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第118話 ダンジョン生活の始まり
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迷宮の第1階層に作られた施設は、もともとは魔物や魔素、魔力石など迷宮由来の諸々を研究するためのものだ。
とはいえ、せっかくの施設が、研究だけに使われるのはもったいない。冒険者たちの要望や、おれたちの提案も聞き入れられ、公共施設としての利用も想定される作りとなった。
具体的には、訓練所や休憩所が作られた。特に訓練所は広いスペースが設けられており、もちろん魔素もある。危険な実戦を経なくても、レベルアップが可能だ。
魔法講座などで安全な会場として利用もできる。初心者向けに戦技講座なんかを開いてもいいだろう。
訓練を通して交流が生まれ、自然とパーティが発生するのも期待される。
迷宮に入って比較的すぐの位置にあることから、一部の冒険者たちから初心者の館などと呼ばれ始めていたりする。
また丈二の言っていた通り、無料Wi-Fiがある。例の迷宮で通信できるようになる機器――ダンジョンルーターも設置済みだ。
各人がモバイル式のダンジョンルーターをスマホにセットすれば、初心者の館のWi-Fiに繋がり、インターネットが可能になるわけだ。
みんなモバイルダンジョンルーターを欲しがったが、おれたちは検討の結果、販売はしないことにした。月額レンタル制にしたのである。
ダンジョンルーターの起動には魔力石が必要だ。特に初心者の館に設置したダンジョンルーターは常時起動が求められる。その魔力石を常に確保するためには経費がかかるからだ。
みんなに一度で売り切ってしまえば最初こそ大儲けするが、積み上がっていく経費により長期的には赤字になってしまう。月額制にすれば逆に、長期的には黒字にできる。
これは異世界人のリチャード爺さんの発案だ。
「やはり商売に関しては、リチャード様に相談に乗っていただくのが一番でしたね」
「うん、長期的な視点っていうのかな。リチャード爺さん、異世界じゃ結構名のある貴族だったんじゃないかな」
とか話をしながら、迷宮へ行ってみると、その入口では騎乗者に連れられて、グリフィンのオブダとベルダが来ていた。
「あっ、一条先生、おはようございますっ!」
「おはよう、ございます……」
そして紗夜と結衣もいた。家具の諸々を、オブダとベルダの背中に積み込んでいる。
グリフィンたちには騎乗用の手綱や鞍を装着してもらっているが、今回は荷台も背負ってきている。貨物を運ぶ用の装備だ。人を運ぶときには装備を変えて、客席を背負ってもらったりしている。
「ふたりは今日が引っ越しだったっけ」
「はいっ、今日のために新調したりしちゃいました」
「モンスレさんたちは、もう引っ越し終わったんですか?」
「はい。わたくしたちは、あまり私物が多くなかったので早めに終わっていたのです。今日はお世話になっていた方々へご挨拶へ行っておりました」
おれたちも宿に居を構えることにしたのだ。
フィリアが長らくお世話になっていた華子婆さんは、おれたちの門出を祝ってくれた。
「やっぱり恋人同士は、ふたりで暮らすのが一番いいわ」
そう言ってくれた華子婆さんに、フィリアは深々と頭を下げていた。
「これからも遊びに参ります。ここは、わたくしにとって第2の実家と思っておりますから」
「ええ、いつでも来てね。実際、ここはあなたたちの家よ。あなたたちが借金を払ってくれたからこそ、この家はまだあるのだから」
「……ご存知だったのですか」
「気付いたのは最近よ。ありがとう、フィリアちゃん、拓斗くん。この御恩は忘れないわ」
「わたくしこそ……お婆様に助けていただいたことは、一生忘れません」
そうしてフィリアは華子婆さんやその孫の晶子と、本当の家族みたいに抱き合ってから別れてきたのだ。
「じゃあ出発しますよー」
グリフィン騎乗者たちが合図をして、グリフィンたちがのっしのっしと迷宮へ入っていく。第2階層は飛行移動が基本だが、第1階層では徒歩だ。
おれとフィリアは、紗夜と結衣に付き合って一緒に行く。
第2階層の宿に着いたら荷下ろしだ。家具を運ぶのは、本来ならなかなかの重労働なのだが、ここはもう迷宮の中だ。魔素による強化のお陰で、重量物もすいすい運べてしまう。
あっという間に片付いて、おれたちはエントランスホールの歓談スペースで一息ついた。
「なんかすごいですねー、活気があって、迷宮の中って感じがしません」
「ダンジョン生活の始まり……わくわく、です」
紗夜と結衣は楽しそうにきょろきょろと周囲を見渡す。
受付カウンターには、管理人が宿泊客の相手をしている。その他の雑務をやってくれる従業員もいる。売店では、ちょっとした食料や日用品が売られている。品揃えはまだ少ないが、じきに充実していくだろう。
歓談スペースには、他にも客がいて、のんびりお茶したりしている。窓から見える庭では、野営する者たちの姿も見える。部屋を借りずに野営すると、料金が安いのだ。
そして大荷物を運んできたグリフィンたちは、騎乗者たちから、いつもより良い食事をもらって喜んでいる。
この宿にもWi-Fi設備およびダンジョンルーターは設置している。第1階層の初心者の館と繋がっており、宿とその周辺ではスマホにダンジョンルーターをセットしなくてもネットが使えるようにした。
ちなみに入居者用の部屋は、すでに埋まっている。宿泊客用の部屋も、連日満室だ。開店してから一週間も経っていないが、すでに大繁盛と言ってもいい。
「これで電気も水道も使えるんですもんねー、全部魔力回路なのもすごいですけど」
「はい、わたくし頑張っちゃいました」
若干のドヤ顔で笑うフィリアだが、おれも正直すごいと思う。
地下の魔力石の集積所から、宿中に魔力回路を張り巡らせてあるのだ。スイッチを入れれば回路が繋がって灯りが点いたり、冷暖房魔法が発動したり。電撃魔法の応用で、各部屋のコンセントには100Vの電気が流れるようにもなっている。
しかもどこの部屋でどれだけ魔力を使ったか数値化できる。入居者から、使った分だけ請求できる仕組みだ。
実際に回路を描いてくれたのは業者だが、設計したフィリアの仕事ぶりは称賛に値する。
「ところで、津田さんとロザりんは? 挨拶、しておきたいのです、けど」
結衣に問われて、時間を確認する。
「今は仕事中だと思うから、お昼休憩頃にお邪魔しようか」
といっても、仕事になっているかな?
なにせ今日は、丈二とロザリンデが同棲を始めた初日なのだ。
好きな子とふたりきりの共同生活が始まったら、少なくともおれは、しばらく仕事どころじゃない。
とはいえ、せっかくの施設が、研究だけに使われるのはもったいない。冒険者たちの要望や、おれたちの提案も聞き入れられ、公共施設としての利用も想定される作りとなった。
具体的には、訓練所や休憩所が作られた。特に訓練所は広いスペースが設けられており、もちろん魔素もある。危険な実戦を経なくても、レベルアップが可能だ。
魔法講座などで安全な会場として利用もできる。初心者向けに戦技講座なんかを開いてもいいだろう。
訓練を通して交流が生まれ、自然とパーティが発生するのも期待される。
迷宮に入って比較的すぐの位置にあることから、一部の冒険者たちから初心者の館などと呼ばれ始めていたりする。
また丈二の言っていた通り、無料Wi-Fiがある。例の迷宮で通信できるようになる機器――ダンジョンルーターも設置済みだ。
各人がモバイル式のダンジョンルーターをスマホにセットすれば、初心者の館のWi-Fiに繋がり、インターネットが可能になるわけだ。
みんなモバイルダンジョンルーターを欲しがったが、おれたちは検討の結果、販売はしないことにした。月額レンタル制にしたのである。
ダンジョンルーターの起動には魔力石が必要だ。特に初心者の館に設置したダンジョンルーターは常時起動が求められる。その魔力石を常に確保するためには経費がかかるからだ。
みんなに一度で売り切ってしまえば最初こそ大儲けするが、積み上がっていく経費により長期的には赤字になってしまう。月額制にすれば逆に、長期的には黒字にできる。
これは異世界人のリチャード爺さんの発案だ。
「やはり商売に関しては、リチャード様に相談に乗っていただくのが一番でしたね」
「うん、長期的な視点っていうのかな。リチャード爺さん、異世界じゃ結構名のある貴族だったんじゃないかな」
とか話をしながら、迷宮へ行ってみると、その入口では騎乗者に連れられて、グリフィンのオブダとベルダが来ていた。
「あっ、一条先生、おはようございますっ!」
