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第23話 動画であなたを見つけたの!
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「あっ、一条先生! フィリア先生!」
買い物のあと、迷宮に行ってみると、ちょうど紗夜も来ていた。
「やあ紗夜ちゃん、これから入るとこ?」
「はい。先生に言われたとおり、できるだけ迷宮に長くいようと思って。って、あれ? フィリア先生、ご機嫌ですか?」
「まあ葛城様、おわかりになりますか? なりますか? うふふっ、わたくし、とってもご機嫌なのですっ」
いやもう、さっきからかつてないほどのニコニコ笑顔でいれば、誰でもご機嫌だとわかる。
紗夜はおれのほうを見て、ハッ、と気づく。
「お、おめでとうございます! ひとつ屋根の下、ですもんね。大人だぁ……」
「違うって」
「えっ? でも、フィリア先生がこんなに喜ぶならてっきり……」
「うふふふっ、聞きたいですか? 聞きたいでしょう? そ、れ、は! じゃ~ん、スマホを買ったのでーす!」
ドヤ顔でスマホを取り出すフィリアである。
「……フィリア先生、性格変わってません?」
「最近、肩の荷がひとつ下りたからかな……」
ノリノリなのを見てるのも微笑ましいが。
「あっ、そうだ。じゃあフィリア先生、この前の料理の動画、送りますね? アドレス教えてください」
「はい、ぜひ!」
アドレスやデータのやりとりをするふたり。ちなみにおれはとっくにフィリアとはアドレス交換済みだ。
「魔物料理といえば、先生、他にも食べられる魔物っているんですか? あたし、ウサギ料理はいくつか試してるんですけど、そろそろ他のも食べてみたいなーって思ってて」
「ああ、それならこれから教えてあげるよ。一緒に行こうか」
「はい、お願いしますっ」
フィリアがにやりと微笑む。
「では、さっそくわたくしのスマホの出番ですね」
「そう言うと思ったよ……」
そうして迷宮に入ろうとしたところ。
「あのぉ~、すみません、ちょっといいですか~?」
呼び止められて振り向くと、そこには見知らぬ美女がいた。
艷やかな黒髪を三つ編みにして左肩に流している。タレがちな目は人懐っこそうな印象を醸し出し、微笑みも柔らかだ。だがなぜだろう、どこか幸が薄そうな雰囲気もある。
着込んだ防刃ジャケットは紗夜と同じデザインの色違い――いや、色だけでなくサイズも違う。ジャケットの上からでも目立つほど、胸に大きな膨らみがある。
おれと同年代か、少し年上だろう。
大きなバックパックを背負ってはいるが、荷物量はその大きさに比べ少ないらしく、バランスが悪そうだ。
「えぇと、あなたは?」
「あ、私、宍戸――じゃなくて、末柄美幸です。リアルモンスタースレイヤーさん……だよね?」
おれをまじまじと見つめながら、そんなことを聞いてくる。
「ええ、まあ、そう呼ばれるようになっちゃいましたね」
なんだか、いかにも大人という色気のある熱視線だ。つい照れて目線を下げてしまう。
するとド級の胸元が視界いっぱいに広がる。すごい眼福だが、目のやり場に困る。
「一条様、鼻の下が伸びていますよ」
「伸びてません」
フィリアにツッコまれ、すぐ首を振って美幸の目に視線を戻す。
その隣でフィリアはジト目になっていた。
「今日ほど母親似の体を恨めしく思ったことはありません……」
自分の胸元に手を当ててなにか呟いているが、こういう話題はスルーに限る。
「それで美幸さん? おれになにか用ですか?」
「ええ! ここに来れば、あなたに会えると思って待っていたの! 私を、迷宮の中に連れて行ってくれないかなって……」
それでおれはピンときた。
「なるほど、『探索者』ですね?」
「そう、探索者なの」
紗夜が、あれれ? と首を傾げる。
「探索者? 冒険者じゃないんですか?」
「ああ、ほら、例の国家資格の免許って、ふたつあるでしょ。『迷宮探索士』と『特殊害獣狩猟士』。そのうちの『迷宮探索士』だけを持ってる人のことを言うんだよ」
おれが説明してあげると、へー、と目を丸くする。
「だから武器を持ってなかったんですね」
『迷宮探索士』は、『特殊害獣狩猟士』と違って、銃刀取り扱い試験がない。その分、取得は比較的容易だが、武器の所持は認められていない。
こくりと頷いてから、美幸は話を続ける。
「私、探索者になって迷宮の鉱石とか探すお仕事をしようと思ってたんだけど、思ってたよりずっと魔物がいっぱいで中を進めなくて……。冒険者の誰かに頼もうにも、みんな自分の身を守るので精一杯みたいで……でも」
美幸は一歩踏み込んで、おれの手を両手で包み込んだ。ふわり、といい匂いがする。
「動画であなたを見つけたの! 強くて、格好良くて! あなたなら、きっと人を守りながらでも迷宮を進める。そうでしょう?」
距離がやたらと近い。なんだか顔がちょっと熱くなってきた。
「つまり、護衛の依頼ってことですかね?」
「そう、それ。護衛! お願いし――あっ」
と、美幸はパッとおれから手を離した。一歩退いて、頬を赤らめる。
「ごめんなさい。私、必死で、つい。会えて嬉しくて、距離感バグっちゃってたみたい」
照れながら笑う姿も絵になっている。露出なんてほとんどないのに、妙にセクシーだ。
おれはフィリアに相談する。
「どう思う? いいチャンスかもしれない」
なぜかフィリアは冷ややかな目でおれを見た。
「美女とお近づきになるチャンスですか?」
「うわあ、先生、それはないです。あたし、軽蔑しちゃいそうです」
「いや違うって! おれたちの仕事の話だよ。商売相手を増やすってやつ」
買い物のあと、迷宮に行ってみると、ちょうど紗夜も来ていた。
「やあ紗夜ちゃん、これから入るとこ?」
「はい。先生に言われたとおり、できるだけ迷宮に長くいようと思って。って、あれ? フィリア先生、ご機嫌ですか?」
「まあ葛城様、おわかりになりますか? なりますか? うふふっ、わたくし、とってもご機嫌なのですっ」
いやもう、さっきからかつてないほどのニコニコ笑顔でいれば、誰でもご機嫌だとわかる。
紗夜はおれのほうを見て、ハッ、と気づく。
「お、おめでとうございます! ひとつ屋根の下、ですもんね。大人だぁ……」
「違うって」
「えっ? でも、フィリア先生がこんなに喜ぶならてっきり……」
「うふふふっ、聞きたいですか? 聞きたいでしょう? そ、れ、は! じゃ~ん、スマホを買ったのでーす!」
ドヤ顔でスマホを取り出すフィリアである。
「……フィリア先生、性格変わってません?」
「最近、肩の荷がひとつ下りたからかな……」
ノリノリなのを見てるのも微笑ましいが。
「あっ、そうだ。じゃあフィリア先生、この前の料理の動画、送りますね? アドレス教えてください」
「はい、ぜひ!」
アドレスやデータのやりとりをするふたり。ちなみにおれはとっくにフィリアとはアドレス交換済みだ。
「魔物料理といえば、先生、他にも食べられる魔物っているんですか? あたし、ウサギ料理はいくつか試してるんですけど、そろそろ他のも食べてみたいなーって思ってて」
「ああ、それならこれから教えてあげるよ。一緒に行こうか」
「はい、お願いしますっ」
フィリアがにやりと微笑む。
「では、さっそくわたくしのスマホの出番ですね」
「そう言うと思ったよ……」
そうして迷宮に入ろうとしたところ。
「あのぉ~、すみません、ちょっといいですか~?」
呼び止められて振り向くと、そこには見知らぬ美女がいた。
艷やかな黒髪を三つ編みにして左肩に流している。タレがちな目は人懐っこそうな印象を醸し出し、微笑みも柔らかだ。だがなぜだろう、どこか幸が薄そうな雰囲気もある。
着込んだ防刃ジャケットは紗夜と同じデザインの色違い――いや、色だけでなくサイズも違う。ジャケットの上からでも目立つほど、胸に大きな膨らみがある。
おれと同年代か、少し年上だろう。
大きなバックパックを背負ってはいるが、荷物量はその大きさに比べ少ないらしく、バランスが悪そうだ。
「えぇと、あなたは?」
「あ、私、宍戸――じゃなくて、末柄美幸です。リアルモンスタースレイヤーさん……だよね?」
おれをまじまじと見つめながら、そんなことを聞いてくる。
「ええ、まあ、そう呼ばれるようになっちゃいましたね」
なんだか、いかにも大人という色気のある熱視線だ。つい照れて目線を下げてしまう。
するとド級の胸元が視界いっぱいに広がる。すごい眼福だが、目のやり場に困る。
「一条様、鼻の下が伸びていますよ」
「伸びてません」
フィリアにツッコまれ、すぐ首を振って美幸の目に視線を戻す。
その隣でフィリアはジト目になっていた。
「今日ほど母親似の体を恨めしく思ったことはありません……」
自分の胸元に手を当ててなにか呟いているが、こういう話題はスルーに限る。
「それで美幸さん? おれになにか用ですか?」
「ええ! ここに来れば、あなたに会えると思って待っていたの! 私を、迷宮の中に連れて行ってくれないかなって……」
それでおれはピンときた。
「なるほど、『探索者』ですね?」
「そう、探索者なの」
紗夜が、あれれ? と首を傾げる。
「探索者? 冒険者じゃないんですか?」
「ああ、ほら、例の国家資格の免許って、ふたつあるでしょ。『迷宮探索士』と『特殊害獣狩猟士』。そのうちの『迷宮探索士』だけを持ってる人のことを言うんだよ」
おれが説明してあげると、へー、と目を丸くする。
「だから武器を持ってなかったんですね」
『迷宮探索士』は、『特殊害獣狩猟士』と違って、銃刀取り扱い試験がない。その分、取得は比較的容易だが、武器の所持は認められていない。
こくりと頷いてから、美幸は話を続ける。
「私、探索者になって迷宮の鉱石とか探すお仕事をしようと思ってたんだけど、思ってたよりずっと魔物がいっぱいで中を進めなくて……。冒険者の誰かに頼もうにも、みんな自分の身を守るので精一杯みたいで……でも」
美幸は一歩踏み込んで、おれの手を両手で包み込んだ。ふわり、といい匂いがする。
「動画であなたを見つけたの! 強くて、格好良くて! あなたなら、きっと人を守りながらでも迷宮を進める。そうでしょう?」
距離がやたらと近い。なんだか顔がちょっと熱くなってきた。
「つまり、護衛の依頼ってことですかね?」
「そう、それ。護衛! お願いし――あっ」
と、美幸はパッとおれから手を離した。一歩退いて、頬を赤らめる。
「ごめんなさい。私、必死で、つい。会えて嬉しくて、距離感バグっちゃってたみたい」
照れながら笑う姿も絵になっている。露出なんてほとんどないのに、妙にセクシーだ。
おれはフィリアに相談する。
「どう思う? いいチャンスかもしれない」
なぜかフィリアは冷ややかな目でおれを見た。
「美女とお近づきになるチャンスですか?」
「うわあ、先生、それはないです。あたし、軽蔑しちゃいそうです」
「いや違うって! おれたちの仕事の話だよ。商売相手を増やすってやつ」
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