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第84話 一番頼りになる武器が残っている

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 ダスティンは不敵な笑みを浮かべた。

「そうだったな。お前は、闇の存在に憧れを持っているのだったな」

「私に誘惑テンプテーションを仕掛けたときに読み取っていましたか」

「残念だな。その憧れも私が叶えてやれるというのに。つまらん日常から解放され、吸血鬼ヴァンパイアとして生きる喜びも与えてやれるのに」

 丈二は返事をせず、ダスティンの顔面にアサルトライフルを連射した。

 顔がぐちゃぐちゃになって、ダスティンは仰向けに倒れる。その顔はすぐ再生を始める。

「私はお前のようなやつが嫌いなんですよ」

 丈二はおもむろに接近していく。

「人の生き方を、したり顔で批評して、こうしろああしろと押し付けてくる……。なぜ私の人生を、赤の他人につまらないなどと言われなければならない!?」

 倒れたダスティンを見下ろすと、その胴体にさらに連射。弾倉すべてを叩き込む。

 その弾丸ひとつひとつは、丈二の怒りだった。

 ダスティンに対してだけじゃない。これまで彼を取り巻いていたすべてへの怒りだ。

 幼い頃から、丈二は想像力が豊かだった。

 自分自身の空想を楽しみ、誰かの空想が形になった様々な作品に触れるのが好きだった。

 いわゆる厨二病などと言われるような言動をしていたこともある。中学生時代に留まらず、高校生になってもこじらせていた。

 けれど、それだけの年齢にもなると、一緒に楽しんでいた友達からも白い目で見られ始めた。

「お前、まだそんなこと言ってんのかよ、恥ずかしいな」

「いい加減大人になれよ」

「近づくなよ。同類に思われるだろ」

 敬遠されて、丈二の周りには友達がいなくなっていった。

 丈二もさすがに空想の世界が、この世にないことに気づく頃だった。

 厨二病を卒業して、普通に勉強して、普通にスポーツに打ち込んで……。

 ひどくつまらなかった。

 宇宙人も未来人も、異世界人、超能力者もいない。ただの人間には、興味がない。

 魔法もない。妖怪もいない。地下の裏格闘大会も存在しないし、異世界転移もなければ、影に隠れて悪を討つヒーローもいない。

 それでも勉強や武道で成果を上げるのは、それなりにやりがいがあった。

 なのに、またやつらは言うのだ。

「お前、それだけで生きてて楽しいか?」

「津田くん、一緒にいてもつまんないんだよねー」

「いや本当、朴念仁だよなお前。面白くねえ」

 ふざけるな! つまらないのはお前たちのほうだ!

 今度は丈二のほうが、そういった人間を避けるようになっていった。

 やがて気づけば、自分と同じ人間ばかりの職場に来ていた。

 まあ、そんなものだ。この世は、空想ほど面白くはない。厨二病時代の空想も遠くに置き捨てて、丈二は淡々と仕事をこなすだけの日々を送っていた。

 それが迷宮ダンジョンの出現から変わり始めた。

 生まれて初めて、面白いことが現実に起きたのだ。

 異世界人との邂逅、リアルモンスタースレイヤーの出現、その本人との接触。迷宮ダンジョンでのレベル上げ、魔法の習得、仲間と挑む冒険……!

 これ以上、人生になにを望むというのか?

 それをつまらない日常などと、よくも言えたものだ!

 弾切れになった弾倉を捨て、べつの弾倉に取り替える。再び銃口を向けるが、ダスティンに掴まれた。狙いが逸らされる。

「なかなか大した武器だが、その程度では吸血鬼ヴァンパイアは殺せん、ぞ」

 顔も胴体も穴だらけなのに、驚くほどの力で引き寄せる。丈二の体勢が前方に崩れる。

 ダスティンはもう一方の手の爪で、こちらを狙っている。

 丈二は銃を手放し、半身になってその手刀をかわそうとした。防刃ジャケットを貫いて皮膚を掠める。

 崩れた体勢に逆らわず、そのまま床を転がって距離を取る。その動きの最中、腰の拳銃を抜く。

 ダスティンはまだ再生しきっていない体で飛び上がり、空中でアサルトライフルをこちらに向けた。

 こちらの動きを見て使い方を覚えたか、すぐさま発砲される。だが狙いが甘い。空中では発砲の反動を制御しきれず命中などしない。

 丈二は冷静に狙いを定め、落下中のダスティンに連続で2発命中させた。

 ダスティンは怯まず着地。アサルトライフルを再度連射。

 丈二は横っ飛びで回避し、頑丈そうな石像の影に隠れる。

 石像を完全破壊する勢いで銃撃されるが、弾はすぐ切れる。

「ふん、弾が切れたら使えないのか。迷宮ダンジョン探索には向かんな」

 ダスティンはアサルトライフルを窓の外に放り捨てる。丈二は物陰から飛び出し、拳銃を撃った。

 対し、ダスティンは高速でジグザグに走行して接近してくる。

 連射するが、どれも当たらない。弾が切れる。しかしリロードする間もなく、ダスティンが手を伸ばしてきた。

 横に逃げるが、人外の脚力で強引に方向転換してきたダスティンに捕まってしまう。

 襟首を掴まれ、体を持ち上げられてしまう。

 丈二は、あえてされるがまま。その間に拳銃に弾倉をリロードした。至近距離で、ダスティンの頭部に全弾発射。

 それでもダスティンは、再生中の顔をわずかに歪めるだけだ。

「小さい分だけさっきのより弱いな」

 すぐ最後の弾倉をリロードしようとするが、それは許されない。拳銃を払い除けられ、弾倉も遠くへ投げ捨てられた。

「どうした、もう武器はないのか?」

 そして丈二自身も、戯れとばかりに高く放り投げられる。わずかな浮遊感のあと、石造りの床にぶつかった。受け身を取ったとしても、相当の衝撃だ。

 丈二はふらつきながらも立ち上がる。

 ダスティンは目にも止まらぬ速さで接近。通り抜けざまに爪で丈二を切り裂いていく。正面から、背後から、側面から。倒れそうになれば、反対側から支えるように。

 生かさず殺さず、なぶるように。もはや丈二の衣服はボロボロで血塗れだった。

吸血鬼狩りヴァンパイアハンターというのも口先だけだったな」

 そして再び正面から。突き出される爪に、丈二は目を光らせた。

 タイミングを合わせ、左手でダスティンの腕の軌道を逸らす。同時に踏み込み、ひねりを加えた右拳を突き出す。空手で言うところの、逆突き。

 カウンターの直撃に、さしものダスティンも怯んだ。

 さらに飛び後ろ回し蹴り。側頭部に受け、ダスティンはきりもみ状に回転しながら倒れた。

 余裕に見せかけているが、ダスティンは銃創の再生も追いついていないのだ。ダメージは蓄積されている。きっと、あともう一息。

「武器なら、まだあります。一番頼りになるものが残っている」

 丈二はボロボロの服を破り捨てた。鍛え抜かれた上半身があらわになる。

「この拳と技が私の武器だ!」
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