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3.なにも知らない
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うわっ、しまった……。
家に帰って慌てて冷蔵庫をチェックして、天を仰ぐ。
お母さんに、明日の調理実習で合いびき肉がいるって言うの、忘れてたよ。
どうしよう……。お母さんのパートが終わって帰ってくるのを待っていたら、スーパーが閉まっちゃうかも。
『帰宅後でも、出かけるときは必ず連絡しろ』って佐治くんには言われてるけど……。
ちょっとスーパーに行くだけだし……大丈夫だよね?
うん。こうやって迷っているうちに時間が遅くなるくらいなら、今すぐ行った方がいい。
合いびき肉って、いくらくらいするんだろ?
とりあえずお財布に千円札を一枚突っ込むと、わたしは急いで家を出た。
「あ……」
スーパーの前で、ばったり出くわした佐治くんが、大きなため息をつく。
「外出するときは、必ず連絡しろって言ってあったよな?」
「で、でも、明日の調理実習の材料を買い忘れてて……」
「連絡しなかったことの言い訳になってないだろ」
「それは……こんなことで、佐治くんに迷惑をかけたくなかったの!」
「俺の知らないところでなにかある方が、よっぽど迷惑だ」
「はいはい、二人とも。こんなところで言い争ってたら、お店の迷惑になるから。とりあえず、店の中に入ろうか」
突然、ひげ面で髪がぼさぼさの大柄な男の人に声をかけられ、体が緊張でこわばる。
誰、この人……?
「鮫島さん。急に割り込んできたら、篠崎が怖がるだろ」
佐治くんが、非難するようにそのひげ面の人に向かって言う。
ひょっとして、佐治くんの知り合い?
「ごめんなー。おじさん、こう見えて悪い人じゃないんだ」
「……それ、圧倒的に悪い人間が言うセリフだよ」
佐治くんが小さくため息をつくと、もう一度口を開く。
「でも、本当にこの人は大丈夫だから。とりあえず中に入ろう」
「う、うん……」
まあ、佐治くんが大丈夫って言うんだから、大丈夫なんだよね?
店に入るとすぐ、他の買い物があるという鮫島さんと別れて、わたしは佐治くんと一緒に肉売り場に直行した。
「よかったー。最後の一パックだったよ」
それを手に取ってから、ちらっと佐治くんの方を見る。
そうだ。ひょっとして……。
「佐治くんも、これを買いに来たの?」
「……」
「そ、そうだよね! ごめんね。明日だもんね。だったらこれ、たくさん入ってるみたいだから、明日の朝、半分渡すよ」
幸い二百グラムを優に超えるパック。一人百グラムずつ持っていくことになっていたはずだから、二人分は余裕で入っている。
「いや、同じ班なんだから、わざわざ分けて持っていかなくても問題ないだろ。お金は半分渡すから、明日そのまま持ってきてくれれば、それでいい」
いやいや、それじゃあ問題大アリなんだってば!
『ひょっとして、二人で買い物に行ったの?』なんて思われたら、完全にアウトだよ。
「と、とにかく。わたしがそうしたいだけだから、わたしがちゃんと分けていくって。佐治くんには、絶対に迷惑かけないようにするから」
「荷物が多くなるのがイヤなら、俺が持っていく。そうすれば問題ないだろ」
そう言いながら、佐治くんが、わたしの手からひき肉のパックを奪う。
だからぁ。そういう問題じゃないんだってば!
「ごめんなー。こいつ、そういうのに疎くてさ」
買い物カゴに野菜や肉を山盛りに詰め込だ鮫島さんが、ぱっとひき肉のパックを佐治くんから奪うと、わたしに返してくれた。
「申し訳ないけど、若葉ちゃんに頼んでもいい? 明日、ちゃんと若葉ちゃんから半分受け取るように、こいつにはしっかり言い聞かせておくからさ」
鮫島さんが、申し訳なさそうにわたしに言った。
……あれっ? そういえばわたし、自己紹介なんかしたっけ?
どうして下の名前を知ってるんだろう?
「それじゃあ、もうレジに行っても大丈夫かな? 斗真は、ちゃんと若葉ちゃんのことを、家まで送り届けてやるんだぞ」
「言われなくても行くし」
ムッとしながらも佐治くんがそう言うと、鮫島さんは満足げに何度かうなずいた。
佐治くんが、わたしのボディガードだっていうことも、知っているみたい。
この人、いったい何者なの?
