3 / 182
第3話 君は異世界人かい?
しおりを挟む
「これで登録手続きは完了です。一条拓斗様は『迷宮探索士』と『特殊害獣狩猟士』の免許をお持ちなので、こちらを提示していただくことで迷宮への進入、各種装備の購入や、鉱石の買取受付、その他の探索者業務が一切の制限なくおこなえます」
輪宮島に到着してすぐ、おれは役所に手続きに来ていた。
探索者が民間募集され始めてから制度は何度か改定されているが、今のところは『迷宮探索士』と『特殊害獣狩猟士』というふたつの国家資格が制定されている。
迷宮を探索して資源などを採取するには『迷宮探索士』免許が必要となり、それに加えて魔物を駆除するなら『特殊害獣狩猟士』免許が必要となる。
担当の女性が言うように、おれは両方とも取得済みだ。免許証は1枚のカードにまとめられていて、ネットやテレビでは『冒険者ライセンス』などと呼ばれている。
また、迷宮探索者自体を『冒険者』と呼んでいるようだ。ゲームやライトノベルに登場する冒険者という職業と、やることがそっくりだからだ。
おれとしても冒険者と呼ばれるほうがしっくりくる。
「ここまでで、なにかご質問はございますか?」
こういうやり取りは異世界での冒険者ギルドを思い出す。でも建物はいかにも日本の古びたお役所といった佇まいで、そのギャップがまた面白い。
「ああ、状況を知っておきたいんだけど、迷宮は今のところ何階層まで攻略されてる?」
「残念ながらまだ1階層も攻略されておりません」
「発見から3年も経って、まだ1階層目なのか……」
まあ、本物の冒険者がいなかったのでは仕方ないかもしれない。
冒険者の民間募集が始まったばかりの頃は、資格試験を受ける条件も厳しく、数が集まらなかったと聞いている。
その分エリートが集まったと期待されたが、厳しいとは言っても、冒険の実態に則していない条件で集められた者たちだ。ろくに成果を上げられるわけがない。
その後、条件が二度緩和され、質より量を確保する流れに変わっていった。学歴や武道の段位などの項目が条件から消えていったのだ。
それでようやく本物の冒険者であるおれが、資格を得ることができた。
「第1階層に出る魔物は? ウルフベアやミュータスリザードはテレビで映ってるのを見たけど、他にはどんなのがいる?」
「他には、エッジラビットとステルスキャットが確認されています。それにときどきグリフィンが現れ、大きな被害を出しております。グリフィンの駆除には、通常のものとは別に特別報奨金が支払われます」
「賞金首魔物ってことか……」
「はい。くれぐれもお気をつけください」
「ありがとう……って、あれ?」
立ち去ろうとしたところ、違和感に気づいて再び担当の女性に顔を向ける。
「いかがなさいました?」
「いや、君……なんでおれが言った魔物の名前がわかるんだ?」
おれが口にしたのは異世界での名称だ。日本では別の名前が付けられていたはず。多少名前は似ているが、すぐにわかるわけがない。
そもそもいくつかの名前は、彼女が先に口にしている。
「えっ? あっ!」
彼女もそれで初めて気づいたらしく、目を丸くして固まってしまう。
おれはその女性を、改めて観察する。
綺麗な銀髪。ロングのストレートヘア。瞳の色は黄色。ややツリ目がちだが、気が強いという印象はなく落ち着いていて気品を感じる。肌は透き通るように白く、美しい。
上品に着こなしている制服の胸元に『フィリア』と書かれた名札がある。
絶世の美女だが、見た目でも名前でも、日本人とは思えない。
うっかり気づかなかった……。
冒険者ギルドっぽい雰囲気につられて、異世界にいる気分になってしまっていたのだ。あちらでは、彼女のような見た目は珍しくなかったから。
試しに、異世界語で話しかけてみる。
「もしかして君は異世界人かい?」
するとやはり異世界語で返ってくる。
「はい。そういう貴方も、ですか?」
「いや、おれは日本人だよ。異世界には10年いたけど」
それを聞くとフィリアは、ぱぁあ、と花が咲くように笑顔になった。
「それではやはり、この世界と異世界には、行き来する方法があるのですね?」
「どうかな。おれは自分の意志で行き来したわけじゃないから……」
「それでも……貴方は希望です。わたくしたちもいつかは帰れるかもしれない……」
フィリアは嬉しそうに胸元で両手を握る。
