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第92話 初恋に悩む中学生か君は!
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「わたし、あなたのこと好きだわ」
「それは光栄です」
「ジョージは? わたしのこと好き?」
「良い子は好きですよ」
「それは良かったわ」
ロザリンデはにっこりと笑って、丈二に顔を近づけた。丈二は身構え、目をつむる。
また額を合わせるのかと思っていたのだが、ロザリンデは途中で軌道を変えた。
その唇が、丈二の唇に重ねられる。
丈二はびっくりして目を見開き、顔を引いた。
「ロザリンデさん、急になにを!?」
「キスをしたのよ? 好き合っているのなら、当然のことだわ」
「しかし、その……私はっ」
丈二は珍しく動揺している。
おれは口を挟んだ。
「ロザリンデちゃん、丈二さんは君を異性として好きだと言ったわけじゃないんだ。そういうのは、その人をもっとよく知ってからだと思う」
「わたしはジョージのこと、よく教えてもらったわ」
「丈二さんは、まだ君のことをよく知らない」
「でもジョージは、闇の者が好きなのでしょう? わたしはその代表の吸血鬼よ」
丈二は難しい顔をした。
「まあ、そうですが……」
「あなたが求めていた、ダンジョンでの出会いよ」
「それも正しいですが」
「年上のお姉さんよ」
「それは違いませんか」
ロザリンデは首を傾げた。
「メガネが足りないかしら?」
「いえ、そうではなく……」
「わかったわ。見た目ね? こうすればいいのかしら」
ロザリンデは一旦霧化して、その体を再構成した。
あどけない美少女から、スタイル抜群の妖艶な美女へ変わっていた。ご丁寧にメガネまでかけている。
おれでも目を見張る美貌だ。誘惑なんて使わなくても、大抵の男なら言うことを聞いてしまいそうな、危険な色気を漂わせている。
「――ひゅっ」
丈二は変な息を吐いたあと、呼吸も止めてしまった。顔がみるみる真っ赤になっていく。
それから必死に歯を食いしばって視線を逸らし、声を震わせる。
「も、もとに戻ってください。私の理性が残っているうちに!」
「……丈二さん、なんで暴走直前みたいなこと言ってんの」
「まさに暴走直前だからですよっ!」
怒られた。理不尽だ。
ロザリンデは大人の姿とは裏腹に、子供っぽい仕草で首を傾げる。
「なにか間違ったかしら?」
「いや、好みにハマりすぎて混乱してるみたいだ。今は戻ってあげて」
「そう? なら良かったわ」
ロザリンデは、もとの少女の姿に戻る。
丈二は胸元を押さえ、大きく息をついた。
「……勘弁してください。私をからかっているのですか?」
「そんな悪い子みたいなことしないわ。わたしはあなたが好きよ、ジョージ。そしてわたしは、あなたの好きなものでいっぱいよ。実際、好きと言ってくれた。わたしは、それが嬉しいの。でも……」
ロザリンデは少し表情を曇らせる。
「もし本当に違うのなら、そう言って……。先走ったことは謝るわ」
「そ、その件はまた後で話しましょう。一条さん、ちょっといいですか」
ぐいっ、と引っ張られて、その場から少々離れる。内緒話がしたいらしい。
丈二は未だ混乱中らしく、チラチラとロザリンデに目を向けたり、視線を落としてしまったりと落ち着きがない。
「えーっと……とりあえず、おめでとう?」
「面白がってます?」
「ちょっとね。おれとフィリアさんは、出会ってからキスまで結構かかったのに、君は出会って数分なんだもんなぁ。羨ましい」
「相手は上級吸血鬼ですよ?」
「人間に害意がないなら、普通の異世界人として扱っていいと思うよ。まあ人を騙してくるタイプもいるけど……それならおれたちは、とっくに誘惑を仕掛けられてる」
「彼女が善良であることは疑っていませんが……」
「普通の女の子じゃなくて尻込みしてる?」
「いえ、私が気にしてるのは……」
丈二は頭を抱えた。
「私自身の、この感情ですよ。異常ではないですか、これは」
「あはは。まあ、違うって即答できなかった時点でそうだろうと思ったけど」
「一条さん、私は本当に誘惑を受けてはいないのですよね?」
「自我を持って話せてる時点で大丈夫だよ」
「では、やはり私は彼女に……」
「それって、なにか問題あるかな?」
「大ありです。私は彼女のことをなにも知らないのですよ。ただ好みだからと愛するようなことがあれば、それは失礼ではありませんか。相手の属性や見た目といった表面的なものだけを見て欲情していることになりませんか」
「だったら、なおさら彼女と向き合って、よく知るべきじゃない? その上で、同じ感情を抱くんなら問題ないわけでしょ」
「た、確かに……。あ、いや、しかし、確証を得られる前に私が間違いを犯してしまったら、どうすれば……!?」
「向き合い続けて、それが本当に間違いだったのかどうか、確かめればいい」
「なるほど……。それは、そうです。ですが、もうひとつ――」
「――ええい! 不安になりすぎ! 初恋に悩む中学生か君は!」
「仕方ないでしょう! 本当に初めてなんですから! そもそも一目惚れなんて信じてなかったんですよ、私は!」
「とにかく戻るよ。おれと話してたって埒はあかないんだから」
「待ってください、待ってください! 心の準備ができていません!」
「言っとくけど、上級吸血鬼の耳ならおれらの話、全部聞こえてるからね。準備もなにもないからね」
