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第115話 商売上手っすね

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 その後、地上に戻った丈二はさっそく家電量販店に買い物に行った。タブレット端末と、ポータブル電源を2台購入。

 ポータブル電源とは、持ち運びのできる充電式の大容量バッテリー機器だ。今回買った物は小さい型だが、タブレットなら余裕で10回以上は満充電にできる。

 そして翌日、丈二はタブレットと、ポータブル電源、さらに携帯ゲーム機を迷宮ダンジョンに持ち込んだ。

 持ってきているポータブル電源は1台のみ。今後、会いに行くたびに満充電したものと交換するつもりなのだという。

 もちろん迷宮ダンジョンにはおれも付き合う。

 というか、グリフィン騎乗者の面接は今日もあったので、先に丈二に付き合ってもらった形だ。

 ロザリンデは大人しく待っていてくれた。

「ロゼちゃん、体の調子はどう?」

「良好よ。血をもらったばかりだもの。そんなすぐには欲しくならないわ。でも、これのお陰で退屈しなくて済んだわ。ありがとう、ジョージ」

 ロザリンデは丈二にスマホを返す。それから期待するような上目遣い。

「それで……その、代わりを持ってきてくれると言っていたけれど……」

「もちろん持ってきましたよ。こちらです」

「わあ、画面が大きくて見やすいわ」

「こちらに電源も持ってきていますので、ずっと使い続けていても一週間はもちますよ」

「この中には、スマホに入っていた本は全部入っているの?」

「全部どころか、もっとたくさん入れてありますよ。少しですがアニメなんかも。それにゲーム機もあります」

「良かったわ。まだ読んでいる途中のものがあったの。ふふっ、楽しみだわ」

「じっくり堪能してください」

「ええ、でもせっかく来てくれたのだから、今日はゆっくりお話しましょう。昨日は、慌ただしすぎたもの」

「もちろん」

 おれたちは、屋敷の安全範囲内でのんびり過ごすことにした。

 グリフィンたちも構って欲しくて遊びに来る。一緒に食事して、ロザリンデは昼寝したりもして、まるでピクニックのような穏やかな時間が過ごせた。

「あれ、モンスレさん……? モンスレさんっすよね!?」

 急に声をかけられて振り返ってみると、数人の冒険者がいた。男ふたりに、女ふたりの、珍しい男女混合パーティだ。

 見覚えがある。最近、実力を伸ばしつつあるパーティだ。確か、第3階層の先行調査をやっているパーティのひとつだったはず。

 見るからに疲労困憊だ。重傷はなさそうだが、あちこち怪我もしている。

「大丈夫? 第3階層帰りかい?」

「そうなんすよ。第3階層、手強い魔物モンスターが多くって。ここ、安全なんすよね? 休ませてもらってもいいすか?」

「いいよ」

 と言ってから、ふとフィリアの顔が脳裏をよぎった。

 ここは、宿として経営する予定の場所だ。まだ開店していないとはいえ、無料で使わせた前例を作ってしまうと、あとあと宿代を請求しにくくなるかもしれない。

「でも、ただじゃダメ。開店前だから安くしとくけど、ここを安全にするにも経費はかかってるわけだしね」

「そうっすよね。あ、でも、後払いでもいいすか? おれら現金は持ち歩いてなくて……」

 迷宮ダンジョンでは使い所が少ないから、現金を持ち歩かないパーティもいるだろう。だったらQRコード決済といきたいが、やはりネットのない迷宮ダンジョンでは使えない。

 今後、ネットが使えるようになる保証もない以上、他のなにかで決済できるようにしておいたほうが良さそうだ。

 それに適した物は、すぐ思いつく。

「なら魔力石はない? 今後は宿のインフラに使うつもりでさ、たくさん必要になりそうなんだ。お金の代わりに、それで払ってくれてもいい」

「それならあるっす! 第3階層、魔力石が手に入りやすいんすよ!」

 聞けば、第3階層は第1階層と同じような洞窟で、魔法を使う魔物モンスターが多いらしい。また、ときどき魔力石の鉱脈が見つかるそうだ。

「へえ、それは良いね。ちなみに、おれ、治療魔法の心得があるから、追加料金もらえれば、みんなの怪我も治してあげられるけど」

「マジっすか!? ぜひお願いしたいっす!」

「さらに、どんな魔物モンスターだったか教えてもらえれば、倒し方とか、食べられるかどうかも教えられるけど」

「それもお願いしまっす! つか、商売上手っすね」

「あははっ、彼女の影響かなぁ」

「あー、フィリアさん。いいっすよねぇ、あんな美人でしっかり者の彼女。羨ましいっす」

「君のパーティの女の子も、どっちもかわいいじゃない」

「いやぁ。でも性格キツくって……」

 すると、そのパーティリーダーは女性メンバーふたりから睨まれた。困った顔をして押し黙る。

 その後、順番に治療をしてやり、諸々の攻略アドバイスをしてあげた。もちろん魔力石はたっぷりいただいた。

 彼らはこれから一晩明かし、再び第3階層へ挑戦しに行くことにしたらしい。

「いやぁ、マジ助かりました! 地上に戻らなくても再挑戦できるの、マジありがたいっす。また来てもいいすか!?」

「いいよ。おれも、いつもいるわけじゃないけど、それでもいいなら。箱かなにか置いとくから、魔力石はそこに入れておいて」

「なんか無人販売所みたいっすね。助かるっす」

「じゃあ、おれたちはもう帰るけど、気をつけてね。無理はしないように」

「うっす!」

 おれたちは、そこで屋敷から離れた。明日もグリフィン騎乗者の面接があるのだ。一泊していくわけにはいかない。

 やがてロザリンデとも別れて、地上へ戻る。

 彼女は今後も経過観察だ。たぶん、なにも問題は起こらないだろうけれど。

 そして、地上に戻ってからは、前にも増して忙しくなっていった。

 第3階層の報告情報のまとめや、挑戦中のパーティへの指示や助言。

 第1階層に建設予定だった施設の工事も始まり、その護衛をやる冒険者の手配もしなければならない。丈二は通常業務をこなしながら、工事の進捗確認もやっていた。

 さらに第2階層の屋敷のほうにも業者を手配もしてくれた。そちらとの打ち合わせは、おれやフィリアが担当する。

 フィリアは敬介たちとの開発に専念させたかったが、屋敷の灯りや冷暖房などに魔力回路を使う以上、外すことはできなかった。数日かけて魔力回路図を描いてもらってからは、開発へ戻ってもらった。

 その頃には、グリフィン騎乗者に合格者が出た。さっそく雇って、屋敷の修繕・改修工事に、グリフィンによる運送で貢献してもらう。

 そうして、あっという間に日々は過ぎていき――。

「では魔素マナ通信器、28回目の試験を開始します」

 フィリアと敬介が進めていた開発は、大詰めを迎えていた。
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