「おはよう、ございます……」
そして紗夜と結衣もいた。家具の諸々を、オブダとベルダの背中に積み込んでいる。
グリフィンたちには騎乗用の手綱や鞍を装着してもらっているが、今回は荷台も背負ってきている。貨物を運ぶ用の装備だ。人を運ぶときには装備を変えて、客席を背負ってもらったりしている。
「ふたりは今日が引っ越しだったっけ」
「はいっ、今日のために新調したりしちゃいました」
「モンスレさんたちは、もう引っ越し終わったんですか?」
「はい。わたくしたちは、あまり私物が多くなかったので早めに終わっていたのです。今日はお世話になっていた方々へご挨拶へ行っておりました」
おれたちも宿に居を構えることにしたのだ。
フィリアが長らくお世話になっていた華子婆さんは、おれたちの門出を祝ってくれた。
「やっぱり恋人同士は、ふたりで暮らすのが一番いいわ」
そう言ってくれた華子婆さんに、フィリアは深々と頭を下げていた。
「これからも遊びに参ります。ここは、わたくしにとって第2の実家と思っておりますから」
「ええ、いつでも来てね。実際、ここはあなたたちの家よ。あなたたちが借金を払ってくれたからこそ、この家はまだあるのだから」
「……ご存知だったのですか」
「気付いたのは最近よ。ありがとう、フィリアちゃん、拓斗くん。この御恩は忘れないわ」
「わたくしこそ……お婆様に助けていただいたことは、一生忘れません」
そうしてフィリアは華子婆さんやその孫の晶子と、本当の家族みたいに抱き合ってから別れてきたのだ。
「じゃあ出発しますよー」
グリフィン騎乗者たちが合図をして、グリフィンたちがのっしのっしと迷宮へ入っていく。第2階層は飛行移動が基本だが、第1階層では徒歩だ。
おれとフィリアは、紗夜と結衣に付き合って一緒に行く。
第2階層の宿に着いたら荷下ろしだ。家具を運ぶのは、本来ならなかなかの重労働なのだが、ここはもう迷宮の中だ。魔素による強化のお陰で、重量物もすいすい運べてしまう。
あっという間に片付いて、おれたちはエントランスホールの歓談スペースで一息ついた。
「なんかすごいですねー、活気があって、迷宮の中って感じがしません」
「ダンジョン生活の始まり……わくわく、です」
紗夜と結衣は楽しそうにきょろきょろと周囲を見渡す。
受付カウンターには、管理人が宿泊客の相手をしている。その他の雑務をやってくれる従業員もいる。売店では、ちょっとした食料や日用品が売られている。品揃えはまだ少ないが、じきに充実していくだろう。
歓談スペースには、他にも客がいて、のんびりお茶したりしている。窓から見える庭では、野営する者たちの姿も見える。部屋を借りずに野営すると、料金が安いのだ。
そして大荷物を運んできたグリフィンたちは、騎乗者たちから、いつもより良い食事をもらって喜んでいる。
この宿にもWi-Fi設備およびダンジョンルーターは設置している。第1階層の初心者の館と繋がっており、宿とその周辺ではスマホにダンジョンルーターをセットしなくてもネットが使えるようにした。
ちなみに入居者用の部屋は、すでに埋まっている。宿泊客用の部屋も、連日満室だ。開店してから一週間も経っていないが、すでに大繁盛と言ってもいい。
「これで電気も水道も使えるんですもんねー、全部魔力回路なのもすごいですけど」
「はい、わたくし頑張っちゃいました」
若干のドヤ顔で笑うフィリアだが、おれも正直すごいと思う。
地下の魔力石の集積所から、宿中に魔力回路を張り巡らせてあるのだ。スイッチを入れれば回路が繋がって灯りが点いたり、冷暖房魔法が発動したり。電撃魔法の応用で、各部屋のコンセントには100Vの電気が流れるようにもなっている。
しかもどこの部屋でどれだけ魔力を使ったか数値化できる。入居者から、使った分だけ請求できる仕組みだ。
実際に回路を描いてくれたのは業者だが、設計したフィリアの仕事ぶりは称賛に値する。
「ところで、津田さんとロザりんは? 挨拶、しておきたいのです、けど」
結衣に問われて、時間を確認する。
「今は仕事中だと思うから、お昼休憩頃にお邪魔しようか」
といっても、仕事になっているかな?
なにせ今日は、丈二とロザリンデが同棲を始めた初日なのだ。
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