「えぇと、今、わたくしたちって――?」
そのとき、休憩時間かなにかを知らせるチャイムが鳴った。
フィリアはハッとして顔を上げる。言葉も日本語に戻る。
「すみません。もう少しお話ししたいのですが、次の用事がありますのでこれで失礼いたします。探索者業務について、まだご質問がありましたら、次の係の者にお願いいたします」
ゆっくりとしつつも無駄のない動きで、すぐ帰り支度を済ませてしまう。
「申し訳ありません。時は金なり、とも申しますので……」
フィリアはそれきり、足早に立ち去ってしまった。
おれのほうも、役所にもう用はない。装備を買いに行かなければ。
彼女は名残惜しいが、また役所に来れば会えるだろう。その時にでも話の続きをすればいい。
「しかし……ほぼ未攻略の迷宮に、賞金首、それにニュースで語られない異世界人か」
町を歩きながら、独り言ちる
「面白くなりそうじゃないか……」
輪宮島に到着してすぐ、おれは役所に手続きに来ていた。
探索者が民間募集され始めてから制度は何度か改定されているが、今のところは『迷宮探索士』と『特殊害獣狩猟士』というふたつの国家資格が制定されている。
迷宮を探索して資源などを採取するには『迷宮探索士』免許が必要となり、それに加えて魔物を駆除するなら『特殊害獣狩猟士』免許が必要となる。
担当の女性が言うように、おれは両方とも取得済みだ。免許証は1枚のカードにまとめられていて、ネットやテレビでは『冒険者ライセンス』などと呼ばれている。
また、迷宮探索者自体を『冒険者』と呼んでいるようだ。ゲームやライトノベルに登場する冒険者という職業と、やることがそっくりだからだ。
おれとしても冒険者と呼ばれるほうがしっくりくる。
「ここまでで、なにかご質問はございますか?」
こういうやり取りは異世界での冒険者ギルドを思い出す。でも建物はいかにも日本の古びたお役所といった佇まいで、そのギャップがまた面白い。
「ああ、状況を知っておきたいんだけど、迷宮は今のところ何階層まで攻略されてる?」
「残念ながらまだ1階層も攻略されておりません」
「発見から3年も経って、まだ1階層目なのか……」
まあ、本物の冒険者がいなかったのでは仕方ないかもしれない。
冒険者の民間募集が始まったばかりの頃は、資格試験を受ける条件も厳しく、数が集まらなかったと聞いている。
その分エリートが集まったと期待されたが、厳しいとは言っても、冒険の実態に則していない条件で集められた者たちだ。ろくに成果を上げられるわけがない。
その後、条件が二度緩和され、質より量を確保する流れに変わっていった。学歴や武道の段位などの項目が条件から消えていったのだ。
それでようやく本物の冒険者であるおれが、資格を得ることができた。
「第1階層に出る魔物は? ウルフベアやミュータスリザードはテレビで映ってるのを見たけど、他にはどんなのがいる?」
「他には、エッジラビットとステルスキャットが確認されています。それにときどきグリフィンが現れ、大きな被害を出しております。グリフィンの駆除には、通常のものとは別に特別報奨金が支払われます」
「賞金首魔物ってことか……」
「はい。くれぐれもお気をつけください」
「ありがとう……って、あれ?」
立ち去ろうとしたところ、違和感に気づいて再び担当の女性に顔を向ける。
「いかがなさいました?」
「いや、君……なんでおれが言った魔物の名前がわかるんだ?」
おれが口にしたのは異世界での名称だ。日本では別の名前が付けられていたはず。多少名前は似ているが、すぐにわかるわけがない。
そもそもいくつかの名前は、彼女が先に口にしている。
「えっ? あっ!」
彼女もそれで初めて気づいたらしく、目を丸くして固まってしまう。
おれはその女性を、改めて観察する。
綺麗な銀髪。ロングのストレートヘア。瞳の色は黄色。ややツリ目がちだが、気が強いという印象はなく落ち着いていて気品を感じる。肌は透き通るように白く、美しい。
上品に着こなしている制服の胸元に『フィリア』と書かれた名札がある。
絶世の美女だが、見た目でも名前でも、日本人とは思えない。
うっかり気づかなかった……。
冒険者ギルドっぽい雰囲気につられて、異世界にいる気分になってしまっていたのだ。あちらでは、彼女のような見た目は珍しくなかったから。