うわっ、しまった……。
家に帰って慌てて冷蔵庫をチェックして、天を仰ぐ。
お母さんに、明日の調理実習で合いびき肉がいるって言うの、忘れてたよ。
どうしよう……。お母さんのパートが終わって帰ってくるのを待っていたら、スーパーが閉まっちゃうかも。
『帰宅後でも、出かけるときは必ず連絡しろ』って佐治くんには言われてるけど……。
ちょっとスーパーに行くだけだし……大丈夫だよね?
うん。こうやって迷っているうちに時間が遅くなるくらいなら、今すぐ行った方がいい。
合いびき肉って、いくらくらいするんだろ?
とりあえずお財布に千円札を一枚突っ込むと、わたしは急いで家を出た。
「あ……」
スーパーの前で、ばったり出くわした佐治くんが、大きなため息をつく。
「外出するときは、必ず連絡しろって言ってあったよな?」
「で、でも、明日の調理実習の材料を買い忘れてて……」
「連絡しなかったことの言い訳になってないだろ」
「それは……こんなことで、佐治くんに迷惑をかけたくなかったの!」
「俺の知らないところでなにかある方が、よっぽど迷惑だ」
「はいはい、二人とも。こんなところで言い争ってたら、お店の迷惑になるから。とりあえず、店の中に入ろうか」
突然、ひげ面で髪がぼさぼさの大柄な男の人に声をかけられ、体が緊張でこわばる。
誰、この人……?
「鮫島さん。急に割り込んできたら、篠崎が怖がるだろ」
佐治くんが、非難するようにそのひげ面の人に向かって言う。
ひょっとして、佐治くんの知り合い?
「ごめんなー。おじさん、こう見えて悪い人じゃないんだ」
「……それ、圧倒的に悪い人間が言うセリフだよ」
佐治くんが小さくため息をつくと、もう一度口を開く。
「でも、本当にこの人は大丈夫だから。とりあえず中に入ろう」
「う、うん……」
まあ、佐治くんが大丈夫って言うんだから、大丈夫なんだよね?
店に入るとすぐ、他の買い物があるという鮫島さんと別れて、わたしは佐治くんと一緒に肉売り場に直行した。
「よかったー。最後の一パックだったよ」
それを手に取ってから、ちらっと佐治くんの方を見る。
そうだ。ひょっとして……。
「佐治くんも、これを買いに来たの?」
「……」
「そ、そうだよね! ごめんね。明日だもんね。だったらこれ、たくさん入ってるみたいだから、明日の朝、半分渡すよ」
幸い二百グラムを優に超えるパック。一人百グラムずつ持っていくことになっていたはずだから、二人分は余裕で入っている。
「いや、同じ班なんだから、わざわざ分けて持っていかなくても問題ないだろ。お金は半分渡すから、明日そのまま持ってきてくれれば、それでいい」
いやいや、それじゃあ問題大アリなんだってば!
『ひょっとして、二人で買い物に行ったの?』なんて思われたら、完全にアウトだよ。
「と、とにかく。わたしがそうしたいだけだから、わたしがちゃんと分けていくって。佐治くんには、絶対に迷惑かけないようにするから」
「荷物が多くなるのがイヤなら、俺が持っていく。そうすれば問題ないだろ」
そう言いながら、佐治くんが、わたしの手からひき肉のパックを奪う。
だからぁ。そういう問題じゃないんだってば!
「ごめんなー。こいつ、そういうのに疎くてさ」
買い物カゴに野菜や肉を山盛りに詰め込だ鮫島さんが、ぱっとひき肉のパックを佐治くんから奪うと、わたしに返してくれた。
「申し訳ないけど、若葉ちゃんに頼んでもいい? 明日、ちゃんと若葉ちゃんから半分受け取るように、こいつにはしっかり言い聞かせておくからさ」
鮫島さんが、申し訳なさそうにわたしに言った。
……あれっ? そういえばわたし、自己紹介なんかしたっけ?
どうして下の名前を知ってるんだろう?
「それじゃあ、もうレジに行っても大丈夫かな? 斗真は、ちゃんと若葉ちゃんのことを、家まで送り届けてやるんだぞ」
「言われなくても行くし」
ムッとしながらも佐治くんがそう言うと、鮫島さんは満足げに何度かうなずいた。
佐治くんが、わたしのボディガードだっていうことも、知っているみたい。
この人、いったい何者なの?
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