「なぜそれを先に言わないんですか!」
おれは丈二を引きずってきて、ロザリンデの前に放り出してやった。
「それは光栄です」
「ジョージは? わたしのこと好き?」
「良い子は好きですよ」
「それは良かったわ」
ロザリンデはにっこりと笑って、丈二に顔を近づけた。丈二は身構え、目をつむる。
また額を合わせるのかと思っていたのだが、ロザリンデは途中で軌道を変えた。
その唇が、丈二の唇に重ねられる。
丈二はびっくりして目を見開き、顔を引いた。
「ロザリンデさん、急になにを!?」
「キスをしたのよ? 好き合っているのなら、当然のことだわ」
「しかし、その……私はっ」
丈二は珍しく動揺している。
おれは口を挟んだ。
「ロザリンデちゃん、丈二さんは君を異性として好きだと言ったわけじゃないんだ。そういうのは、その人をもっとよく知ってからだと思う」
「わたしはジョージのこと、よく教えてもらったわ」
「丈二さんは、まだ君のことをよく知らない」
「でもジョージは、闇の者が好きなのでしょう? わたしはその代表の吸血鬼よ」
丈二は難しい顔をした。
「まあ、そうですが……」
「あなたが求めていた、ダンジョンでの出会いよ」
「それも正しいですが」
「年上のお姉さんよ」
「それは違いませんか」
ロザリンデは首を傾げた。
「メガネが足りないかしら?」
「いえ、そうではなく……」
「わかったわ。見た目ね? こうすればいいのかしら」
ロザリンデは一旦霧化して、その体を再構成した。
あどけない美少女から、スタイル抜群の妖艶な美女へ変わっていた。ご丁寧にメガネまでかけている。
おれでも目を見張る美貌だ。誘惑なんて使わなくても、大抵の男なら言うことを聞いてしまいそうな、危険な色気を漂わせている。
「――ひゅっ」
丈二は変な息を吐いたあと、呼吸も止めてしまった。顔がみるみる真っ赤になっていく。
それから必死に歯を食いしばって視線を逸らし、声を震わせる。
「も、もとに戻ってください。私の理性が残っているうちに!」
「……丈二さん、なんで暴走直前みたいなこと言ってんの」
「まさに暴走直前だからですよっ!」
怒られた。理不尽だ。
ロザリンデは大人の姿とは裏腹に、子供っぽい仕草で首を傾げる。
「なにか間違ったかしら?」
「いや、好みにハマりすぎて混乱してるみたいだ。今は戻ってあげて」
「そう? なら良かったわ」
ロザリンデは、もとの少女の姿に戻る。
丈二は胸元を押さえ、大きく息をついた。
「……勘弁してください。私をからかっているのですか?」
「そんな悪い子みたいなことしないわ。わたしはあなたが好きよ、ジョージ。そしてわたしは、あなたの好きなものでいっぱいよ。実際、好きと言ってくれた。わたしは、それが嬉しいの。でも……」
ロザリンデは少し表情を曇らせる。
「もし本当に違うのなら、そう言って……。先走ったことは謝るわ」
「そ、その件はまた後で話しましょう。一条さん、ちょっといいですか」
ぐいっ、と引っ張られて、その場から少々離れる。内緒話がしたいらしい。
丈二は未だ混乱中らしく、チラチラとロザリンデに目を向けたり、視線を落としてしまったりと落ち着きがない。
「えーっと……とりあえず、おめでとう?」
「面白がってます?」
「ちょっとね。おれとフィリアさんは、出会ってからキスまで結構かかったのに、君は出会って数分なんだもんなぁ。羨ましい」
「相手は上級吸血鬼ですよ?」
「人間に害意がないなら、普通の異世界人として扱っていいと思うよ。まあ人を騙してくるタイプもいるけど……それならおれたちは、とっくに誘惑を仕掛けられてる」
「彼女が善良であることは疑っていませんが……」
「普通の女の子じゃなくて尻込みしてる?」
「いえ、私が気にしてるのは……」
丈二は頭を抱えた。
「私自身の、この感情ですよ。異常ではないですか、これは」
「あはは。まあ、違うって即答できなかった時点でそうだろうと思ったけど」
「一条さん、私は本当に誘惑を受けてはいないのですよね?」
「自我を持って話せてる時点で大丈夫だよ」
「では、やはり私は彼女に……」
「それって、なにか問題あるかな?」
「大ありです。私は彼女のことをなにも知らないのですよ。ただ好みだからと愛するようなことがあれば、それは失礼ではありませんか。相手の属性や見た目といった表面的なものだけを見て欲情していることになりませんか」
「だったら、なおさら彼女と向き合って、よく知るべきじゃない? その上で、同じ感情を抱くんなら問題ないわけでしょ」
「た、確かに……。あ、いや、しかし、確証を得られる前に私が間違いを犯してしまったら、どうすれば……!?」
「向き合い続けて、それが本当に間違いだったのかどうか、確かめればいい」
「なるほど……。それは、そうです。ですが、もうひとつ――」
「――ええい! 不安になりすぎ! 初恋に悩む中学生か君は!」
「仕方ないでしょう! 本当に初めてなんですから! そもそも一目惚れなんて信じてなかったんですよ、私は!」
「とにかく戻るよ。おれと話してたって埒はあかないんだから」
「待ってください、待ってください! 心の準備ができていません!」
「言っとくけど、上級吸血鬼の耳ならおれらの話、全部聞こえてるからね。準備もなにもないからね」
「なぜそれを先に言わないんですか!」
おれは丈二を引きずってきて、ロザリンデの前に放り出してやった。
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