぽつりとフィリアがつぶやいた。
「……わたくしのせいかもしれません」
「フィリアさん?」
フィリアは暗い表情でうつむいてしまう。
「みなさんのためにと思って、ギルドの依頼制度などを提案しましたが……あのように悪用する方々も出てきてしまいました。インターネットの開通も、彼らに利することだったのかもしれません。わたくしのしたことが、みんな裏目に出て……」
「なに言ってるんだ、そんなことあるわけがない」
否定すると、すかさず丈二やロザリンデも続く。
「そうです。そもそもああいった闇サイトは、迷宮出現以前からあちこちに存在するのです。私たちが作った制度がなくても、いずれ進出してきたのは間違いありません」
「ネットもそうよ。迷宮でできなくても、どうせ地上でやるだけよ。あなたの為したことに関係ないわ」
「それに、フィリアさん、たとえ本当に影響していたとしても、それ以上に恩恵があるはずだ。ギルド制でみんなの生存率は上がったし、収入だって担保できてる。ネットだって、開発中のアプリが完成すれば人の命を救うことだってあるはずだ」
「……そう、でしょうか」
「間違いない。自信を持っていいんだ」
「はい……。そう、そうですよね……? すみません、相手が犯罪者とはいえ、人と争うのに気が滅入ってしまっていたようです」
顔を上げて微笑んでくれる。が、それはまだ苦笑にしか見えない。
「もう少し頑張ろう。きっといい形に収まるはずだからさ」
そう慰めながらも、このままで上手くいくとはおれにも思えなかった。
闇冒険者側も、徒党を組んで抵抗しつつある。逮捕に動いているパーティの情報が闇サイトに流された上に、討伐するよう闇依頼を出されてもいる。
その襲撃を受け、傷ついた者もいる。
フィリアと――みんなと作ってきた、この大切な居場所が壊されつつある。
このままにはしておけない。なによりフィリアの暗い顔など見たくない。平和を守るためには、やるべきことをやるしかないだろう。
その日からおれは、同居してるフィリアに見つからないよう注意しつつ、必要な道具を揃え始めた。
覆面に、ボイスチェンジャー。個人識別のできないような、量産品の装備などなど。
あとは用事のない夜を待って、実行するのみだ。
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