試しに、異世界語で話しかけてみる。
「もしかして君は異世界人かい?」
するとやはり異世界語で返ってくる。
「はい。そういう貴方も、ですか?」
「いや、おれは日本人だよ。異世界には10年いたけど」
それを聞くとフィリアは、ぱぁあ、と花が咲くように笑顔になった。
「それではやはり、この世界と異世界には、行き来する方法があるのですね?」
「どうかな。おれは自分の意志で行き来したわけじゃないから……」
「それでも……貴方は希望です。わたくしたちもいつかは帰れるかもしれない……」
フィリアは嬉しそうに胸元で両手を握る。
「えぇと、今、わたくしたちって――?」
そのとき、休憩時間かなにかを知らせるチャイムが鳴った。
フィリアはハッとして顔を上げる。言葉も日本語に戻る。
「すみません。もう少しお話ししたいのですが、次の用事がありますのでこれで失礼いたします。探索者業務について、まだご質問がありましたら、次の係の者にお願いいたします」
ゆっくりとしつつも無駄のない動きで、すぐ帰り支度を済ませてしまう。
「申し訳ありません。時は金なり、とも申しますので……」
フィリアはそれきり、足早に立ち去ってしまった。
おれのほうも、役所にもう用はない。装備を買いに行かなければ。
彼女は名残惜しいが、また役所に来れば会えるだろう。その時にでも話の続きをすればいい。
「しかし……ほぼ未攻略の迷宮に、賞金首、それにニュースで語られない異世界人か」
町を歩きながら、独り言ちる
「面白くなりそうじゃないか……」
92
お気に入りに追加
730
あなたにおすすめの小説

【完結】微笑んで誤魔化す息子が、お相手を決めたそうなので神殿長としても祝いましょう。
BBやっこ
ファンタジー
似た者親子の戦い(口撃)を書きたくなって。【長編完結・10話済み】
『VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。』の宣伝っぽく。ショートショート
困った息子に口出したくなるお父さん(神殿の5本指に入る高官)な感じ。
家系の性格がバッチリ出ているなあちぇ思っている親子。それも理解していて
父は楽しんでいるが、息子は苦々しいと経験値の差が出ている親子それぞれの心境。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

みうちゃんは今日も元気に配信中!〜ダンジョンで配信者ごっこをしてたら伝説になってた〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
過保護すぎる最強お兄ちゃんが、余命いくばくかの妹の夢を全力で応援!
妹に配信が『やらせ』だとバレないようにお兄ちゃんの暗躍が始まる!
【大丈夫、ただの幼女だよ!(APP20)】

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

新任チート魔王のうまうま魔物メシ~勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』と死霊術でらくらく無双&快適メシライフを満喫する~
だいたいねむい
ファンタジー
6/2タイトル変更しました。
※旧タイトル:勇者パーティーを追放された死霊術師、魔王の力『貪食』を得て料理無双を開始する。
勇者の仲間として旅を続けていた元死霊術師の冒険者ライノ・トゥーリは、あるとき勇者にその過去がバレ、自分の仲間にそんな邪悪な職業はいらないと追放されてしまう。
しかたなくシングル冒険者ライフを送るライノだったが、たまたま訪れたダンジョンの奥で、魔物を食べずにはいられなくなる魔王の力『貪食』を手に入れてしまう。
これにより勇者をはるかにしのぐ圧倒的な存在へと変化をとげたライノだったが……
魔物の肉はとにかくマズかった。
これにて地獄のメシマズライフの幕開け……は絶対にイヤだったライノは、これまでの冒険者としての経験や魔術を駆使し、ひたすら魔物を美味しく料理することを決心する。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~
風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる