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第122話 【生配信回】ユイちゃんネルの第3階層攻略②

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 紗夜は感じの悪い女冒険者に対し、一歩も引かなかった。

「言っときますけど、あたしたち、先生の取り巻きじゃないですから! あと、横取りを心配できるほど、状況が良いようには見えませんでしたよ!」

"言い返した!"

"怒った顔もかわいいな"

"こっちのおねーさんもおれは好み"

「うっせっ、まだこっちは様子見段階なんだよ」

「様子見で負けそうだったじゃないですか。自分の実力と状況を測り間違えたら死んじゃうんですからね!」

「アタシらがこんなとこで死ぬわけねーだろ!」

 そんなやり取りの合間にも、金髪女性のパーティメンバーは押されている。紗夜はそちらを気にして、会話を打ち切った。

「もういいです! 勝手にやりますから!」

 言うが早いか、紗夜は結衣と視線を交わす。結衣は即座に飛び出して、火蜥蜴サラマンダーに接近戦を挑む。

 火蜥蜴サラマンダーの俊敏な攻撃に対し、結衣は的確に盾を向け、受け止める。反撃するが回避されるか、あるいは当たっても浅い。しかし役割は充分に果たしている。敵をその場に釘付けにできている。

 狙いやすくなった火蜥蜴サラマンダーに対し、紗夜はショートボウで矢を連射する。硬い鱗に弾かれて、ダメージは通らない。

"攻撃が効かないぞ!?"

"いやユイちゃんの一撃が当たりさえすれば……"

"当ててみろよ"

 おれが火蜥蜴サラマンダーの弱点を教えれば紗夜たちの勝率はぐんと上がるのだが、まだその時ではないのだろう。

 しかし、うずうずしてしまう。我慢ですよ、とばかりにフィリアに肩を叩かれる。

 うん。我慢、我慢……。

 一方、金髪女性のパーティのほうは、紗夜たちのように明確に役割分担がされているわけでないらしい。

 3人がバラバラに遊撃して、敵の隙を突く戦法だ。型にハマった強さはないが、戦況の変化に臨機応変に対応できる。

 第3階層のここまで来れるだけあって、彼女らの実力もなかなかのものだ。

 結衣が抑えている間に、火蜥蜴サラマンダーの背後や側面に回り込み、剣や槍で全力攻撃を仕掛ける。

 しかし鱗を貫通するには至らない。痛みはあるのか、火蜥蜴サラマンダーは地団駄を踏む。そして大きく体を旋回させた。

 危ない!

"尾撃くる!"

"避けてー!"

 離れて見ているおれたちや視聴者ならよくわかるが、近接している結衣たちにはよく見えない。

 太くたくましい尻尾が、全周を薙ぎ払う。ひとりが直撃。金髪女性ともうひとりも掠めて、弾き飛ばされる。

 勢いはそのまま、尾撃は結衣にも迫る。

 結衣は腰を低く構えた。盾で防ぐ。衝撃で地面を滑るように後退させられる。が、倒れない。

 尾撃の勢いが止まったとき、結衣は盾を手放して左腕で尻尾の先端を抱え込む。そして右手のメイスでぶっ叩く。

"ユイちゃん耐えた!"

"さすが、小さな体でおっきな武器を振り回す系女子!"

 火蜥蜴サラマンダーは再び結衣に注目する。手強しとみたか、大きく口を開いた。

 やばい、炎が来る!

 おれの予想に反し、結衣は尻尾を手放し、メイスを両手持ちにして一気に踏み込んだ。

「てぇええい!」

 火蜥蜴サラマンダーの顎下に潜り込み、メイスを全力で振り上げる。

 その一撃は炎を吐くために開いた口を閉じさせ、顔を上向きにさせる。一瞬遅れて、炎が火蜥蜴サラマンダーの口内で爆発的に噴出。

 すぐ開かれた口から炎が流されるが、火蜥蜴サラマンダーの口周辺は焼けただれ、肉の焼け焦げる臭いが周囲に撒き散らかされる。

 その隙に、金髪女性はパーティメンバーを引きずって後退した。最初に直撃を受けた冒険者は骨折が複数、意識も失ってしまっている。もうひとりも、左腕が折れているらしく苦悶の顔を見せている。

 金髪女性は打撲はあるものの、動きに支障はないらしい。

 結衣はあえて追撃せず、盾を拾う。いい判断だ。火蜥蜴サラマンダーが動きを止めたのはほんの束の間、すぐ結衣に仕掛けてくる。

 紗夜は、変わらず遠距離から矢を射続けている。

"紗夜ちゃんなにやってるの!? ここは剣や魔法の出番でしょ!"

"さっきユイちゃんと畳みかけてれば良かったのに!"

 コメントは紗夜の動きに批判的だが、おれはそれが無意味な行動でないことがわかっている。

 一矢ごとに狙う部位を変え、その効果を見極めているのだ。

 そしてその矢が、火蜥蜴サラマンダーの側頭部に命中した瞬間、紗夜は相手の反応を見逃さなかった。

「わかった! そこ!」

 紗夜は全力で弓を引き絞る。放たれた矢は、火蜥蜴サラマンダーの側頭部に突き刺さった。

"!?"

"ダメージが通った!?"

"そうか、弱点を探してたのか!"

"俺たちの目が節穴だった"

"さすが紗夜ちゃん!"

「そうかい、そこが弱点かい!」

 金髪女性も意気込み、剣を振り上げて突っ込む。ほぼ同時に結衣もメイスで仕掛ける。

 しかし、弱点近くに矢が刺さっているのがよほど嫌なのだろう。火蜥蜴サラマンダーはこれまで以上に暴れ回る。あまりの俊敏さに、結衣の攻撃は当てられない。金髪女性の剣も、切っ先程度しか触れられない。これでは致命傷にはほど遠い。

"くそ、弱点がわかっても当てられないんじゃ倒せないぞ"

"紗夜ちゃんの矢なら?"

"威力不足か"

「……あたしの矢じゃトドメが刺せない……。なにか、手があるはずだけど……」

 結衣たちは暴れる火蜥蜴サラマンダーの動きに対応するのに精一杯だ。結衣はまだ防いでいるが、体力がどんどん消耗していく。このままではやられる。

 紗夜は焦りはするが、判断がつかず動けない。

 そのとき、痺れを切らしたか、ロザリンデが動いた。おれにカメラを一旦結衣たちに向けるよう指示し、その隙に紗夜に近づいていく。

「サヨ、ひとつだけ教えてあげる。あなたも使える変身魔法は、姿を変えられるだけじゃないのよ」

「そうなの……?」

「武器を変身させれば威力だって変わるのは道理でしょう?」

「そっか!」

 ロザリンデが下がる。カメラを紗夜に戻すと、もう魔力を集中させ始めていた。

 魔力の霧が紗夜を包む。全身の変身は必要ないはずだが、勢い余ったのか例の魔法少女の衣装に変わる。

"キタ――(゚∀゚)――!!"

"ここで変身!?"

"土壇場で魅せてくれるじゃんよ!"

 続けて構えた弓が、矢が、より大きく強力なものに変わる。

"武器も変わるのか!"

"愛よ!"

"勇気よ!"

"希望よ!"

"いやビューティーセ◯◯ンアローでもマ◯◯ルシュートでもねえんだわ"

「紗夜ちゃん! やって!」

 紗夜の様子を察した結衣が、盾と武器を捨て、火蜥蜴サラマンダーを引っ掴んだ。数秒も抑えられないが、紗夜には1秒も必要ない。

「……当てる!」

 その一閃は、火蜥蜴サラマンダーの側頭部を的確に貫いた。

 だが――。
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