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第117話 迷宮でネットできるようになったって!

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「インターネットが繋がったのね。じゃあ丈二も、こちらで暮らせるようになるの?」

 第2階層にまでやってきたおれたちは、意気揚々とロザリンデに実験成功を話した。

「うん、そうなると思う。まあ、肝心の屋敷がまだ改装中だからもう少し先になるけど」

「ふふ、楽しみだわ。他にも、この前みたいな生配信とやらもできるようになるのね?」

「そうだね。あとロゼちゃんの持ってるタブレットに、新しく本を入れたり、アニメ見たり、ゲームで世界中の人と対戦できたりもするよ」

「そう、面白そうなことがたくさんなのね! どうやったらできるの?」

「えーっと、このスマホのケースみたいなのを付けて、ちょっと設定すればいいんだけど……まだ実験中だから、ロゼちゃんはまた今度ね」

「いいわ。読んでない本がまだたくさんあるから我慢できるわ」

 といったところで、フィリアは小さく手を上げた。

「あの、ところでロザリンデ様? その服装は、どうなさったのですか?」

「これ? ふふん、どう? 似合うでしょう?」

 ロザリンデは以前のようなゴシックドレスではなく、現代的な、女学生の制服を着ていた。しかもメガネをかけている。

「はい、とてもお似合いで可愛らしいですが……」

「この前、気に入った漫画のキャラクターを真似てみたのよ。そしたらジョージも喜んでくれたわ。おまけにメガネをかけてあげたら、とてもはしゃいでいたのよ。可愛いわよね」

 うーん、いくら実年齢300歳以上とはいえ、こんなに見た目の幼い子にコスプレさせて喜ぶのは、まずいんじゃないかなぁ……。

 いや、実際に現場は見てないし、当人たちが納得済みならそれでいいけど。

「さてと、そろそろ敬介くんに言われた通り、ここでもネットが繋がってるか試してみよう」

 まずは紗夜ちゃんにメッセージアプリからビデオ通話をかけてみる。

『はい、もしもし? 一条先生?』

「やあ紗夜ちゃん。今、ちょっと時間いいかな? 実験に付き合って欲しいんだ」

『はい、大丈夫ですけど……実験? あれ、フィリア先生やロゼちゃんも一緒なんですね――って、あれ? ロゼちゃん? あれ? ロゼちゃん、外に出て平気なんですか?』

 するとフィリアがスマホの前に進み出てきた。胸を張ってドヤ顔である。

「ふふふっ、いいえ。葛城様、ロザリンデ様は地上に出てはおりませんよ。ふふふっ」

『ええ? でも通話できてるし……あれ、そこ第2階層です?』

 背景で気付いたらしい。その反応に、フィリアはにこにこが止まらない。

「うふふ、その通り、第2階層におります! な、ん、と! スマホがネットに繋がっているのでーすっ!」

『ええぇー! 結衣ちゃん! ちょっと来て、結衣ちゃんすごいよ!』

 紗夜は慌てた様子で近くにいたらしい結衣を連れてくる。

迷宮ダンジョンでネットできるようになったって! ほら、第2階層から先生たちが!』

『マジ、ですか……!』

「はい、武器屋『メイクリエ』と、このわたくしの共同開発の品で、可能になりました!」

『わ、あ……さすが、です……。そのアイテム、ぜひ売ってください!』

「まだ試作機しかないのですぐは難しいですが、いずれ量産が叶いましたらすぐにでも」

 結衣は画面の向こう側で、目をキラキラさせながらコクコクと頷く。

「それと、ふたりとも部屋探しのほうは、もう決めちゃった? もしまだなら――」

 おれが尋ねようとすると、紗夜と結衣は食い気味に答えてくれた。

『『ぜひ、お願いします!』』

「あはは、オーケイ。1部屋、確保しとくね」

『はい、ネットができるなら、もう不満はないですからっ』

「じゃあ細かい話は、また今度会ってしよう。うん、通信も上手くいってるみたいだし、実験は成功ってことでいいかな。紗夜ちゃん、結衣ちゃん、付き合ってくれてありがとう」

「では葛城様、今井様、またお会いしましょう」

『はーい!』

『楽しみに、待ってます……』

 通話終了。フィリアは、にやけ顔のままだ。

「うふふっ、この調子ですと部屋もすぐ埋まってしまいそうですね。それに、この新アイテムも爆売れ間違いなしですっ! これは大変な儲けになりますよっ」

 宿が使えない今の段階でも、この前のパーティみたいに安全地帯を求めてやってくる冒険者は後を絶たない。

 それが意図せず、改修工事中の業者の護衛になっていたりする。

 しかも彼らは、安全地帯の使用料として、お金や魔力石を置いていってくれている。護衛依頼費が浮いたどころか、そこそこの儲けが出てしまっているのだ。

 これが本格的に開店したら、もっと凄い儲けになるだろう。

 それこそ自分が攻略するより、圧倒的に。

「またお金が溜まったら、第3階層とか、もしあるならもっと下の階層に2号店や3号店を建ててもいいかもね」

「はいっ。そうなれば売上も2倍、3倍に……」

「そこまで上手くはいかないと思うけど、少なくとも攻略するみんなの助けにはなるね」

「はいっ、とっても良いことです!」

「丈二さんにも知らせてあげよう」

 おれは今度は丈二にビデオ通話をかける。

 通話に出た丈二は、紗夜たちと同じく驚き、喜んだ。そして――。

『ところでフィリアさん、その機械はスマホ以外にも使えますね?』

「はい、原理が同じ物になら。形は合わせる必要がありますが」

『でしたら1台、固定で設置しましょう。実は第1階層で工事中の施設には、高速の光回線が通るのです。無料でWi-Fiを提供する予定でしたが、どうやらそのアイテムがあれば、範囲を気にする必要はなさそうです』

封魔銀ディマナントの近くだと、さすがに圏外になるけどね」

『だとしても非常に助かります。私も、嬉しいですよ。リモートワークができるなら、ロザリンデさんと居られる時間が増える……』

 ぽつりと呟くと、今まで黙っていたロザリンデが喜色満面でスマホの前に来た。

「わたしも嬉しいわ。ジョージも同じ気持ちなのね」

『ロザリンデさんも一緒でしたか……』

 すぐ恥ずかしそうに目線を落とす丈二だった。

「ジョージはわたしの前でも、もっと素直になっていいのよ?」

『騙し討ちなんて悪い子のすることですよ……? とにかく一条さん、フィリアさん、早見さんやミリアムさんにはよろしくお伝え下さい。あとで打ち合わせもしましょう』

「オーケイ。完成が楽しみになってきたよ」

 おれたちは地上に戻ると、さっそく敬介たちに実験結果を報告した。そして、丈二を交えた打ち合わせをおこない、第1階層用の機器の製作を正式に依頼した。

 さらにスマホ用の機器の量産も開始。それが十分な量、確保できた頃。

 第1階層の施設の建造と、第2階層の宿の改装も完了した。
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